第104回 女戦士シャールカの子孫たちは戦う(チェコ)
スメタナの交響詩「わが祖国」。あの「モルダウ」の名旋律の次の曲「シャールカ」が本日のテーマである。
チェコの民話によれば、偉大な女性預言者リブシェ亡きあと、男たちが女たちに乱暴狼藉を働くようになった。怒り心頭に発した女戦士シャールカは、男たちに酒を大盤振る舞いしたのち角笛の合図で女兵士たちを集め、男たちを皆殺しにする。
シャールカの子孫である現代のチェコ女性たちもまた、男たちの暴力にさらされている。
昨年、「18歳以上の女性の2人に1人が性暴力や性的ハラスメントに、10人に1人が強姦にあった」という調査結果が公表された。これに、現代のシャールカたちでつくる非営利団体「プロフェム」が怒った。
首都プラハの住宅地区にある「プロフェム」のオフィスを私が訪問したのは、3年前のちょうど今頃だった。インターンも含めて10人ほどの女性が、広く明るい部屋でパソコンに向かっていた。
その時、頂戴したポスターを見ると、女性が射撃の的になっており、足元から流れる血が、真っ赤なハートにつながっている。ハート横には「愛しているから、つい殴ってしまう」。暴力男のよくある言い訳で、これが加害者を増長させ、暴力が繰り返される。そんな日常を描いている。
プロフェムは、調査、啓発広報などだけでは解決に結びつかないと考えて、昨年末、性暴力の犠牲者に特化した大掛かりな救済装置「総合センター」を造るプロジェクトをスタートさせた。ホームページを見るとネット募金を始めたばかり。2月18日現在で4万6450コルナ(約25万円)が集まったと報告されていた。寄付者にノルウェー政府が名を連ねている。さすがだ。
「性暴力被害者の多くはトラウマを一生引きずります。海外では当たり前の総合センターですが、残念ながらチェコにはありません」と担当者は言う。
待ったなしの緊急救助から始まって、カウンセリング、心理療法、刑事法の支援、医療的治療、社会福祉サービス…やるべきことは世界中同じだ。
では日本は?
日本のシャールカ、野口登志子さん(元鳴門市人権推進課副課長)は、行政府の生ぬるい対策に怒って、被害者支援の法人「白鳥の森」を徳島に発足させた。「公的支援はハードルが高く、一時保護期間も短く実態に合わない。公がやるべきことを私たちがやっているのです」。
日本には、66年も前につくられた売春防止法に依拠した婦人保護事業は存在する。しかし性暴力の被害者に特化した公的保護装置は、チェコ同様、ない。
(三井マリ子/「i女のしんぶん」2022年3月10日号)
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