第94回 「性解放」の文化に痛列な一撃!(フランス)
この4月、フランス国会で、15歳未満との性交は理由の如何を問わず「強姦」とされる刑法改正法が成立した。刑罰は最高20年の禁錮刑だ。近親姦に関しては「18歳未満」とされた。しかし例外もあって、2人の歳の差が5歳以下の場合のみ刑から外される。これは「ロメオとジュリエット条項」というのだそうだ。
フランス刑法は、子どもとの性交を禁じてきた。しかし、「子どもも意思表示できる」とされ、強制・脅迫・偽計によって性交させられたことを子どもの側が証明しなければならず、起訴が非常に難しかった。
国会は、性交同意年齢引き上げを長年議論してきたが、結論は出なかった。それがなぜ、先月、全会一致に至ったのか。
フランスには、女性の「産む産まないを決める権利」を求めて60年以上も闘ってきた団体があり、その「フランス家族計画運動」のポスターがこれだ。
「世界中の女たちすべてに、教育と健康、なによりも危険のない出産を」とうたう。全国に40のクリニックを持ち、相談者は年35万人以上。強姦やFGM(性器切除)などによるトラウマから、避妊や妊娠中絶の手続きまで、性に関わるありとあらゆる問題が持ち込まれる。
移民女性には特に頼られ、ポスターの3人がアフリカ系なのも、それを物語っている。
加えて、今回の改正を確実にしたのは、エリート文化人たちの蛮行が次々に露呈したことだった。
昨年1月、編集者ヴァネッサ・スプリンゴラは『同意』という自伝本を出し、14歳の時、50歳の男性から1年半にわたって性被害を受けたことを告白した。男性は流行作家ガブリエル・マツーネフ。彼女との関係を利用した著作は高く評価された。芸術文化勲章(1995)、文学賞(2013)をとり、年8000ユーロの文学者手当まで受けている。
さらに今年1月、大学教授で弁護士のカミーユ・クシュネルが自伝『大家族』で、義父(実母の再婚相手)が13歳だった彼女の弟に性的虐待を加えていたことを暴露した。義父はオリビエ・デュアメルという元欧州議会議員の憲法学者。マスコミに頻繁に登場する左派知識人だ。
これらの告白本をきっかけに、市民の怒りが大爆発。女性団体は、パリ中の壁という壁に、性被害女性の名前をポスターにして貼りまくるゲリラ戦術を展開した。
カソリックに根ざした性的抑圧からの解放が叫ばれた60年~70年代、その陰で地獄を見てきた子どもや女たちが今、フランスの十八番「自由・解放」に対して猛反撃に出たのだ。
(三井マリ子/「i女のしんぶん」2021年5月10日号)
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