第113回 ユーモアにくるまれた怒りの芸術(ノルウェー)
「ノルウェーに行ってみたい」という人たちに押されて、「男女平等の母国を見に行くツアー」を企画した。20人の視察団に最も強烈な印象を与えた場所が、ノルウェー国立女性博物館だった。20年ほど前になる。
「カミラ・コレットの笑い:女性史150年」という特別展が催されていた。女性が無権利だった19世紀から、男女平等に近づいた現代までのノルウェー女性の150年を再現する芸術群だった。女性芸術家たちが創った19世紀のノルウェー家庭の光景が評判を呼んでいた。
床に這いつくばって、鍋から床に吹きこぼれる煮汁を拭く薄汚れた女性の人形。天井から黒い鉄の大きな重りがぶら下がっている。それには「女というものは何もいいことを成さない」とある。北欧に影響を与えた神学者マルティン・ルターの言葉だという。
タイトルのカミラ・コレットは、元祖フェミニスト小説家。20代で結婚したが、夫が死んで子ども4人が残った。家を売り、3人を里子に出したが、それでも貧乏から抜け出せない。そこで、かの有名な『知事の娘』を出版した。当初は匿名だったそうだ。
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今日のポスターは、博物館の売店で見つけた。「そして神は女性をつくった:女性のからだと理想の美しさ」と題された芸術作品群が、全国巡回展をした時のものだ。博物館管理人のイングン・オーステブルによると、「下着から上着まで、ヘアから靴まで、女性を縛るファッションの数々が『ユーモアにくるまれた怒り』で表現されています」。
ピンクのトルソー(胴体のみの彫刻)は、博物館のあるコングスヴィンゲル市在住のテキスタイル彫刻家シッセル・モーがつくった。
女性像といえば、昔から胸と性器を隠した「恥じらいのポーズ」が定番だ。フィレンツェ・ウッフィッツィ美術館にあるボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』しかり。一方、ポスターの女性像は腰のくびれがないずん胴で、ヒップは小さく、胸も性器もバッチリだ。
かの神学者マルティン・ルターは「男のヒップは小さい。それゆえ賢い。女のヒップは大きい。だから家にじっとすわっている仕事に向いている」などという超非科学的な言葉を残しているそうだ。
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カーリ・ヤコブソン館長の「今日の、当たり前と思っている権利は、過去の無名の女性たちの闘いの末にあるのです。それを知らせるために、この博物館はあります」が、心にしみる。1995年に開館。1982年のデンマークに次ぐ、世界で2番目の女性博物館だという。
(三井マリ子/「i女のしんぶん」2022年12月10日号)
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