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第123回 「死に票なしの社会」とは(ノルウェー)


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民主主義度世界一といわれるノルウェー。その地方選を取材するため、今オスロにいる。

1カ月間の長い事前投票を経て、9月11日(月)が投票日。政党の選挙ポスターがあちこちにあったのだが、翌12日にはウソのようになくなった。以前と違って電子掲示板なので、ボタン操作ひとつで消されてしまう。

このポスターは、社会民主主議を標榜する労働党のもので、「若者たちに毎夏6000のアルバイトを約束します」とうたう。若い男女5人に囲まれた男性はレイモンド・ヨハンセン。2期8年間、オスロ市政を主導してきた。日本で言えば都知事にあたる。

ところが、である。オスロの労働党は連立を組むはずの左派中道系政党と合わせても過半数に達せず、自民党にあたる保守党に主導権を奪われた。

ヨハンセンは、高卒後、老人ホームの介護職をし、後は配管工をしながら政治活動をしてきた。大企業優先の傾向に逆らう彼の人気は高く、世論調査では誰よりも高得票だったのに、彼の党は負けた。理由は、ノルウェーの比例代表制選挙にある。市民が選ぶのは候補者個人ではなく政党だからだ。日本と違って個人の人気投票ではない。

だから政党は、いかに自党の政策が他党と違うかを端的に伝える。テレビ番組は、地方自治選挙であろうと、国会議員である党首の丁々発止を報道する。物価高騰、住宅難などが、労働党中心の現政権に不利に響いた。閣僚の不祥事による辞任、閣僚の夫の株の不明朗売買などスキャンダルも痛かった。

オスロ市は投票率64・2%。各党の獲得票と議席は次の通りだ。ほぼ死に票がない。保守党32・6%(20)、労働党18・4%(11)、緑の党10・2%(6)、左派社会党10・1%(6)、自由党9・1%(6)、進歩党6・1%(4)、赤党5・8%(4)、キリスト教民主党1・7%(1)、新党1・2%(1)。

今回、オスロ市議に初当選したなかには、84歳のグロ・H・ブルントラント元首相(労働党)がいる。首相経験者の市議は初めてではないか。スリランカ移民で福祉職の30代の女性スラクサナ・シバパタン(左派社会党)も初当選した。

西海岸のハラム市では、17歳の女子高生ジェニー・アルベスタ・オーネス(左派社会党)が初当選。最年少議員となった。立候補の弁は「社会の格差をなくすこと。出自も貧富も関係ない平等な社会を目指す」。ベルゲン市では、当選には至らなかったが、ソマリア難民ハッサン・モハムド(緑の党)が出た。

この国のなんという多様性! うらやましい。

(三井マリ子/「i女のしんぶん」2023年10月10月号)


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