第112回 からだは自由だ!(フランス)
高校教員だった頃、1人の生徒が妊娠した。妊娠中絶を選ぶという。相談に乗っていた私は、ひどく狼狽した。一緒に悩んだ。手術なら一刻も早くしないと…。手術費用のカンパが密かに始まった。
あれから40年近く経ったが、女子高生が出産直後の赤ん坊を遺棄したり、殺害したりで逮捕というニュースに接すると、教員時代を思い出す。
セックスに妊娠はつきものだから、手軽で安全な避妊や妊娠中絶が不可欠だ。ところが、世界で何年も前から普及している避妊パッチ、避妊リング、避妊注射、避妊インプラント(皮膚にはめ込むスティック)、緊急避妊ピル(モーニング・アフター・ピル)などを、日本政府はまだ承認しない。90カ国以上で使われているピル(経口避妊薬)ですら手軽に買えない。しかも高い。
それゆえ、日本ではコンドームが主流なのだが、予期せぬ妊娠は避けられない。そうなると非常時には妊娠中絶しかない。日本では「搔爬(そうは)法」という手術がなされる。全身麻酔した身体を産院の手術台に横たえ、子宮けい管を拡張し、子宮から妊娠組織を掻き出す。配偶者の同意も必要で、しかも10万円から20万円はかかる。そこで、冒頭のようなカンパとなる。
世界を眺めれば、もう「手術」から「妊娠中絶薬」に変わっている。フランスが1988年に世界で初めて採用して以来、80カ国以上の国々で普及している。安全で効果がある上、780円と格安だ(WHO)。
日本の厚生労働省も、最近やっと中絶薬を承認すると言い出したのだが、「配偶者の同意が必要だ」などという。なんたる父権主義!
今日のポスターは、妊娠中絶の先進国フランスのもの。このカトリックの国は、気の遠くなるほど長い間、妊娠中絶を禁じてきたが、1975年、厚生大臣シモーヌ・ヴェイユの提案で妊娠中絶自由化法が成立し、フランス女性の悪夢が消えた。
抱き合うからだの美しさ。フランス家族計画運動MFPFがつくった。フランス全土67市町村に支部を持ち、120の事務所で、中高生にセックスと生殖に関する権利の普及活動をしている。写真の下のフランス語は「からだは自由だ」。その下の緑のバナーは「セックス、避妊、妊娠中絶」。
楽しく幸せなセックスは避妊と妊娠中絶の自由から、とうたっている。
(三井マリ子/「i女のしんぶん」2022年11月10日号)
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