見出し画像

第124回 性的搾取を許さない町へ(スペイン)


※画像のみの転用や、無断での二次利用は固くお断りいたします。

この9月、私はノルウェーで地方選挙を現地取材していたのだが、思いがけなく、親友が「航空券をプレゼントするから数日間アリカンテに遊びに行こう」と誘ってくれた。オスロから直行便で3時間半。生まれて初めてのスペインだった。

スペイン・バレンシア州アリカンテ県アルテア。コスタ・ビアンカ(白い浜辺)がどこまでも広がる地中海沿いの町だった。「ノルウェーの1年の半分は白黒の世界でしょ。そこからカラーの別天地にやってくると、わくわくするのよ」と友人は言った。

滞在3日目だった。バスの窓からチラリと見えたポスターが気になった。町の明るさとは真逆な悲しさ漂う眼が、こちらを見ていた。

その夜、「あれは、女性が泣いている写真のような気がする。女性への暴力防止ポスターではないかしら。明日、また行ってみたい」と友人に話し、翌日、連れて行ってもらった。

ポスターはアルテア市警察署そばの掲示板に貼られていた。市の男女平等部がつくったもので、3つのことを知らせていた。

①9月23日は、女性・子どもたちへの性的搾取と人身売買に反対する国際デーである。

②9月19日11時30分、「アルテア・ラジオ」は人身売買反対の番組を放送する。

③11月15日9時30分から14時までアルテア市庁舎で円卓会議を開く。会議にはアメリア・ティガヌス(Amelia Tiganus)が参加する。

アメリアは『売春婦の反乱—被害者から活動家へ』(2021)の著者。世界に知れた買春処罰を求める女性解放運動家だ。1984年ルーマニアのガラチに生まれた。子どもの頃、性暴力の被害にあい、家では虐待され続けた。医師か教師を夢見ていた少女は、精神を病み不登校に。17歳でスペインのアリカンテに連れてこられて5年間売春を強要され、その後、悪の巣窟(彼女は「強制収容所」と呼ぶ)から脱出した。

彼女は、性的搾取をセックスワーク、性的搾取被害者をセックスワーカーなどと矮小化して、買春を容認する現象に徹底して異議を唱える。

「性的に搾取されている女性が世界に一人でもいる限り、男女平等や社会正義、あるいは良い社会について語ることは空しい」「私の個人的な歴史は政治問題なのだから、政治の関与を強く求める」と語る。

アルテア市議会は、今年末、買春処罰条例案を制定する予定だとか。

(三井マリコ/「i女のしんぶん」2023年11月10日)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?