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第135回 ああ、幸せな夏!(デンマーク)


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太陽の下、夏草の上でダンスをする女たち。「ああ、幸せ」と叫んでいる。
沈まない太陽、野の花たち、柔らかな草むら、裸に近い恰好、外での簡単な食事、語らい、ユーモア、ダンス、音楽…夏、北欧人は子どもに戻るのだそうだ。
ポスターは子どもの絵のようだが、絵の下には、シビアな言葉が並ぶ。
「私たちが幸せなのは、女たちのホイスコーレの建物を手に入れたからです。でも、お金が足りません。寄付をお願いします。口座番号9301313」

女たちのホイスコーレは、「叫ぶ芸術101回」で紹介した。
19世紀、デンマークの牧師が貧しい農民のために「生きるための学校」フォルケホイスコーレを創設。北欧中に広がって、今も健在だ。全寮制で試験や成績はなく、学生は教員を先生とは呼ばない。対話や討論を通じて民主主義の力を身につける学校なのだ。
どこも男女共学だが、70年代の女たちは、女性だけのホイスコーレが欲しかった。募金運動が始まった。集まった80万クローネで土地と古いホテルを買い取って、女たちで設計・改造した(すごい!)。開校は1979年。その募金に使われたのが、このポスターである。

女たちは、主に仕事や勉学や家事に縛られにくい夏季に集まった。定員40人。テーマは「女性の歴史」「音楽と演劇」「女性への暴力」「日常生活における交通手段」「女性解放と労働組合」…等々。
学生数が減って1994年に閉校となったのだが、15年後の2009年、不死鳥のようによみがえった。

ある日、1人の女性が学校だった土地の近くを通り過ぎた。
彼女は考えた。「ここで、現在の女たちのために、何かできないだろうか」。友人に言ったら、とんとん拍子に話は進み、「女性のためのコース」と銘打った泊まり込みの学習と交流の場が再生された。
夏季休暇の次に長いイースター休みに開講した。コースは「自己の創造性」「自然とウォーキング」「ダンス」「創造的に物を書くこと」「写真撮影」など。なんと、どのコースも応募者であふれた。
今年は、この10月に、実務コース「この家、なんとかしなきゃ」が加わった。「大工道具箱の中身を知っていますか」に始まり、塗装、研磨、修理、壁や家具の張り替え、その他、様々な大工作業を習って、実際に校舎の修復をするのだという。女たちが不得手な力仕事だが、この学校で、“男に負けない”力量をつけようというのだ。
我が家の屋根が、先日の豪雨で壊れて雨漏りしている。申し込もうかな。

*ポスターはオーフスの国立図書館エヴァ・ルース館長から寄贈された。

(三井マリ子/「i女のしんぶん」2024年10月10日号)

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