第99回 売女と呼ぶのは許さない(スウェーデン)
ポスターの1コマ目は、女の子が、男の子から「売女め」と罵声を浴びせられてしょぼくれている。2コマ目は、女の子が「とんでもない、わたしは魔女よ!」と言い返す。3コマ目は、性的な言葉で侮辱した男の子をカエルに変え、自信をつけて歩き去る。
これは「セクハラやめろ!」(本連載55回)で紹介したセクハラ防止ポスターセットの中の1枚だ。2000年ごろ、スウェーデン男女平等オンブズマンが作成した。
スウェーデンは1998年から数年間、少年少女への性被害を食い止めるため、国をあげて中学生向けセクハラ撲滅プロジェクトを実行した。ポスター作戦はその一環で、中学生が描いた「女の子たちへの反撃のすすめ」だ。
ちょうどその頃、買春禁止法(1998)や子どもポルノ禁止法改正(1999)をめぐって、国会では賛否両論の論戦が火を噴いていた。
中高生たちは、学校内でセクハラにあって怒っていた。「売女」と呼ばれた女の子は、「女性を金で買えるモノと見て、使い終わったら捨てていいと言っているのだ」と憤激した。
1999年10月、ストックホルムのオーセ(Åsö)地区でデモが始まって、スウェーデン中に広がった。「売女と呼ぶな」の真っ赤な大旗を持って中高生が行進するさまは、今でもネットで見ることができる。スローガン「売女と呼ぶな」は、そのまま運動体の名前になった。
デモ行進だけではない。セクハラ退治ハンドブックを作成した。あちこちの学校を訪問しては全校生相手に討論会を企画した。さらには、学校で女生徒向け護身術クラスを新設すること、女性のシェルター予算を増やすことを要望書にして市議会に提出した。
中高生が学校内外で堂々と社会・政治運動に打ち込む様子を知って、日本の学校で教員だった私はキモをつぶした。
世界で最も表現の自由が保障されていると言われるスウェーデンだが、子どもポルノ禁止法は改正に次ぐ改正を重ねて、“表現の自由が保障する枠”の外に置かれることになった。保護対象は生身の子どもだけでなく、雑誌の中の写真、マンガ、アニメ、インターネット上の画像・動画、描画など「子ども一般の尊厳に関わる全て」が含まれる。
日本にも子どもポルノ禁止法はある。しかしそれは生身の子どもに限られている。そのせいか、ウェブ上の少女の性的画像の多くは日本発で、ウェブサイトの73%を占める(米14%、英3%)と国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」が公表している。日本は、「子どもポルノ発信源の国」なのだ。本当に許せない。
(三井マリ子/「i女のしんぶん」2021年10月10日号)
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