平和的に干物を作る(過去記事)
遠い昔、母がどこからともなく面妖な機械を入手してきた。
それは一見普通の物干のようなのだが、フック下部分にモーターが搭載されておりスイッチを入れると物干部分が高速で回転するという干物作りに特化した機械だった。
基本的には赤ちゃんの頭上に設置されるあの回転体と同じ構造といっていい。
この電動魚干し機は、高速回転する事で数倍早く魚を乾燥させる事ができる上見た目おっかないので猫やカラス、ハエなどの天敵も近づく事をためらうという母にとっては正に夢のようなギアだった。
商品が到着した晩、母は喜々としてリビングルームの天井にこれを下げ
開いた鯵を鋏み、家族を並べ、待ちに待った点灯式に臨んだ。
期待に胸を膨らましスイッチを入れると、モーターが回転を始め徐々に加速していった。が、その強力な遠心力により魚体からでた汁がスプリンクラーの如くリビング全方向に撒き散らかされ始め、それを見ていた我々家族にも容赦なく鯵由来の飛沫が浴びせられた。
慌てふためきスイッチの場所をド忘れする機械オンチの母、叫びながら逃げまどう家族達、かまわず猛スピードで暴走する鯵達。
それはまさに地獄絵図としか言いようのない光景で、その日以降その機械の姿を見る事はなかった。
数日前、腹の締まったえぼ鯛が安く売っていたので、干物にする事にした。
干網もあるにはあるが、魚臭くなるので使いたくはない。釣れ過ぎた魚などを今まで何度か干した事があったが、物干を使って夜干しするこの方法がものぐさな自分には最も向いているなと思う。
ただしモーターがついてさえいなければの話だが。
2016.4.4