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筍のはなし

十日間という意味も持つ「旬(じゅん)」。月を三分割すれば「上旬」「中旬」「下旬」となる。そしてこの「旬」の字にに竹冠を載せれば「筍」となる。芽が出て十日までの竹、それが「筍」だ。

十日を待たずとも地表に顔を出した筍は凄まじい勢いで背を伸ばす。この原動力になるのが若筍に含まれる「チロシン」という物質で、これはちょうどタンポポの切り口から染み出す白い汁によく似ている。この「チロシン」はほとんど全てのアミノ酸を含む良質なたんぱく質であり、冬眠明けの熊が好んで食べるのもその滋養を求めるからに他ならない。

掘った筍は時間が経てば経つほどこの「チロシン」を食ってしまうので一刻も早く火を入れたほうがアミノ酸の旨味を満喫できる。京都の料亭「祇園 さゝ木」では、若い衆がバイクをぶっ飛ばして採れたての筍を一分一秒でも早く釜に入れる心臓破りの筍レースが、毎春行われていると本にあったが、自分の場合は「なんとなく切り口が濡れているな」くらいの感じのものを選んでいる。根元のイボイボが赤味がかっていれば更に結構だ。あとは忘れずアク抜きのためのヌカをセットで買えばいい。

料理人である配偶者は徹底的にアクを取り除くが、「春苦味 夏は酢の物 秋辛味 冬は油と合点して食え」と、昔の偉い人(石塚左玄)も言っているようなので、多少のアクはチャームポイントと考えたほうが気がラクだ。

四十肩に響くル・クルーゼは主に重石としてしか使っていない

茹で方も気楽に行きたい。切り込みの入れ方など決まりごとはあるが、別に入れなくても問題ない。たっぷりの水に筍をぶっこみ、浮いてこないよう、落し蓋。無ければ一番重い鍋(往々にしてル・クルーゼ)の蓋でもいいし、水を張ったボウルでも。沸騰したら火を弱め筍に火が入るまで待つ。竹串がスっと通れば茹で上がりのサインだ。フレッシュな筍ほど火が入るのが早い。竹串がない場合は霊視に頼るしか無いが、40分も茹でればたいがい火が入っている(自分調べ)。そのまま冷めるまで放置すれば筍の水煮の完成だ。水に浸けて保存すれば一週間くらい持つ。これも水に浸かって入ればビニールでもなんでもいい。ただし破水には注意したい。

破水に注意

若竹煮、筍ご飯、焼き筍などが王道だが、日頃「筍の水煮を使いたいけど高いからやめとくか」と諦めがちな料理に使うと心ときめく。

首席はグリーンカレーだ。いつも筍とフクロダケ抜きで作っているがやはり入るとクラス感が違う。もちろん中華全般使いまくりたい。シュウマイ、春巻き、肉まん類。八宝菜や麻婆豆腐、担々麺もいい。ただこれらは孟宗竹のあとに出回ってくる真竹や破竹でも十分美味しいので、はしりの筍はやはり和食ということになる。

(しかし破竹はゼンマイなんかと煮るとド渋に旨い)

破竹は六月頃まで手に入るので、焦らず三ヶ月の間たっぷりチロシンをドーピングして地獄の業夏に備えたい。

2020.4.14


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