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su1ca
【毎週ショートショートnote】行列のできるリモコン
お題:行列のできるリモコン
僕は不思議なリモコンを手に入れた。ボタンはたったひとつだけ。光沢を帯びた赤いボタンはまるで苺のようだ。そしてその苺のようなボタンを押すと、蟻の行列が出来上がる。
恐らく何かしらの赤外線でも出ているのだろう。蟻にだけ効くそれは地面に向けて三秒程押し、三分程経てば蟻の行列が出来る。
他には何が出来るのかって? ただそれだけのリモコンだ。
「何してんの?」
「蟻に魔法かけてる」
「えー、何それー」
夕方の公園。小さい子供のかけっこの声が響く中、俺の隣にしゃがんだのは今年中学生になったばかりの向かいの家の瑠衣。僕はここ最近塾で忙しくなかなか会う機会がなかったが、今日はたまたま互いの帰宅の時間が重なったようだ。
蟻の行列を見て瑠衣は、「何の魔法?」と呟き僕の顔を覗き込む。
「蟻の行列を作る魔法」
「行列だけ?」
「行列だけ」
「何かの形にしたりとか」
「ない」
「意味なーい」と笑った瑠衣がポケットから飴を取り出した。ピンク色の苺味。自分の口に放り込んでは、もうひとつを僕の口元に押し付ける。仕方がなく口に含んだそれは、やはり甘かった。
蟻の行列が思い浮かんだので。
青春、香ってるかなあ……。
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