(随時更新)法律を知るための個人的ブックガイド
はじめに
弁護士という仕事をしていると,法律やそれに基づく裁判の機能がどのようなものであるのかを一般の方に知ってもらうためにどうしたらいいのだろうと思うことが少なくありません。
そうした観点から,この記事では法律を知るために非法律家の方が読んでも十分に楽しめる本をつらつらと紹介していきたいと思います。随時更新していこうと思っています(たぶん)。
道垣内弘人「プレップ 法学を学ぶ前に」(弘文堂)
東京大学法科大学院(ロースクール)に入学する未修者向けに行っていた入門講座がもとになっているとのこと。法の解釈や議論の在り方,法体系・法形式・法適用,法律家たち,判決の読み方,学習方法について,一読してわかるように丁寧に解説されている。法律周りのお作法やシステムについて知りたいと思ったらまず読んでおきたい一冊。
山崎聡一郎「子ども六法」(有斐閣)
子ども向けの法律解説本であるが,動物をモチーフにしたかわいいイラストを添えたり,条文や解説に詳細にルビを振っていたり,子どもでも読みこなせるような工夫がきちんとされているところが高得点。少年法といじめ防止対策推進法が取り上げられているのも特徴的。小中学校の図書館に数冊常備しておくべきレベル。もちろん大人の皆さんも。
我妻榮「民法案内1 私法の道しるべ」(勁草書房)
言わずと知れた日本民法学の大家による,民法解説本の一つ。民法に限らない私法全般の基本概念を解説している。民法,会社法,手形小切手法,商法総則についてだいたいのイメージをつかんでおくことはとても大切。
横田明美・小谷昌子・堀田周吾「法学学習Q&A」(有斐閣)
若手研究者による法学学習ガイド。六法の選び方,授業やゼミの活用方法,ノートの取り方などなど,ご自身の経験も交えながら懇切丁寧に解説がされている。推し本コーナーも面白い。法学部に入学したら1年次夏学期のうちに必ず読んでおくべき。
横田明美「カフェパウゼで法学を 対話で見つける〈学び方〉」(弘文堂)
同じ法学部生向けの学習ガイドであるが,こちらは法学部の各年次,ゼミと卒論に分けて細かい解説がされている。「法学学習Q&A」とあわせて学習の指針として座右に置いておくことを推奨。
飯田高「法と社会科学をつなぐ」(有斐閣)
ゲーム理論,囚人のジレンマ,コースの定理などなど,社会科学の基本的な考え方を通じて社会と法の関係を探っていく良著。法社会学の教科書ないし副読本としても最適。条文解釈だけではない法の世界がここに。
アビナッシュ・ディキシット,バリー・ネイルバフ「戦略的思考とは何か エール大学式「ゲーム理論」の発想法」(CCCメディアハウス)
イェール大学教授による,ゲーム理論の解説本。ビジネスからスポーツ,国際政治に至るまで多彩な事例を用いて,ゲーム理論の基礎的な概念を丁寧に解説していく。かなり分厚い本ではあるが,電子書籍だとそれほど負担にも感じないし,値段もお得。
アビナッシュ・ディキシット,バリー・ネイルバフ「戦略的思考をどう実践するか エール大学式「ゲーム理論」の活用法」(CCCメディアハウス)
前著の続き。上級編と解説にはあるが,どの辺が上級編なのかはよくわからなかった。前著と同じく,幅広い事例からゲーム理論の実践方法を詳細に解説してくれる。従来の法律学習だけでは体感できない法の世界を味わうこともできる。
高橋治「名もなき道を」(上・下)(講談社文庫)
ちょっと番外編。「風の盆恋歌」などで知られる著者の長編小説。主人公は元教師であるが,彼の教え子がある理由から医師国家試験の夢を断たれ,その後司法試験を20回受験して不合格となった末に,奇行を繰り返して変死してしまう。その教え子の人生を元教師がひも解くという形式で小説は進んでいくのだが,司法試験受験生が読むと大変身につまされる気分になる。
この小説にはモデルとなる人物がいるが,その遺族が著者と講談社に対し,モデル小説によって名誉を傷つけられたとして出版停止と慰謝料を求めて訴訟を提起した。一審は遺族の請求を棄却したが,控訴審で和解が成立した。こういった経緯を経ていることもあって,残念ながら現在では絶版となっている。司法試験の難しさと受験生のやめるにやめられない気持ちについては良く描写されていると思うので,是非古本屋などで入手して読んでいただければと思う。
日本裁判官ネットワーク「裁判官が答える裁判のギモン」(岩波ブックレット)
現役裁判官または元裁判官で構成する日本裁判官ネットワークが,一般向けに裁判の基礎知識についてつづった一冊。刑事,民事,家事,少年,裁判一般,裁判官というカテゴリーに分けて,よくある疑問を分かりやすく解説。中高生の法教育教材としても使えそう。
日本裁判官ネットワーク「裁判官だから書けるイマドキの裁判」(岩波ブックレット)
日本裁判官ネットワークによるわかりやすい裁判の解説本第二弾。今回は,同性カップル,ハラスメント,保釈,あおり運転…などなど裁判をめぐって最近注目を集めている話題について解説がされている。前著と合わせて読んでいただければ,最近の裁判官が何を考えているのかはわかっていただけると思う。本当はこういう本がもっと売れてほしいんだけどなあ…
浅見理都「イチケイのカラス」(第1巻~第4巻)(モーニングKC)
最近,竹野内豊さん主演で月9ドラマ化も話題となった原作コミック。刑事裁判の裁判官を主人公にした珍しいストーリーであるが,取材と法律監修がとてもしっかりしているため,実務的にも誤りがなく,それでいてエンターテインメント性も十分あり楽しめる。連載自体は終了してしまったが,また再開してくれないだろうか。
本音を言えば,登場人物のみちおは田口浩正さんか松尾諭さんにやってほしかったんだけどなあ…竹野内豊さんじゃイメージが違い過ぎて…いや録画して見るんですけどね…生で見るのは酒場放浪記なので…(小声)