訴訟とは,○○を○○する作業
民事訴訟でも刑事訴訟でもそうだが,私は訴訟というのは○○を○○する作業であると考えている。
さて,みなさんは○○の中には何が入ると考えるだろうか。
間違っても,「相手を懲らしめる作業」ではない。「真実を明らかにする作業」でもない。
正解は,「裁判官を説得する作業」である。
裁判官は,神様ではない。
あくまで,何もわからない状況がスタートで,民事訴訟なら双方の当事者または代理人,刑事訴訟なら検察官と弁護人が提出する主張と証拠を検討し,判決を言い渡す。逆にいえば,訴訟の当事者が提出していない主張や証拠をもとに判決を組み立ててはいけないのであるし,そうした制約がある以上それだけで事件の全容が明らかになるとも限らない。その意味で裁判所は真実を明らかにする場所とはいえないのである(訴訟により,これまで明らかにされてこなかった事実が明らかにされるというある程度の副次的効果はあるかもしれないが)。
そうすると弁護士としては,こちら側に有利な証拠をできるだけ集め,それをもとに主張を展開し,こちらに有利な判決,または有利な和解を引き寄せなくてはならない。こちらの主張する事実に沿う証拠はあるか,その証拠はこちらの主張する事実をどの程度支えてくれるか,にこだわるのは,そのためである。証拠が固いということは訴訟に役立つのは勿論,訴訟になった場合に勝つ(勝訴する,または勝訴的な和解となる)可能性が高まるわけであるから,訴訟前の任意交渉でも大変有利となる。
しかし,残念なことに相談者の中にはこうしたことをあまり理解されない方もけっこういらっしゃる。そんな方に限って,大した証拠もないのに「裁判所なら私の言い分が正しいと認めてくれるはずだ」と根拠のない自信を持っていたりするので,対応に困ることも少なくない。
皆さんも何かしらの紛争に巻き込まれることが予測されるときは,証拠を確保する,という意識を持っていただければ幸いである。証拠の作り方,集め方などについては,また追々書いていけたらと思う。