
“謎のイエローのGuy”はスーパースターでありみんなのヒーローだった/XR LIVE『#ONAKAnoNAKA』感想&雑記
少し前の話になるが、ヴァーチャルユーチューバーであり、ヒップホップアーティストでもある「ピーナッツくん」のオンラインライブ(無料)があった。
私は最近ピーナッツくんの曲にどハマりし、アルバムをめちゃくちゃ聴いていたので楽しみにしていた。ライブは想像以上に完成度が高く、幻想的なライブ空間とピーナッツくんの音楽性にうっとりするほど酔いしれていた。今回はこのライブを見て感じたことをざっくり書いていきたい。
◯
▶︎『Expect patronum!』で開幕

Expect patronumとは、映画「ハリーポッター」に出てくる呪文の一つである。
ハリー・ポッター: "どうやって呼び出すのですか?"
リーマス・ルーピン: "呪文を唱えるんだ。何か一つ、一番幸せだった思い出を、渾身の力で思いつめたときに、初めてその呪文が効く"
(引用元:https://harrypotter.fandom.com/ja/wiki/エクスペクト・パトローナム)
言葉の意味は「守護霊よ来たれ」。呪文を使うときはその人物が最も幸せな記憶を思い浮かべる必要がある。より幸せな記憶がより強力な守護霊を生み出すという。この呪文は、悪霊が飛び交うところで唱え精霊を呼び出し、撃退する効果があるという。
ピーナッツくんはライブ中、この呪文を一緒に歌うよう促す。
「みんなそれぞれの画面の前で歌ってね〜 いくよ〜?
せーのっ Expect patronum! ヤー!」
見ている人それぞれが、画面の前でピーナッツくんの発信するメッセージを感じながら、この不安な世の中に差す一筋の光を掴むように「Expect patronum!」と叫んだことだろう。
愛はまだ一つだけ 割って半分こなんてできないよ
今僕がきみにできること
Expect patronum!
▶︎『幽体離脱』feat.チャンチョ&ぽんぽこ

『幽体離脱』は特に好きな曲で、耳にイヤホンを押し込み、目を閉じて体を丸めて音楽に身を預ける、みたいな聴き方をするのが好きなこの曲ですが、なんとピーナッツくんの魂が幽体離脱してしまう面白い演出。ぽんぽこさんの歌声が優しくて柔らかくて本当に心地よい。
この曲はチャンチョくん(ピーナッツくんのお友達)の楽曲なので、ピーナッツくんの身体にチャンチョを降ろしてチャンチョとして歌っていたのだが、私はチャンチョくんが1番好きなので憑依芸も併せてとても可愛らしくてニコニコしてしまった。他にもデニムくんというまた別のキャラクターを憑依させてクソ気持ち悪い曲を歌っていたりと(憑依の仕方が完璧でひとり感動してた)、エンターテイナーだなぁピーナッツくん!
スピーカーを通してライブを見てたんだけど、全体的にかなり重低音が効いててリアルライブの擬似体験みたいな感じで、本当に無料でいいのか?と思うクオリティだった。
まどろみの内で恍惚とした雰囲気の中、「死」を連想させるリリックがふいに挟み込まれる。"僕が消えなくなってもこの世界はずっと続いてくの" "何があったとしてもきっとしょうがない"
— 酒崎トオル🐑 (@doubututokani) January 24, 2022
浮遊感のあるメロディと物憂げなリリックとの対比に、言いようのない切なさを感じる。https://t.co/sY1AbYeI77
▶︎『KISS』feat.おめがシスターズ
『ペパーミントラブ』feat.名取さな

ピーナッツくんと同じくヴァーチャルユーチューバーのゲストとの楽曲も大変よかった。改めて、『KISS』のイントロが良くて噛み締めながら聴いてた。
やっぱり『KISS』のイントロ痺れる…
— 酒崎トオル🐑 (@doubututokani) February 20, 2022
蠱惑的よね…💋
▶︎『Drippin’ Life』

この曲は、ピーナッツくんのご主人様(メタ的に言ってしまうと中の人)の創作活動での葛藤を歌った曲だ。“ぼくそうです 誰も真似できぬこと 編み出してきた毎日” “高いハードルはダッシュをしてハイジャンプ 出る杭がもっと出て黙らす外野” などのリリックが、地道に積み重ねてきたものの結晶としてこのライブがあると思うと、最近ファンになった私でも胸にくるものがあった。
謎のイエローのガイ 僕はチョーヤバイ
努力人の倍 それくらい しなきゃ作れない
だからみんな見てろよ
僕の描く走馬灯
面白くて急死
面白くて急死
面白くて急死
▶︎『ピーナッツくんのおまじない』feat.チャンチョ&オレンジ博士

「みんな、これは歌えるよね?みんなで合唱する曲だからね、もうそれぞれのデバイスの前でもう近所、ご近所さんに迷惑って言われるくらあぅぁうぉ…」
唯一ご主人様のパートがあるこの曲。ピーナッツくんの存在が、作者自身をも救っていたと歌われている。アニメーションやヒップホップを通して年齢も、Vtuber好きもそうでない人も、国も関係なく愛されているピーナッツくんは現代の救世主となりうるかもしれない。私は本当にそう思う。
ねぇ ピーナッツくん
何言ってんの?
ここはどこ?
きみはだれ?
目を見てよ?
ねぇ
ここリアルじゃないのかも
目を覚ましたら教えてよもう
(チャンチョパート)
ある日YouTubeで見つけたピーナッツくん。この黄色いモンスターはもしかすると私の様なはみ出し者にしか見えていない妖精なのでは?と若干感じていたのだが、同接(※同時接続数。リアルタイムにその生放送の配信を何人が視聴しているかを表す値)は15000人を超えていて、「あぁ、私だけに見えている存在じゃなかった。もう、みんなのヒーローなんだな」と気づき、「ピーナッツくん」という存在の大きさに戦慄した。

間違いなく君がピーナッツくんだ
ぼくを救ってくれたマイヒーロー
楽しいことの中にある不安も
思い出せば良いキバつい黄色
▶︎『SuperChat』ーライブの最高潮を見て分かった「ピーナッツくんはスーパースターだ!」

ライブもいよいよクライマックス、『SuperChat』で盛り上がりは最高潮。superchat(スパチャ)とは、「生配信などでチャット欄で自分のメッセージを目立たせるための権利を購入する機能」で、いわゆる“投げ銭”のこと。ライブで最後に歌われたこの曲はスーパーチャット、及びヴァーチャルユーチューバーを揶揄した(揶揄=からかうの意)曲として知られている。
面白いのは、ピーナッツくん自身もVtubetとして活動していながら、Vtuberを痛烈に批判しているということだ。
SuperChatで買うオモチャ
成金が目をつけるVtuber
先立つのはキャリアよりも金だ!
太客から巻き上げる Red SuperChat
Vtuberとして活動しながらも、Vtuberを取り囲む空気感に違和感を感じ、作品の中でも批判してきたピーナッツくん。一方で、“I don’t need a moneyとか言ってたぼくらも贅沢したいよこの生活”と、自分もその活動の中で利益を得ているし卑しい気持ちも実際にある、と曲の中で言っている。
──むしろよくぞ言ってくれた! という感じなのかもしれませんね。YouTubeの投げ銭機能「スーパーチャット」はある種、近年のVTuberビジネスの代名詞として浸透しています。そういう状況への批判でしょうか。
ピーナッツくん シーンへのdisというよりも──ぼく自身もスーパーチャットの支援をいただいて活動している身分なので、当然自己批判にもなっています。自分を除外した曲ではないということだけは言っておきたいナッツ! ちゃんとリリックには自分も登場していますし!
──ピーナッツくんは楽曲の中で度々VTuberシーンやVTuber業界をdisしてしまう癖があると思うんですけれど、どうしても出てきちゃうんですね。
ピーナッツくん そうなんです。でも、ぼくだけじゃなくて意外にみんなが思っていることだと思うナッツよ。
しかし、今回ピーナッツくんが叫ぶように歌っている後ろでモニターに映されるのは、止まらないSuperchatの雨。でもどうだろう、『SuperChat』で歌われているものと違うのは、この時ファンが投げる大量のSuperchatは、ライブを主催した「Moment tokyo」さんであったり、参加したVtuberや楽曲提供したアーティスト等関わったすべての人々、そして、何よりも、美しいヴァーチャル空間での新しい音楽体験と、Vtuver及びヒップホップアーティストとしての「ピーナッツくん」の、これまで積み上げてきたものの偉大さに対して、投げられたものであったのだ。
みんなを救うヒーローでもあり、確かな技術で観客を魅了するスーパースターであるピーナッツくんが、札束で殴られている光景は圧巻であり、彼しか到達し得ない領域であると私は感じた。時には道化を演じ、ふざけて他のVtuberに絡む場面を見せながらも、自分の活動では決して妥協せず、地道な努力を続けてきた結果のあの圧巻のステージ。生であの現場に立ち会えて幸福だったと思う。

◯
ピーナッツくんはこれから、どんどん音楽を中心に有名になって、ファン層を拡大してゆくであろう。嫌厭されがちな“Vtuber”という文化の印象を覆す役割の一端を、彼は担っているのかも知れない。次はどんな景色を見せてくれるのだろうか。
参考にしたサイト▼
「ハリーポッターのエクスペクトパトローナムの意味!英語&効果は? 」
(https://allzatugaku.com/archives/944)「ハリーポッターwiki『エクスペクト・パトローナム』」
(https://harrypotter.fandom.com/ja/wiki/エクスペクト・パトローナム)「ピーナッツくん『Tele倶楽部』制作秘話、全曲解説超ロングインタビュー
米村智水(https://kai-you.net/article/80751)