『プリンセス駅伝。実業団、主催者、審判長への取材で分かった真実。』
プリンセス駅伝で起きたアクシデント。
事実が伝わらないままでの議論が起こり、そして、バッシングも起きている。
こういった場合、レースの運営に直接関係した方、
全てに取材しないと、本当の真実は分からない。
岩谷産業、三井住友、日本実業団陸上連合、今回のレースの審判長全てに取材し、真実を探った。
そして、このレースから、見えて来た問題の本質にも
触れていく。
まず筆者は、レースをテレビで全て観戦をしていた。
『まさかこのレースをその後取材することになるとは
この時点では、想像もしていなかった。』
レース観戦は趣味の域。
しかし、趣味の域を超えるアクシデントが起きた。
まず2区の岩谷産業飯田選手の四つん這いに
なりながら進んでいる映像。
『これはもう無理だろう』
正直こう思った。
しかし、そのままゴールした。
膝は傷だらけで血が流れていた。
これも非常に衝撃的だったが、その後、またアクシデント。
今度は3区で三井住友岡本選手がフラフラの状態で
折り返し中継点を通過せずに折り返して
審判に戻される映像が写った。
その後岡本選手は審判の判断でレースを止められた。
『この時点で思ったのが、なぜ、監督はレースを
止めさせなかったのか?』
この疑問。
以前から、駅伝関係の取材を続けていること。
そして、かつて、大きなマラソンレースのボランティアを三度経験していることから、筆者の取材スイッチが、ここで入った。
翌日から各関係者の取材に入った。
①岩谷産業への取材
広報部の陸上担当の方が、対応して下さった。
ここで、この時点での衝撃の事実が、判明する。
まず、広報部担当より、この段階でのチームへの直近の直接の取材は全てお断りすると回答があった。
現在約20社の取材依頼があるが、同じ対応を取っているということだった。
当日現地に行かれた担当者の方が、昨日の状況について回答してくれた。
ここで出て来たのが、広瀬監督は二度、大会本部に
選手を止めてくれという連絡をしたという衝撃の事実。
その後の選手生命に関わる事態であり、大会本部側の対応は、大変遺憾だとコメントした。
担当の方によると、選手がレース中に、骨折をした。
接触したかどうかは分かっていない。
映像も残っていないし、本人も一生懸命走っていたので分からない。
前日までは何ら異常は無かった。
そして、レース中に広瀬監督は、監督室で映像を見て
いて、まず一度目の『レースを中止させてくれ』という連絡を大会本部に入れた。
二度目も同じ連絡をした。
後になって分かったことだが、広瀬監督と、監察車に
乗っていた実業団連合の関係者と電話連絡していたのだ。
チームは創部2年目。広瀬監督を迎えて、駅伝中心に、
少し長いスパンで、本選出場を目指していたところ。
3区を走った今田麻里絵選手が、昨年大阪マラソンと
東京マラソンを走った。
怪我をした飯田選手については、会社として、復帰に向けて、出来る限りのサポートをしたい。
ここまでが、岩谷産業への取材。
②日本実業団陸上競技連合
続いて主催者である日本実業団陸上競技連合への取材。
これは実業団陸上競技連合が、ホームページ上に
アップしたもの。
掲載許可を頂いている。
そして、今回の大会運営は福岡陸協にお任せしている。
その上で福岡陸協審判長、専務理事に、今回の件の報告を受けたとのこと。
その報告によると、2区で、選手が、倒れた瞬間は審判は、見ていなかった。
監察車から、たまたま後方を確認した時に、誰か倒れているということを発見した。
監察車を、回して、四つん這いの選手を確認した。
監察車には、審判員と実業団連合担当者、合計2名が乗車していた。
審判員は降りて、選手の状態を確認した。
実業団連合担当者は、車内で、広瀬監督と連絡を取っていた。
審判員は選手から『ゴールまで残り何メートルですか
?』という質問を受けた。
残り300メートルと答えると選手が『このまま中継所まで行きます』と強い意志を示した。
そして車内で監督と連絡を取っていた実業団連合担当者から、広瀬監督の指示が、審判員に伝えられたのが、ゴール手前20メートル。
ただ、ここでも、『そのまま行きます』という強い意志を選手が示したため、止めることは、出来なかった。
これはあくまでも大会主催者側の見解だが、
『あのようなアクシデントは稀で、審判員も気が
動転していたのではないか。』と担当者。
箱根駅伝では、選手の後ろを監督が乗った監察車がついている。
しかし、この駅伝は、距離が42キロ。
道幅も、狭い。
道路許可を取る際に、警察側から、関係車両は、なるべく少なくと言われているそう。
箱根駅伝のような体制をとることは、不可能なのだ。
また、審判員は、各交差点毎に配置されている。
それ以外はボランティアスタッフ。
筆者も大きなマラソンレースのボランティアを経験しているが、棄権したいという選手が出ると、毎回、
審判員のところまで、走って行き、審判員を呼んで来て対応するという体制だった。
今後の対策として、審判車両、メディカル車両を、もう少し増やせるように、警察側と協議。
緊急時の対応を再検討。
連携の手順を見直す。
これが実業団側からの見直し案だ。
③福岡陸協(当日の審判長)への取材
当日の審判長への取材で分かったこと。
まず3区の岡本選手への対応。
審判長は実業団担当者と共に、審判長車に乗って、岡本選手の後方を走行していた。
岡本選手はコース中間点付近で一度給水を行っている。
その後明らかに異変が起きたのは折り返し地点付近。
異常を感じた審判長は、通常は車両が、入らないエリアに、運転手に、指示を出し、車両を入れた。
そこで、車を降りて、選手に付いた。
選手は、折り返し地点の手前で、Uターンしてしまう。
審判長は、再度、折り返し地点をターンするように指示。
車に載せてあった水を与え、口に含ませたり、水を被るように、指示をした。
給水を取ることで、回復することを、見守った。
しかし、意識朦朧とした、状態になったため、審判長は、命の危険があるとの判断、そして審判権限で、選手を止めた。
止める前には、チームスタッフに、『止めますね』と
一声掛けている。
ここでルールの確認。
日本陸上競技連盟駅伝競走基準
第5条の2
競技者が走行不能となった場合、即ち、歩いたり、立ち止まったり、倒れた状態になったときは、役員、チーム関係者等によって、道路の左端に移動させなければならない。その後、続行させるかどうかは審判長、医師(医務員)の判断による。
審判長はこのルールに従って対処した。
このルールを皆さんも理解しておいた方が良い。
駅伝レース中、競技者が走行不能となった場合は、選手に、触れても良いのだ。
役員、チーム関係者等によって、道路の左端に移動させなければならないと明記されている。
そして、審判長か医師(医務員)が、レースを続行させるか判断することが出来る。
レースに戻る。
選手が、レースを棄権した後、救急車が到着する。
しかし、岡本選手は、救急車に乗ることを拒否した。
あの朦朧した状態でも、まだ、襷を繋ぎたいという
意志を示したのだ。
その後、チームスタッフによる説得で、救急車に乗って病院に運ばれた。
2区の審判員は、選手の意志を尊重したいという想いがあった。
別の審判員にも、取材したが、ゴール手前20メートルでゴールしたいと選手が主張したら、自分も、ゴールさせたかもしれないと、コメントした。
この判断については、評価が分かれるかもしれない。しかし、現場では、審判がその時点で、ベストと思ったことが、実施されていたことは間違いない。
今後の対策として、審判車の若干の増台を警察と協議したい。
今回のレースで使われた監察関係車両は、審判長車1台、監察車2台、メディカル1台。
監察車と、メディカル車を、もう少し増やしたい。
監察車を増やすことで、レース中のアクシデントを、早期に発見出来るようにしたい。
メディカル車を増やすことで、緊急時の対応も、早期に対処出来るようにしたい。
後は、審判員全体でのルール認識の共通化。
緊急時の対応の見直し。
福岡陸協は、今回の反省を踏まえて、次の大会に向けての見直し案の検討を始めている。
今回のレースをしっかりと検証して、駅伝レースの教訓にしたいと。
④三井住友海上への取材
三井住友海上の広報部は、今回の運営のレースへの対応については、コメントを差し控えると回答があった。
ただ、岡本選手は、体調も順調に回復し、復調している。
『負の影響は無かった』
チーム全体として、大変悔しい気持ちで一杯。
来年もう一度再チャレンジの意志を固めたので、次のレースに向けてチームを強化していく。
このコメントを広報部陸上部担当の方が寄せてくれた。
取材後記
マスコミが、全てを伝えずに、一部分を切り取って報道しているために、世間が誤解して認識している部分がある。
この誤解が少しでも、解消されればと思い、今回のレースアクシデントに関係した複数の方々に、取材させて頂いた。
複数の視点を基にした、取材を行わないと、本当の真実は、見えて来ない。
映画でも話題になった、『事件は、現場で、起きている。』
取材をして、これを、痛切に感じた。
まずは、レースを続行したいという選手の強い意志。
このバックには、チーム全員の想いがあった。
選手の将来を考えたチームスタッフの判断。
そして必死の伝達。
正確な伝達内容、想いが、レース中の選手に届かなかった無念さ。
現場のレースで、緊迫した判断を迫られた審判。
そして選手の実際のレースで、選手の生命の危機を感じながら、対応した審判長。
それぞれが究極の判断をしていた。
誰が悪いという議論よりも、このレースを検証して、
アクシデントが起きた時にどう対処すれば良いのか?
こちらの議論が重要だと思う。
どのレースでも、起こりうる事態。