Kamasi Washington @恵比寿ガーデンホール 2022.09.21
注・2022年9月21日のライブ後に書いたものなので、年明け後の今読むと時制が合ってない部分があります。執筆当時、編集途中でやる気が途切れるというか、やろうやろうと思ってて先送りにしてタイミングを逃す、といういつものやつが発動されてしまったので、結局3ヶ月あまり眠っていたのでした。久々にnote開いて見つけたので、今更だけどせっかくなのでアップします。
感染状況もあってちょっと躊躇したけど、カマシのライブに行くのは僕にとって義務のようなものなので、今回も行ってきました。Odd Brick Festivalの方が先に決まってたんでそっちに行かなきゃかなと思ってたけど、単独が直前とはいえ決まったのはよかった。
色々と書きたいことがあってうまくまとまらないんですが、今回はこれまでの来日公演では来なかったメンバーが帯同しているのが結構大きなポイントになってたので、メンバー別にあれやこれや書いてみました。案の定、ライブレポみたいな大層なことは書けなくて、いずれのメンバーもだいぶふわふわしたことしか書いてないんですが。ブルーノート東京やビルボードライブ東京みたいに公式がメンバー情報出してくれないので、その代わりにもなれば。まぁでもみんなもう知ってるかな。
Kamasi Washington - tenor sax
言わずと知れた、ロバート・グラスパーと双璧を為す現代ジャズの象徴的存在。カマシはとにかくめちゃくちゃアツく吹きまくるのでブチ上がりますよね。アルバムでもそうだけどライブは尚更。アルバムではストリングスやクワイアまで入れ、軸になるWest Coast Get Down(WCGD)のメンバーには伸び伸びやらせてて、そこのバランスの取り方、アレンジャー、コンポーザーとしてもやっぱすごいんだなって思いますが、そういう部分はライブでも表れてるなと今回改めて思った。父リッキー・ワシントンのソロの後ろで即興でホーンを入れたり(よく見てるとライアンたちと「これ吹くよ」って打ち合わせてることも)、キャメロン・グレイヴスのソロでトニー・オースティンとのバトルっぽくなったときに他の楽器を止めさせたり(そういう展開はジャズではありがちだけど)、そういうその場その場で展開させていく感じとかも今回結構見られて、やっぱそこがコンポーザーでありアレンジャーであり、カマシがバンドリーダーでバンマスなんだということなのかなと。あと今回はキャメロンやダンテ・ウィンスロウなど、他メンバーにソロを任す部分も多かったですね。つってもやっぱカマシのソロはブチ上がるのですが。
(オープナーはこの曲でした。今年2月にデジタル・リリースされたシングル曲)
Ryan Porter - trombone
WCGDメンバーの中ではおそらく一番リーダー作を出している人。この公演の直後にも、自らのドキュメンタリー映画のサントラがリリースされており、今回のライブではそこからのナンバーも披露されました。この人も結構コンポーザーとして優れた人で、『Heaven And Earth』の中の「The Psalmnist」は彼の楽曲だし、他にもあったかもしれない。もちろんプレイヤーとしても抜群で、カマシがいつか「Most Soulful Trombonist」とかMCで言ってた気がしますが、それも結構大袈裟じゃないと思う。あとカマシが誰かのソロの後ろで即興で吹くフレーズにかなり早い段階で合わせるんですよね。今回参加してたダンテ・ウィンスロウや父リッキー・ワシントンはそれよりワンテンポ遅れるというか、ライアンを見て合わせてくというか。その辺はやっぱり長年横で吹いてきたことや、ライアン自身のコンポーザー、アレンジャー的嗅覚?もあるのかなと思います。脇役なんて言ったら悪いけど、カマシの横にこの人あり、という強力な存在ですよね。
(ライアンの最新デジタル・アルバムは自らのドキュメンタリー映画のサントラ。ライブではここからの曲も披露)
Dontae Winslow - trumpet
2000年代ごろからヒップホップ、R&B系のレコーディングに数々参加してきたトランペッター。最近だとDr. Dreのハーフタイム・ショーでライアン・ポーターと一緒にホーンセクションとして参加してました。カマシ・バンドでの来日は今回が初ですが、レコーディングでは『Harmony Of Difference』『Heaven And Earth』『Becoming』、ほかWCGDメンバーの作品にもいくつか参加していて、動画なんかを見てるとライブへの帯同も多い、WCGDファンのわたしとしてはお馴染みの存在。さすがはカマシ・バンドに参加するだけあってソロは強烈。5つのメロディが重なる大曲「Truth」でカマシ以外がソロ取るなんてことあったかな。盛り上がるツボを押さえた、カマシに負けない吹きっぷりで素晴らしかった。
(埋め込みで見られないんですが、Dr. Dreのスーパーボウルのハーフタイムショーの動画です。ダンテとライアンはエミネムのパートから登場)
(8年前の動画ですが、こちらはダンテのリーダーのライブ。カマシと、マイルス・モズリーも参加)
Rickey Washington - soprano sax & flute
カマシの初期の来日時はゲストとして呼び込まれていたPops(おやじさん)。息子世代の若手たちに混じって、しかも息子は怒涛のソロ吹くし、とちょっと心配にもなったものですが、この父にしてカマシあり、という演奏を聴かせてくれます。特にここ何回かの来日を見てて思うのは、この超ド級メンバーの中で最もスピリチュアルなソロなんですよね。フルートやソプラノサックスっていう楽器がそれっぽいのかもしれないけど、キャリアが為せるわざなんじゃないかなと勝手に思ってます。カマシ・バンドのある種のスピリチュアルさは、実は親父さんの存在が説得力を持たせてるんじゃないか、なんて。
(リッキー・ワシントンはあんまり単独の音源がないんですが、こちらは2015年のセルフ・リリース作だそう。ブランドン・コールマン参加)
Patrice Quinn - vocal
リッキー・ワシントンと共に、カマシ・バンドにスピリチュアリティを多大にもたらしているのがヴォーカルのパトリス・クイン。やはり歌、声っていうのは強いんだなと、この大音量のバンドでも彼女の歌声を聴くと思います。「Fist Of Fury」で拳を振りながら歌っていたり、今回はやらなかったけど「Malcolm's Theme」でのシャウトや「The Rhythm Changes」でのヴォーカルは、やっぱりこのバンドには欠かせないピース。あと自分が歌っていないときに、ステージで祈るように踊ってるのが何より印象的ですよね。
(2016年ピッチフォーク・フェスでの「The Rhythm Changes」。終盤のリフレインが感動的。この年、カマシはフジロックにも来てて、ここでのアレンジや展開はそのときのものに近いです)
Cameron Graves - piano & keyboards
WCGDではブランドン・コールマンと双璧を為すピアニスト。WCGDメンバーの中ではちょっと忙しい方で、スタンリー・クラークのバンドメンバーとして何度か来日しているし、自らがリーダーの公演もブルーノートで一度行われましたが、カマシ・バンドに帯同しての来日は今回が初。そして彼の存在が今回一番のサプライズで、今までの来日公演では聴けなかったサウンドがもたらされていた。キャメロンはリーダー作を聴くと分かりますがメタラーで、メタル的な超絶技巧、タッチの強さが特徴的。そういう彼がこのバンドに加わることで、LAのスピリチュアル・ジャズというところに、メタルが持つクラシック的な荘厳さが加わるのです。その雰囲気はこれまでのカマシのアルバムを聴くと感じられます。なにせ『The Epic』冒頭の「Change Of The Guard」は彼のピアノから始まるわけだし、「Clair de Lune」はクラシックそのままのフレーズがイントロとアウトロに入るんだけど、タッチの強さとタメの深さが過剰と言っていいほど。でもそれがめっちゃイイのです。
今回、キャメロンの参加が理由なのか、彼のリーダー作『Planetary Prince』収録の「The End Of Corporatism」(いいタイトルだよね)なんかをやってたのもよかったし、ソロは超絶に弾きまくっていて笑うしかなかった。やっぱりカマシとやるくらいのミュージシャンはこれくらいぶっ飛んでないとな。
(カマシ、ライアン、ロナルド・ブルーナーJr.も参加の「The End Of Corporatism」ライブ)
(キャメロンのリーダーバンドのライブ。ここでのドラムはスタンリー・クラーク・バンドでの同僚、マイク・ミッチェル。生だと音がクソデカい、ガチヤバなドラマーです)
Ben Williams - bass
サプライズその2。ホセ・ジェイムズのバンドメンバー、ホセのRainbow Blondeからヴォーカル・アルバムもリリース、パット・メセニー・ユニティ・グループや、渡辺貞夫や山中千尋をはじめとした日本のジャズミュージシャンのアルバムにも参加、エレクトリックでもアコースティックでも色んなところでサポートしているベン・ウィリアムス。このバンドへの帯同はコロナ前から何度かあった模様(カマシやライアンのインスタで見た気がします)で、NYサイドの人じゃないの?と思っていたんですが、そもそもカマシがジャズファンに知られるきっかけとなったハーヴィー・メイソンの『Chameleon』にも参加していたみたいなので、それがきっかけになったのかもしれないですね(そういえばBIGYUKIもハーヴィー・メイソンのセッション繋がりだっけ)。WCGDといえば、ウッドベースにエフェクトをかけアルコ弾きしながら歌まで歌うマイルス・モズリーという強烈なベーシストがいて、わたしはこの人が大好きなので今回はちょっと残念でしたが、ベン・ウィリアムスが単に代役ではなく、しっかり存在感を示す演奏をしていたのがよかった。まぁこのレベルのミュージシャンになると当たり前なのかもしれないけど、マイルス・モズリーとは違う音とグルーヴで、今までにないバンドの音になってて、いいもの見たなと思いました(なんだその感想)。前回の来日のときのBIGYUKIもそうだけど、バンドのそれまでの魅力はそのままに、新しい人が伸び伸びとやって新しい音を加えられるというか、このバンドの懐の深さを思い知りました。
(最新ソロ作『I Am A Man』からの一曲。こんなR&B/ヒップホップなソロ作を作る一方で、ホセ・ジェイムズのサポート、NYのジャズ系セッションにも呼ばれ、更にカマシともやるという…)
Tony Austin - drums
ツインドラムの相方、ブルーナーが色々派手なので相対的に地味っぽく見えがちですが、決して地味ではないどころかヤバめだし、トニー・オースティンの存在がWCGDを下支えしていると言っていい。それに今調べて知ったけど、彼はプロデューサー/エンジニアでもあって、カマシ含むWCGDメンバーの諸作でも演奏のほかエンジニアやプロデュースワークも務めている重要人物。ブルーナーの派手な叩きっぷりを思うと、実はトニーはアンサンブルの調整役なのかもしれない。実際、ツインドラムは両方とも凄まじい音量でそれがこのバンドの魅力のひとつでもあるんですが、ただただうるさい感じにはなってないのはやっぱりそういうことなのかも。でもトニーもトニーでソロ叩かせればわけわかんないくらい叩くし、見るたび「やっぱすげーなー」と認識を改めさせられる存在です。今回も凄かった。
(トニーとマイルス・モズリーはBFIというユニットを組んでいて、動画も結構あるんですが、カマシ的なスピリチュアル・ジャズとは違うファンキーなユニットでカッコいいのです。こちらはトニーのドラムにフィーチャーしたジルジャンの動画)
Ronald Bruner Jr. - drums
ブルーナーのドラムは本当にフィジカル!という感じで、音量もすごいし動きもプレイも派手で、僕はクリス・デイヴやマーク・ジュリアナと並ぶくらい好きなドラマーです。今回もぶっ飛んでました。でも結構トニーに任せて叩いてない時間があったりしたので、それはサボりか、調整が入ったのかもしれない。今回はそんなに近くで見てないので、ソロ以外ですげー暴れてたみたいなシーンは見てないけど、曲のイントロでタムをぶっ叩いてるところとか、単純に音がデカいのですよ。弟サンダーキャットと共にハードコアバンドのスーサイダル・テンデンシーズにいただけあるなと、これも毎回思うことですが。あと久々の来日公演だったからか、オーディエンスの反応がよくてテンション上がってたのか、去り際にマイクでコール&レスポンスしてたり、ちょっとはしゃいでましたね。ちなみにリーダー作『Triumph』はがっつり歌っててめっちゃカッコいいアルバムです。彼は彼でカマシの音楽性とは違う志向を持っている人なので、やっぱそういう連中が集まってるこのバンドは驚異的ですね。
(ブルーナーはどの動画見ても訳わかんないソロ叩いてたりするんで、どれ見てもいいと思います。こちらはリーダー作。超絶なハード・フュージョン曲とかもありつつ、ロック・アルバム的にも聴ける名作です。頭3曲が大好き。オススメ)