Harvey Mason "Chameleon" を見た 19.10.18

ハーヴィー・メイソンといえば、70年代後半のクロスオーバー/フュージョン時代、スティーヴ・ガッドと双璧を為す人気を誇ったドラマーである。ハービー・ハンコック『Head Hunters』、マリーナ・ショウ『Who Is This Bitch, Anyway ?』、ジョージ・ベンソン『Breezin'』、デイヴ・グルーシン、リー・リトナーの諸作、そして90年代からはスムース・ジャズのバンド、Fourplayのメンバーとしても活動。レジェンドドラマーとして、現代まで多くのドラマーにリスペクトされているし、DJなどで彼のグルーヴを耳にすることもあるだろう。


2014年、ハーヴィー・メイソンがリリースしたアルバム『Chameleon』は、若手の現代ジャズミュージシャンが多く参加していた。ハービー・ハンコック「Chameleon」などを中心に、現代のミュージシャンの感覚を取り入れてアレンジ。クロスオーバー/フュージョンを聴いてきた人にとって、盛り上がりつつあった現代ジャズへの扉を開くものになったのではないかと思う(このアルバムにはカマシ・ワシントンも参加しており、リリース後の来日公演にも帯同した。このアルバムで知り、ライブで演奏を目にしたが、ここまでの活躍ぶりと人気を得ることになるとは)。


そのアルバムに参加、2回目の来日公演時から帯同しているのが、キーボードのマーク・ド・クライヴ・ロウ。勿論今回も参加している。この”カメレオン・バンド”の公演は、マークが参加してから、その方向性がかなり変わった。
最初の来日公演は、カマシ・ワシントン、クリス・ターナーは参加していたものの、ジミー・ハスリップ、ジョン・ビーズリーなど、ベテラン勢で脇を固め、演奏もアルバムの内容に沿ったもの、という印象であった。しかし2年後、2度目の来日公演では陣容が一新、ベースにマイルス・モズリー、キーボードにマーク・ド・クライヴ・ロウが参加。サックスのキース・マックケリー含め、演奏はよりセッション的になったように思う。その方針は、マークをキーボードに据え、ベースにモノネオン、トランペットでジョセフ・ライムバーグを迎えた翌年の公演でも変わらず、むしろ若手ミュージシャンとのセッションによって、ハーヴィーの演奏が(既に巨匠の域なのだが)進化しているようにも感じた。

(↑マーク・ド・クライヴ・ロウのDJ。長いけど、手元が見えるし、単純にめちゃめちゃカッコいい)


今回もマークを中心に、サックスにヘイリー・ニスワンガー、ベースにオマー・ドミニク、そしてヴォーカルでエリック・ドーキンス。正直なことを言えばどの人も知らなかったのだが、それはカマシの時も同じことだ。

ハーヴィーの演奏は、そう劇的に変化をしているということはない。50年近いだろうキャリアを考えれば、ドラマーがこの数年で新たな感覚をモノにする、という方が無理な話だ。それでも、そういった若手と交流しているのがすごい。何より楽しそうだ。フォープレイとか、同世代とのセッションでは出来ないようなアグレッシブなプレイで、なんか発散しているようにも思えた。
一方でマークを含めたメンバーたちも、ハーヴィーという巨匠の懐で存分にプレイしていて、こちらも楽しそう。マークに関しては共演歴が長いし、単純なプレイヤーではなく、サウンドクリエイトやアレンジにも大きく携わっているだろうと思う。このバンド自体、ハーヴィーとマークのプロジェクト、という感じもあるし。それにしても、ヘイリー・ニスワンガーは激アツなソロを聴かせてくれるし、オマー・ドミニクは安定感あるし、エリック・ドーキンスもめっちゃカッコいい。安心して見られて、ミュージシャンたちも楽しそうだし、こちらも楽しかった。

(↑サックスのヘイリー・ニスワンガーが参加するMAE.SUNのアルバムトレイラー)


LAのミュージシャンはNYよりも地域コミュニティ的な意識があって、ハーヴィーがマークやカマシ、その他の若手と共演するのも、そういったLAの地域性といったものだと言える(他にジョージ・デュークやスタンリー・クラークなども、ロナルド・ブルーナーJr.、キャメロン・グレイヴスなど若手をバンドメンバーにしていた)。でもハーヴィー・メイソンというドラマーがそういう役を担うとは思わなかったし、こうした形でレジェンドドラマーを見られるのは嬉しい。
個人的な願望だが、マーク・ド・クライヴ・ロウを軸に若手メンバーを集結させた『Chameleon 2』なり『Chameleon Band Live』なりを出してほしい。すげー欲しい。

(↑今回の公演で演奏されて嬉しかったやつ。元曲はハービー・ハンコック、ジャコ・パストリアス、ハーヴィー・メイソンというトリオ)



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