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「放送法及び電波法の一部を改正する法律案」の調査について(政治家女子48党参議院議員浜田聡議員のお手伝い)

はじめに

 今回は、令和5年3月3日で閣議決定された「放送法及び電波法の一部を改正する法律案」について、調査しました。法案のポイントや疑問点に注目しながら、説明できればと思います。最近、チューナレステレビを買って、地上波が搭載されないとこんなに値段が安いのかと感じたさかサキです。笑

「放送法」と「電波法」とは何か。

 そもそも、放送法とは何でしょうか。

昭和25年法律132号。放送を公共の福祉に適合するように規律し,その健全な発達をはかることを目的とする法律。1950年にそれまで放送事業を規制していた放送用私設無線電信電話規則に代わって新しく制定公布された。民間放送の誕生(1951)以前に制定されたこともあって,その後の技術進歩への対応を中心に数十回にわたる改正が行なわれている。日本放送協会 NHKの組織,運営のほかに,NHKおよび一般放送事業者(民間放送局など)の放送番組編集の自由,番組の基準,放送番組審議機関,放送大学学園などについて規定する。1989年には人工衛星の無線局により行なわれる放送の円滑な実施に資するため,受託放送事業者と委託放送事業者に関する規定が設けられた。

出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

 今や当たり前となった、テレビやラジオといった放送事業ですが、その放送事業の大本となる法律が「放送法」です。放送事業に関する様々な規定が網羅されています。

 次に、「電波法」とは何でしょうか。

昭和 25年法律 131号。電波行政全般の基本を定めた法律。無線電信法 (大正4年法律 26号) を第2次世界大戦後に新しくしたもので,国際電気通信条約およびその付属無線通信規則にそいながら,電波を公平かつ能率的に利用するのが目的である。放送局を含むすべての無線局の免許,監督,無線設備,無線従事者,無線局の運用,電波監理審議会,異議申立ておよび訴訟,伝搬障害防止区域などについて規定している。

出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

 現代では、スマホやWiFiの普及で、電波という存在は身近なものになってきています。電波は、通信や放送とあらゆる場面で用いられています。電波というは、文明の発展に大きく寄与してきましたが、電波を占有されたり、無断で使用されたりすると、私たちの生活に障害をきたす恐れがあります。

 そこで、電波を誰でも平等に使えるよう、制定されたのが、この「電波法」です。電波法では、放送局すべての無線局の免許や設備などを細かく規定しています。

今回の法律案について

 今回、閣議決定された「放送法及び電波法の一部を改正する法律案」の改正内容に関しては、「複数の放送対象地域における放送番組の同一化」「複数の特定地上基幹放送事業者による中継局設備の共同利用」「基幹放送事業者等の業務管理体制の確保に係る規定の整備」がポイントになります。

 最初に、言葉の意味から調べていきましょう。「特定地上基幹放送事業者」とは何でしょうか。放送法から引用します。

二十二 「特定地上基幹放送事業者」とは、電波法の規定により自己の地上基幹放送の業務に用いる放送局(以下「特定地上基幹放送局」という。)の免許を受けた者をいう。

出典:総務省「放送法」第二条

  つまり、自分たちの放送局の免許を受けた者を「特定地上基幹放送事業者」と呼びます。「地上基幹放送」とは何かと言うと、

十五 「地上基幹放送」とは、基幹放送であつて、衛星基幹放送及び移動受信用地上基幹放送以外のものをいう。

出典:総務省「放送法」第二条

 「基幹放送」は以下の通りです。再度、引用します。

二 「基幹放送」とは、電波法(昭和二十五年法律第百三十一号)の規定により放送をする無線局に専ら又は優先的に割り当てられるものとされた周波数の電波を使用する放送をいう。

出典:総務省「放送法」第二条

  簡単に言ってしまえば、日本国内における地上波でのテレビ放送とラジオ放送をしている事業者が「特定地上基幹放送事業者」になります。普段、私たちが見聞きするテレビ放送やラジオ放送は「基幹放送」になります。ちなみに、「衛星基幹放送」は、BS放送やスカパーやWOWWOWといった衛星放送を指します。「移動受信用地上基幹放送」は、主に携帯端末向けの放送であるマルチメディア放送のことを指します。

 言葉の意味を理解してきた所で、この法案はなぜ作られたのでしょうか。総務省HPに掲載されている「放送法及び電波法の一部を改正する法律案の概要」によると、「「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」における取りまとめ等の提言を踏まえ」と記載してあったので、その検討会の内容を見ていきたいと思います。
 
 この検討会では、「放送を取り巻く環境の変化」として、動画配信サービス(YouTubeやネットフリックスなど)の隆盛、視聴スタイルの変化(テレビからスマホへ)それに伴う若者を中心とした「テレビ離れ」 、放送の広告市場の縮小(ネット広告額が地上テレビ広告額を上回る)、 人口減少の加速化などが挙げられています。

 更に、「デジタル時代における放送の意義・役割」において、「守りの戦略」と「攻めの戦略」と題されており、「守りの戦略」では、コスト負担の軽減といった喫緊の課題解決が掲げられ、「攻めの戦略」では、インターネット空間に放送コンテンツがいかに入り込めるかなどが検討されています。

 その環境整備のために必要な方策として、検討会では、「デジタル時代における放送制度の在り方」として、「○マスメディア集中排除原則の見直し ○複数の放送対象地域における放送番組の同一化 ○「共同利用型モデル」に対応した柔軟な参入制度 ○ブロードバンド等による代替に伴う制度整備 ○NHKにおけるインターネット活用業務の制度的位置付け」といった既存制度の見直しを求めています。

 こうして見ると、放送事業者の危機感が伝わってくると共に、既存の枠組みを維持しつつ、いかに乗り切るかという意図が読み取れます。

出典:総務省「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめ(概要)
出典:総務省「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめ(概要)


 では、実際に今回の法律案を見ていきます。最初は「複数の放送対象地域における放送番組の同一化」になります。これは、地方放送局で制作された番組を別の複数の都道府県に横断して放送できるように規制を緩和していくものです。

 例えば、関東圏(1都6県)に住んでいる方が、東京キー局の番組を視聴できるように、複数の県で、別地域の放送局の番組を視聴できるというのです。背景には、テレビ離れや人口減少などで地方テレビ局の経営基盤が芳しくない現状があります。このままでは、地方テレビ局が潰れてしまうという危機感の下、フジテレビやテレ朝などが検討会において、放送対象地域の見直しなどを求めていました。

 地方における放送局の経営を支援するために、国は放送法で、「経営基盤強化認定制度」という制度を設けています。この制度の内容は、以下の通りになります。

○ 地域経済の低迷等に起因して放送事業者の経営状況が悪化する中、地域住民の生活に必要な基幹メディアとして存続するために経営基盤の強化に早期かつ積極的に取り組むことを可能とする制度。
○ 経済事情の変動により放送系の数の目標の達成が困難となるおそれがある等と認められる放送対象地域を「指定放送対象地域」として総務大臣が指定。
○ 「指定放送対象地域」に係る基幹放送事業者は、業務の合理化や組織の再編成等により収益性の向上を図る「経営基盤強化計画」を作成し、総務大臣の認定を受けた場合、放送法・電波法の特例が適用

出典:総務省「放送法及び関係省令等の改正について

  実は、「放送番組の同一化」は、この制度で実施可能になります。「総務大臣の認定を受けた場合、放送法・電波法の特例が適用」という部分で、特例が適用される形になります。しかし、以下の問題点が指摘されています。

 経営基盤強化計画認定制度では放送番組の同一化が可能であるが、経営リスクが顕在化する前に積極的な経営戦略を描きたい場合に利用できない、経営基盤強化計画の申請・認定等の手続きが煩雑で使い勝手が必ずしもよくないといった意見もある。

出典:総務省「〈テキスト版〉デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめ

  要は、この計画は規制やコストが多すぎるのです。そこで、地域の実情に応じながら、放送対象地域の柔軟化を図るために、

第一放送法の一部改正関係
一 複数の放送対象地域における放送番組の同一化
1 現行の経営基盤強化計画の認定制度を改正し、国内基幹放送に係る放送対象地域における国内基幹放送の役務に対する需要の減少等により当該放送対象地域の放送系の数の目標を達成することが困難となるおそれがあるもの等として総務大臣が指定する地域(以下「指定放送対象地域」という。)を
含む地域において、異なる放送対象地域の国内基幹放送事業者が、その個別の経営状態にかかわらず、特定放送番組同一化(二以上の国内基幹放送の放送時間の全部又は一部について、当該二以上の国内基幹放送に係るそれぞれの放送対象地域における放送番組に対する当該放送対象地域固有の需要を満
たすための措置を講じつつ、同一の放送番組の放送を同時に行うことをいう。以下同じ。)の実施に関する方針(以下「特定放送番組同一化実施方針」という。)の認定を受けることができる制度を整備することとすること。(第百十六条の四第一項関係)
2 総務大臣は、特定放送番組同一化実施方針の認定の申請があった場合において、その特定放送番組同一化実施方針が次のいずれにも適合するものであると認めるときは、その認定をするものとすること。(第百十六条の四第三項関係)
㈠ 特定放送番組同一化の対象となる二以上の国内基幹放送に係る放送対象  地域が次のいずれにも適合すること。
①当該放送対象地域が相互に重複しないこと。
②当該放送対象地域のいずれか又は全てが指定放送対象地域であること。
③当該放送対象地域の自然的経済的社会的文化的諸事情が相互に相当程度共通していると認められること。
④当該放送対象地域の数が総務省令で定める数を超えないこと。
㈡ 特定放送番組同一化の対象となる二以上の国内基幹放送に係るそれぞれの放送対象地域における放送番組に対する当該放送対象地域固有の需要を満たすために講ずる措置の内容が、当該需要を満たすために適切なものであること。
3 総務大臣は、認定に係る特定放送番組同一化実施方針が2㈠及び㈡のいずれかに適合しなくなったと認めるとき等は、その認定を取り消すことができることとすること。(第百十六条の五第五項関係)
4 特定放送番組同一化実施方針の認定を受けた国内基幹放送事業者が、当該特定放送番組同一化実施方針に従って特定放送番組同一化を行う場合について、審議機関の設置の特例、基幹放送の受信に係る事業者の責務の特例及び認定放送持株会社の関係会社の責務の特例を設けることとすること。(第
百十六条の六関係)

出典:総務省「放送法及び電波法の一部を改正する法律案

 つまり、人口減少など、放送需要の減少が著しい地域といった総務大臣が指定する地域(「指定放送対象地域」という)に限り、地域性の確保や当該放送対象地域が総務省令の数を超えないなどの条件を加味した上で、複数の放送対象地域における放送番組の同一化を認めるという内容です。「指定放送対象地域」とは、放送法第116条において、以下のように述べられています。

(指定放送対象地域の指定)
第百十六条の二 総務大臣は、国内基幹放送(協会及び学園の放送を除く。以下この款において同じ。)に係る放送対象地域のうち、当該放送対象地域における国内基幹放送の役務に対する需要の減少その他の経済事情の変動により当該放送対象地域の第九十一条第二項第三号に規定する目標を達成することが困難となるおそれがあり、かつ、当該目標を変更することが同号に規定する放送系の数に関する放送対象地域間における格差その他の事情を勘案して適切でないと認められるものを、指定放送対象地域として指定することができる。

出典:総務省「放送法

 先行きも含めて、収入状況が厳しいラジオに係る地域のことを指定放送対象地域としています。いくら、放送インフラは大事とはいえ、だいぶ優遇されているなという印象があります。

出典:総務省「放送法及び関係省令の改正について


出典:総務省「放送法及び関係省令の改正について


 次に、「複数の特定地上基幹放送事業者による中継局設備の共同利用」についてです。現在の地上波における放送事業者は、全てハード面とソフト面を一致させる形を(一致型)選択しています。2010年の放送法改正で、ハード面とソフト面の分離が原則となりましたが、事業者側の要望で、選択制となっています。これは、現在の放送局では、制作や編成、送出、伝送など全ての業務を一体となって行っています。

 しかし、人口減少や放送環境の激変により、放送事業者の経営が厳しくなり、放送インフラの維持管理が難しくなることが想定されています。そこで、そのような事態を見越して、事業の効率化を図るため、以下のような規定が設けられました。

二 複数の特定地上基幹放送事業者による中継局設備の共同利用
1 特定地上基幹放送事業者が他者の中継局を用いるための規定の整備
㈠ 特定地上基幹放送事業者は、第九十三条第一項の認定を受けないで、特定地上基幹放送局を用いる方法のほか、特定地上基幹放送局を用いる方法により地上基幹放送の業務を行う放送対象地域と同一の放送対象地域において、基幹放送局提供事業者と第百十七条第一項に規定する放送局設備供
給契約を締結し、当該基幹放送局提供事業者の中継地上基幹放送局(放送系において他の放送局から放送をされる放送番組を受信し、その内容に変更を加えないで同時にその再放送をする地上基幹放送の業務に主として用いられる基幹放送局をいう。以下同じ。)を用いる方法により、地上基幹放送の業務を行うことができることとすること。(第百五条の二第一項関係)
㈡ 特定地上基幹放送事業者は、中継地上基幹放送局を用いる方法により地上基幹放送の業務を行おうとするときは、総務省令で定めるところにより、当該業務に用いる電気通信設備(基幹放送局提供事業者の基幹放送局設備を除く。)及びその運用のための業務管理体制(特定地上基幹放送事業者が当該電気通信設備の一部を構成する設備の運用を他人に委託しようとする場合にあっては、委託先における業務管理体制を含む。)が総務省令で定める基準に適合することについて、総務大臣の確認を受けなければならないこととすること。(第百五条の二第二項関係)
2 日本放送協会が他の特定地上基幹放送事業者と中継局設備を共同利用するための規定の整備
㈠ 日本放送協会(以下「協会」という。)は、第二十条第一項第一号の業務を効率的に遂行するため、総務大臣の認可を受けて、収支予算、事業計画及び資金計画で定めるところにより、次に掲げる業務を行うことを主たる目的とする会社に出資することができることとし、この場合において、協会は、当該出資をしている間、当該出資をした者を子会社(協会がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の協会がその経営を支配している法人として総務省令で定めるものをいう。
以下同じ。)として保有しなければならないこととすること。(第二十条第一項第一号及び第二十条の二第一項関係)
① 指定地上基幹放送地域(人口、地理的条件その他の事情により協会が当該地域における地上基幹放送の提供に必要な放送設備の全部を自ら保有するための費用が他の地域に比して多額であり、協会が基幹放送局提供事業者の提供する基幹放送局設備(中継地上基幹放送局に係るものに限る。
以下同じ。)を利用することにより業務の効率化を図る必要性が特に高い地域として総務大臣が指定する地域をいう。以下同じ。)において、基幹放送局設備の保有及び管理をすること。
② 指定地上基幹放送地域において、協会その他の基幹放送事業者との契約に基づき、①の基幹放送局設備を当該基幹放送事業者の地上基幹放送の業務の用に供すること。
㈡ 協会は、第八十五条第一項の総務大臣の認可を受けて、収支予算、事業計画及び資金計画で定めるところにより、基幹放送局提供子会社(㈠の規定に基づき出資した子会社をいう。)に対し、指定地上基幹放送地域における地上基幹放送の業務に用いられる中継地上基幹放送局及びこれに附属する放送設備を譲渡することができることとすること。(第二十条の二第四項及び第八十五条第二項関係)

出典:総務省「放送法及び電波法の一部を改正する法律案

 放送事業者側は、事業の効率化のために、総務省令で定められている基準に適合するか総務大臣から確認を受けた上で、他者の中継局を用いて、地上基幹放送の業務を可能としました。

 また、日本放送協会(NHK)は、他の事業者に比べ、放送に係る設備費用が多額なため、総務大臣が認定した地域に限ることと、他者の中継局を譲渡するのはNHKの子会社にするといった制約はありますが、他者の中継局を共同利用しながら、自身の放送業務の効率化のために、中継局の共同利用を推し進めています。ここにも、放送事業側の焦りというか危機感が伝わってきます。

 最後は、「基幹放送事業者等の業務管理体制の確保に係る規定の整備」になります。放送法及び同法施行規則では、自然災害・停電など外部要因による放送事故の防止を防ぐために、以下の対策をとるよう放送事業者側に求めています。

耐震対策
第百七条 放送設備の据付けに当たつては、通常想定される規模の地震による転倒又は移動を防止するため、床への緊結その他の耐震措置が講じられなければならない。
2 放送設備は、通常想定される規模の地震による構成部品の接触不良及び脱落を防止するため、構成部品の固定その他の耐震措置が講じられたものでなければならない。
3 その損壊等により放送の業務に著しい支障を及ぼすおそれのある放送設備に関しては、前二項の耐震措置は、大規模な地震を考慮したものでなければならない。
(機能確認)
第百八条 放送設備の機器の機能を代替することができる第百四条に規定する予備の機器は、定期的に機能確認等の措置が講じられていなければならない。
2 放送設備の電源設備は、定期的に電力供給状況の確認等の措置が講じられていなければならない。
停電対策
第百九条 放送設備は、通常受けている電力の供給に異常が生じた場合において放送の業務に著しい支障を及ぼさないよう自家用発電機又は蓄電池の設置その他これに準ずる措置が講じられなければならない。
2 前項の規定に基づく自家用発電機の設置又は移動式の電源設備の配備を行う場合には、それらに使用される燃料について、必要な量の備蓄又は補給手段の確保に努めなければならない。
送信空中線に起因する誘導対策
第百十条 送信空中線に近接した場所に設置する放送設備、工作物、工具その他送信空中線に近接した場所に設置するものは、送信空中線からの電磁誘導作用による影響を防止する措置が講じられていなければならない。
防火対策
第百十一条 放送設備を収容し、又は設置する機器室は、自動火災報知設備及び消火設備の適切な設置その他これに準ずる措置が講じられたものでなければならない。
屋外設備
第百十二条 屋外に設置する空中線(給電線を含む。)及びその附属設備並びにこれらを支持し又は設置するための工作物(次条の建築物を除く。次項において「屋外設備」という。)は、通常想定される気象の変化、振動、衝撃、圧力その他設置場所における外部環境の影響を容易に受けないものでなければならない。
2 屋外設備は、公衆が容易にそれに触れることができないように設置されなければならない。
放送設備を収容する建築物
第百十三条 放送設備を収容し、又は設置する建築物は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 当該放送設備を安全に設置することができる堅固で耐久性に富むものであること。
二 当該放送設備が安定に動作する環境を維持することができること。
三 当該放送設備を収容し、又は設置する機器室に、公衆が容易に立ち入り、又は公衆が容易に放送設備に触れることができないよう施錠その他必要な措置が講じられていること。
耐雷対策
第百十四条 放送設備は、落雷による被害を防止するための耐雷トランスの設置その他の措置が講じられていなければならない。
宇宙線対策
第百十五条 人工衛星に設置する放送設備は、宇宙線による影響を容易に受けないための放射線対策が講じられた構成部品の使用その他の措置が講じられていなければならない。

出典:総務省「放送法施行規則

  放送事業者に対しては、基幹放送の業務で使用する電気通信設備に係る耐震対策や停電対策、防火対策などを求めています。また、放送事故には人為的なミスによる事故や外的要因による事故があるため、5年ごとによる放送事業者の認定更新と免許(再免許も含む)を行い、そのタイミングで業務管理体制の確保の確認のため、基幹放送事業者の「技術的能力」を審査しています。しかし、近年における経営環境の変化や経営の効率化による業務委託の増加により、5年ごとの「技術的能力」の審査だけでは、業務管理体制の確保が難しくなっています。そこで、本法案では、以下のようになります。

三 認定基幹放送事業者等の業務管理体制の確保に係る規定の整備
1 基幹放送の業務の認定の申請書の記載事項として、基幹放送設備の一部を構成する設備の運用を他人に委託しようとする場合にあっては、当該設備の概要及び委託先の氏名又は名称を追加することとすること。(第九十三条第二項関係)
2 認定基幹放送事業者が申請事項を変更しようとするときに、あらかじめ、総務大臣の許可を受けなければならない対象として、1の設備の概要及び委託先の氏名又は名称を追加することとすること。
(第九十七条関係)
3基準適合維持義務の対象として、基幹放送設備等の運用のための業務管理 体制(基幹放送設備等の運用を他人に委託している場合にあっては、委託先における業務管理体制を含む。以下同じ。)を追加することとすること。(第百十一条第一項、第百十二条及び第百二十一条第一項関係)
4 基準適合維持義務の履行を確保するため、重大事故の報告義務の対象として、業務管理体制の不適切な運用に起因する事故を含めるとともに、総務大臣による改善命令及び報告徴収の対象として、業務管理体制に関する事項を含めることとすること。(第百十三条から第百十五条まで及び第百二十二
条から第百二十四条まで関係)

出典:総務省「放送法及び電波法の一部を改正する法律案要綱

  法案では、放送事業者(委託先も含めて)に対して、電気通信設備の運用のための業務管理体制を総務省令で定めている基準に適合するよう維持する義務を課したり、放送業務の認定や放送局の免許の申請書に、委託先の氏名や名称を追加することで、総務大臣が委託の実態を把握することを可能にしたり、放送事業者に対して報告義務を課している重大事故の対象に、業務管理体制の不備が原因で起きてしまった事故を追加するとともに、報告事業者に対する改善命令及び報告徴収の対象に、業務管理体制に関する事項を含めるようにしました。

 放送事業を取り巻く環境の変化に、事業者側がいかに対応していくかが課題意識としてあり、地方における放送局の経営基盤の強化をしていくために、色々と策を練っているのが読み取れます。最後に、私の意見を述べさせていただきます。


筆者の意見

 さて、法律の内容を中心に、今まで書いてきましたが、最後に私の意見を述べさせて頂きたいと思います。
 
 まず、「経営基盤強化認定制度」に絡む話です。今回の法律案には、「複数の放送対象地域における放送番組の同一化」を推進するために、経営基盤強化認定制度の要件を緩和していく方向になっています。ここで、気になる点があります。令和5年2月に総務省HPで掲載されている「事前の規制評価(要旨)」に「複数の放送対象地域における放送番組の同一化」の【課題及び課題の発生原因】という項目で以下のように記載されています。

現在、既に経営困難状態にある基幹放送事業者の収益性向上の取組支援を目的として、経営基盤強化計画認定制度を設けている。当該制度を利用すると放送番組の同一化を行うこと等が可能となり、固定的経費を抑制する効果があるが、基幹放送事業者としては、当該認定制度の利用申請をすることで自社が経営危機状況にあることを自認することとなり、また、総務省において当該制度を利用したことが公表されるため、出資先や取引先に悪影響を与えかねない等の理由から、当該制度の創設後 10 年弱が経過した現在も申請の実績がない。

出典:総務省「規制の事前評価書(簡素化)]

  「経営基盤強化認定制度」を利用することで、「自社が経営危機状況にあることを自認すること」となり、この制度を利用したことが総務省に公表されるのが、取引先や出資先に悪影響を及ぶため、現在もこの制度への申請がないそうです。
 
 もちろん、自社の経営状況が悪いことを公表したくないのは、気持ちとして分からなくもないですが、では、何のためにこの制度を創設したのでしょうか。10年経って未だに申請がないのであれば、この制度は廃止でよいのではないでしょうか。いつまでも、この制度を温存させておく必要があるのか、疑問です。法案で規制を緩和するのではなく、現行制度の廃止を進めるのが筋ではないでしょうか。

 国会では、経営基盤強化認定制度を未だに放送事業者側が利用申請していない理由を再度明らかにし、更なる規制緩和(経営基盤強化認定制度の廃止)を強く求めたいと思います。

  そもそも、将来的な日本における放送インフラのあり方を考えますと、現行制度(電波法や放送法)が果たして時代の変化に対応しているのか疑問です。地上放送への新規参入は、電波法の定める免許制度が足かせになっていると私は考えます。衛星放送の参入は、近年増えていますが、参入のペースが遅いのは否めません。これでは、放送業界の新陳代謝は望めないでしょう。一方、インターネット空間は隆盛を極め、数年前はトップを走っていたYouTubeですら、新たな競争相手と戦わないといけない状況です。少子化の加速や多様化する生活様式の影響で、ユーザーが持つ時間の奪い合いは激化しています。そんな中、規制でがんじがらめになっている既存の放送事業者は、群雄割拠している新しい事業者に立ち向かえるのでしょうか。テレビやラジオといった放送事業は、過渡期を通り過ぎ、存在そのものを問われているような気がしていると筆者は思います。

 現に、チューナレステレビといった地上波が通らないテレビが世に出回り始めました。「テレビ離れ」は当たり前になりつつあります。もう、時代の変化に合わせようなどと呑気に言っている場合ではないのです。

 その為には、時代にそぐわない現行制度の廃止や新規参入を促すために、免許に関する要件の緩和も視野に入れるべきでしょう。既存の枠組みを取り払い、日本全国の放送局が地域関係なく、放送できるように目指した方がいいでしょう。私が述べていることが果たして、暴論でしょうか。既存の規制を改革し、放送事業者の自由度を高め、業界全体の新陳代謝を促すことが、日本における放送事業の復活ないしは、日本における放送インフラの維持につながるのではないでしょうか。

 今回の改正案は、規制緩和もあるにはありますが、まだまだ規制によるコストが残存されています。規制改革による放送事業の活性化を切に望みます。私事ではありますが、少年時代、テレビを視て育った人間としての願いでもあります。以上で、私の調査を終了します。ご拝読ありがとうございます。


 

 



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