はじめに
今回は、令和5年3月3日で閣議決定された「放送法及び電波法の一部を改正する法律案」について、調査しました。法案のポイントや疑問点に注目しながら、説明できればと思います。最近、チューナレステレビを買って、地上波が搭載されないとこんなに値段が安いのかと感じたさかサキです。笑
「放送法」と「電波法」とは何か。
そもそも、放送法とは何でしょうか。
今や当たり前となった、テレビやラジオといった放送事業ですが、その放送事業の大本となる法律が「放送法」です。放送事業に関する様々な規定が網羅されています。
次に、「電波法」とは何でしょうか。
現代では、スマホやWiFiの普及で、電波という存在は身近なものになってきています。電波は、通信や放送とあらゆる場面で用いられています。電波というは、文明の発展に大きく寄与してきましたが、電波を占有されたり、無断で使用されたりすると、私たちの生活に障害をきたす恐れがあります。
そこで、電波を誰でも平等に使えるよう、制定されたのが、この「電波法」です。電波法では、放送局すべての無線局の免許や設備などを細かく規定しています。
今回の法律案について
今回、閣議決定された「放送法及び電波法の一部を改正する法律案」の改正内容に関しては、「複数の放送対象地域における放送番組の同一化」「複数の特定地上基幹放送事業者による中継局設備の共同利用」「基幹放送事業者等の業務管理体制の確保に係る規定の整備」がポイントになります。
最初に、言葉の意味から調べていきましょう。「特定地上基幹放送事業者」とは何でしょうか。放送法から引用します。
つまり、自分たちの放送局の免許を受けた者を「特定地上基幹放送事業者」と呼びます。「地上基幹放送」とは何かと言うと、
「基幹放送」は以下の通りです。再度、引用します。
簡単に言ってしまえば、日本国内における地上波でのテレビ放送とラジオ放送をしている事業者が「特定地上基幹放送事業者」になります。普段、私たちが見聞きするテレビ放送やラジオ放送は「基幹放送」になります。ちなみに、「衛星基幹放送」は、BS放送やスカパーやWOWWOWといった衛星放送を指します。「移動受信用地上基幹放送」は、主に携帯端末向けの放送であるマルチメディア放送のことを指します。
言葉の意味を理解してきた所で、この法案はなぜ作られたのでしょうか。総務省HPに掲載されている「放送法及び電波法の一部を改正する法律案の概要」によると、「「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」における取りまとめ等の提言を踏まえ」と記載してあったので、その検討会の内容を見ていきたいと思います。
この検討会では、「放送を取り巻く環境の変化」として、動画配信サービス(YouTubeやネットフリックスなど)の隆盛、視聴スタイルの変化(テレビからスマホへ)それに伴う若者を中心とした「テレビ離れ」 、放送の広告市場の縮小(ネット広告額が地上テレビ広告額を上回る)、 人口減少の加速化などが挙げられています。
更に、「デジタル時代における放送の意義・役割」において、「守りの戦略」と「攻めの戦略」と題されており、「守りの戦略」では、コスト負担の軽減といった喫緊の課題解決が掲げられ、「攻めの戦略」では、インターネット空間に放送コンテンツがいかに入り込めるかなどが検討されています。
その環境整備のために必要な方策として、検討会では、「デジタル時代における放送制度の在り方」として、「○マスメディア集中排除原則の見直し ○複数の放送対象地域における放送番組の同一化 ○「共同利用型モデル」に対応した柔軟な参入制度 ○ブロードバンド等による代替に伴う制度整備 ○NHKにおけるインターネット活用業務の制度的位置付け」といった既存制度の見直しを求めています。
こうして見ると、放送事業者の危機感が伝わってくると共に、既存の枠組みを維持しつつ、いかに乗り切るかという意図が読み取れます。
では、実際に今回の法律案を見ていきます。最初は「複数の放送対象地域における放送番組の同一化」になります。これは、地方放送局で制作された番組を別の複数の都道府県に横断して放送できるように規制を緩和していくものです。
例えば、関東圏(1都6県)に住んでいる方が、東京キー局の番組を視聴できるように、複数の県で、別地域の放送局の番組を視聴できるというのです。背景には、テレビ離れや人口減少などで地方テレビ局の経営基盤が芳しくない現状があります。このままでは、地方テレビ局が潰れてしまうという危機感の下、フジテレビやテレ朝などが検討会において、放送対象地域の見直しなどを求めていました。
地方における放送局の経営を支援するために、国は放送法で、「経営基盤強化認定制度」という制度を設けています。この制度の内容は、以下の通りになります。
実は、「放送番組の同一化」は、この制度で実施可能になります。「総務大臣の認定を受けた場合、放送法・電波法の特例が適用」という部分で、特例が適用される形になります。しかし、以下の問題点が指摘されています。
要は、この計画は規制やコストが多すぎるのです。そこで、地域の実情に応じながら、放送対象地域の柔軟化を図るために、
つまり、人口減少など、放送需要の減少が著しい地域といった総務大臣が指定する地域(「指定放送対象地域」という)に限り、地域性の確保や当該放送対象地域が総務省令の数を超えないなどの条件を加味した上で、複数の放送対象地域における放送番組の同一化を認めるという内容です。「指定放送対象地域」とは、放送法第116条において、以下のように述べられています。
先行きも含めて、収入状況が厳しいラジオに係る地域のことを指定放送対象地域としています。いくら、放送インフラは大事とはいえ、だいぶ優遇されているなという印象があります。
次に、「複数の特定地上基幹放送事業者による中継局設備の共同利用」についてです。現在の地上波における放送事業者は、全てハード面とソフト面を一致させる形を(一致型)選択しています。2010年の放送法改正で、ハード面とソフト面の分離が原則となりましたが、事業者側の要望で、選択制となっています。これは、現在の放送局では、制作や編成、送出、伝送など全ての業務を一体となって行っています。
しかし、人口減少や放送環境の激変により、放送事業者の経営が厳しくなり、放送インフラの維持管理が難しくなることが想定されています。そこで、そのような事態を見越して、事業の効率化を図るため、以下のような規定が設けられました。
放送事業者側は、事業の効率化のために、総務省令で定められている基準に適合するか総務大臣から確認を受けた上で、他者の中継局を用いて、地上基幹放送の業務を可能としました。
また、日本放送協会(NHK)は、他の事業者に比べ、放送に係る設備費用が多額なため、総務大臣が認定した地域に限ることと、他者の中継局を譲渡するのはNHKの子会社にするといった制約はありますが、他者の中継局を共同利用しながら、自身の放送業務の効率化のために、中継局の共同利用を推し進めています。ここにも、放送事業側の焦りというか危機感が伝わってきます。
最後は、「基幹放送事業者等の業務管理体制の確保に係る規定の整備」になります。放送法及び同法施行規則では、自然災害・停電など外部要因による放送事故の防止を防ぐために、以下の対策をとるよう放送事業者側に求めています。
放送事業者に対しては、基幹放送の業務で使用する電気通信設備に係る耐震対策や停電対策、防火対策などを求めています。また、放送事故には人為的なミスによる事故や外的要因による事故があるため、5年ごとによる放送事業者の認定更新と免許(再免許も含む)を行い、そのタイミングで業務管理体制の確保の確認のため、基幹放送事業者の「技術的能力」を審査しています。しかし、近年における経営環境の変化や経営の効率化による業務委託の増加により、5年ごとの「技術的能力」の審査だけでは、業務管理体制の確保が難しくなっています。そこで、本法案では、以下のようになります。
法案では、放送事業者(委託先も含めて)に対して、電気通信設備の運用のための業務管理体制を総務省令で定めている基準に適合するよう維持する義務を課したり、放送業務の認定や放送局の免許の申請書に、委託先の氏名や名称を追加することで、総務大臣が委託の実態を把握することを可能にしたり、放送事業者に対して報告義務を課している重大事故の対象に、業務管理体制の不備が原因で起きてしまった事故を追加するとともに、報告事業者に対する改善命令及び報告徴収の対象に、業務管理体制に関する事項を含めるようにしました。
放送事業を取り巻く環境の変化に、事業者側がいかに対応していくかが課題意識としてあり、地方における放送局の経営基盤の強化をしていくために、色々と策を練っているのが読み取れます。最後に、私の意見を述べさせていただきます。
筆者の意見
さて、法律の内容を中心に、今まで書いてきましたが、最後に私の意見を述べさせて頂きたいと思います。
まず、「経営基盤強化認定制度」に絡む話です。今回の法律案には、「複数の放送対象地域における放送番組の同一化」を推進するために、経営基盤強化認定制度の要件を緩和していく方向になっています。ここで、気になる点があります。令和5年2月に総務省HPで掲載されている「事前の規制評価(要旨)」に「複数の放送対象地域における放送番組の同一化」の【課題及び課題の発生原因】という項目で以下のように記載されています。
「経営基盤強化認定制度」を利用することで、「自社が経営危機状況にあることを自認すること」となり、この制度を利用したことが総務省に公表されるのが、取引先や出資先に悪影響を及ぶため、現在もこの制度への申請がないそうです。
もちろん、自社の経営状況が悪いことを公表したくないのは、気持ちとして分からなくもないですが、では、何のためにこの制度を創設したのでしょうか。10年経って未だに申請がないのであれば、この制度は廃止でよいのではないでしょうか。いつまでも、この制度を温存させておく必要があるのか、疑問です。法案で規制を緩和するのではなく、現行制度の廃止を進めるのが筋ではないでしょうか。
国会では、経営基盤強化認定制度を未だに放送事業者側が利用申請していない理由を再度明らかにし、更なる規制緩和(経営基盤強化認定制度の廃止)を強く求めたいと思います。
そもそも、将来的な日本における放送インフラのあり方を考えますと、現行制度(電波法や放送法)が果たして時代の変化に対応しているのか疑問です。地上放送への新規参入は、電波法の定める免許制度が足かせになっていると私は考えます。衛星放送の参入は、近年増えていますが、参入のペースが遅いのは否めません。これでは、放送業界の新陳代謝は望めないでしょう。一方、インターネット空間は隆盛を極め、数年前はトップを走っていたYouTubeですら、新たな競争相手と戦わないといけない状況です。少子化の加速や多様化する生活様式の影響で、ユーザーが持つ時間の奪い合いは激化しています。そんな中、規制でがんじがらめになっている既存の放送事業者は、群雄割拠している新しい事業者に立ち向かえるのでしょうか。テレビやラジオといった放送事業は、過渡期を通り過ぎ、存在そのものを問われているような気がしていると筆者は思います。
現に、チューナレステレビといった地上波が通らないテレビが世に出回り始めました。「テレビ離れ」は当たり前になりつつあります。もう、時代の変化に合わせようなどと呑気に言っている場合ではないのです。
その為には、時代にそぐわない現行制度の廃止や新規参入を促すために、免許に関する要件の緩和も視野に入れるべきでしょう。既存の枠組みを取り払い、日本全国の放送局が地域関係なく、放送できるように目指した方がいいでしょう。私が述べていることが果たして、暴論でしょうか。既存の規制を改革し、放送事業者の自由度を高め、業界全体の新陳代謝を促すことが、日本における放送事業の復活ないしは、日本における放送インフラの維持につながるのではないでしょうか。
今回の改正案は、規制緩和もあるにはありますが、まだまだ規制によるコストが残存されています。規制改革による放送事業の活性化を切に望みます。私事ではありますが、少年時代、テレビを視て育った人間としての願いでもあります。以上で、私の調査を終了します。ご拝読ありがとうございます。