ロードバイク考 アルミ

前回はクロモリについて余計なことを書きまくってしまいました。
今回は、アルミについて少し触れたいと思います。

……少し?

アルミって皆さんはどんなイメージがあるでしょうか。
自転車業界で考えると、軽い。安い。硬い。そんな事を言われると思います。
ロードバイクの入門機と言われる物はほとんどアルミです。
いや、全部かもしれませんね。

各ロードバイクメーカーで、カーボン一辺倒のこの時代。クロモリバイクの生産を終了しているところも多くありますが、アルミはまだまだ現役です。
メーカーにとっても重要な素材という訳です。

長期政権を築いてきたクロモリ王朝を下したのは……。チタン。そしてアルミでした。チタンは三日天下でしたが、アルミは割と頑張ります。
そして、アルミ王国は、カーボン帝国が樹立するまでの数年ですが、その覇で世界を取った過去を持つのです。

アルミも金属素材ではありますが、個人的な感覚で言うとクロモリやチタンと比べ、どちらかとカーボン寄りの素材と捉えてしまっています。


アルミの金属特性

アルミの利点は、まず軽さです。
百円玉、十円玉、一円玉……。持ってみれば一円玉のいかに軽い事か。
この軽さが、グラム幾らと言われる、ロードバイクの重量軽減にとても良いと言われているんです。

クロモリは強い為、細いパイプで強さを出せるという強みがありましたが、アルミは逆に弱く、太めのパイプを使う事になります。
それでも金属比重がクロモリの1/3程度と、圧倒的に軽い為太いパイプでもクロモリより軽い車体を作ることが出来るという事です。

強い、弱いという表現は難しいのですが、アルミは、硬くて脆い。この脆いというのが「たわまない」「曲げでの破断をしやすい」という事で弱いと表現してます。
クロモリはしなりがある、と言われるようにたわむんです。それが振動吸収に繋がり、乗り心地の良さを生み出す。対して、曲がりにくいアルミは硬い乗り心地と言われます。

ただ、その硬い乗り心地が悪いだけかと言うとそうでもなく、硬い素材だからこそ乗り手の力をダイレクトに受け止め、力強い走りを生み出すと言われています。

そして、クロモリにいろいろな合金配合の種類があったように、アルミにも種類があります。
アルミの種類は大きく分けて6,000系と7000系がロードバイクに使われるようです。

一般的にロードバイクに使われるのは6000系の素材なのですが、実は7000系は強さも1.5倍ほどあったりと、ロードバイクとしてはより良い強さを持っているようです。
では、なぜ7000系があまり使われていないかと言うと、6000系と比べると溶接などが難しく、加工コストが高くなってしまうという欠点があるのです。これはアルミの「安い」と言うアドバンテージを生かすことも出来ず、さらに耐腐食性も劣ってしまい、メインには成りにくい素材になります。

対して、6000系はより一般利用に適しているという事ですね。
6000系の中にも色々と配合があります。上記の7000系の様に6000系の中でも違いがあり、良いところ悪い所があるようで、結果6061アルミと言うのがバランスも良く最も利用されているようです。

同一メーカーでも安めのフレームには6061、高級なフレームには6011Aというアルミを利用するなど、価格帯に合わせてメーカーは使用するアルミを買えたりするようです。

アルミは経済的

先程の100円玉、10円玉、1円玉の話でも分かるように、アルミは一番安い硬貨に利用されています。
これって、やはり素材の単価が安い事を示しています。

以前にも書きましたが、現在はロードバイクの価格高騰が新規ローディーの妨げになっています。
その中で、アルミの「安さ」というのはこれからのロードバイク業界にとっては無くてはならない武器じゃないかと思っています。

正直な事を言えば、昔自動車レースでも「サニーレース」みたいな車種限定のレースがあったように「アルミバイクレース」の様に、カーボンロードを禁止するようなレースがあっても良いと思います。

これは、レースで上位に食い込むには自分の力だけでなく、数十万のカーボンフレーム。数十万のカーボンホイールなどを購入して経済力での戦いも必要と言う、スポーツ的な観点から言うと矛盾している現状に対する対抗策としてありなんじゃないかと。
プロとアマチュアが同じようなバイクで戦っているなんて、ちょっと普通じゃない気がするんですよね。

これをアルミ限定レースなどが多く広がれば、高い金を出してカーボンロードを買う事も無く、年々進化するロードバイクの買い替えも比較的しやすい状況も作れると思うんです。
もちろん、カーボン禁止のレースなどに、メーカーがスポンサーになってくれるかと言うと難しい部分もあるかもしれませんが、そこらへんは業界の為に動いてほしい物です。

最近のアルミロードは凄い。

アルミは安いから初心者モデルという扱いをされます。
それは半分正解で半分間違いの様に思います。

確かに、入門機としてよくアルミロードを薦める人は多いです。善光さんのプロデュースしたアルテマなど、入門からガチなロードレースの世界を味わえる良い車体も出てきています。

ただ、それだけじゃ無いのが今のロード界のアルミの勢いです。

「カーボンキラー」という言葉を聞いたことがあると思います。実際カーボンロードの方が時代は有利かもしれませんが、そのカーボンバイクをレースで斬ってしまうアルミロードがあるのです。

自分の中では、最近巷をにぎわせているのはスペシャライズドの「アレスプ」が一番に出てきます。ALLEZ SPRINTと言われるロードバイクですね。
アルミならではの高剛性から来るクイックな走りで、ゴリゴリのレーシングバイクになっています。

あのサガンが、クリテリウムでアレスプを使ったりと、なかなかの活躍っぷりです。

そのほかにもキャノンディールのCADD13だったり、スコットのスピードスターだったりと、抜群の戦闘力のあるアルミロードバイクはまだまだ存在しているのです。

アマチュアレースの世界じゃ、普通にアルミで行けるんだと思います。

悪い悪いという乗り心地も、自転車の設計が進化してだいぶ良くなっています。
アルミのロードバイクのトップチューブを見ると、少し山なりに湾曲してる物がありますよね? ああいうのも振動を上手く吸収させる為の工夫らしいです。

あとはドロップシートステーと言う設計。以前はシートステーがトップチューブと同じ位置でシートチューブについていたのが、今はシートステーは若干下に取り付けられる設計が多いです。

あれも乗り心地を良くすると聞きます。メカニズムはいろんな意見があって、これだと言いにくいのですが、自分の解釈を書くと。

旧設計だと、リアタイヤの衝撃が、そのままシートステーを伝わってトップチューブで受ける感じだったものが、ズラすことで、シートチューブがたわむ感じで力を受けられる、その結果衝撃がまろやかになる……。そういう解釈をしていますが、その他細かい各メーカーの努力や、チューブレスレディーなどの技術によって、アルミバイクでも良好な乗り心地を作れるようになってきています。


追加として、カーボンが無いわけじゃ無いけど、あまり浸透していない世界。ストリートで若者が楽しむピストバイクの世界だと、アルミが結構人気がある感じがしますね。
LEADERというメーカーでも、最高峰の735などはアルミですし。
カーボン成型なんて大手の会社じゃ無いと難しいよね、って話を考えるとアメリカの小さい会社がクロモリ特化してたり、軽量車としてアルミを作るという流れは、自然なのかもしれませんが。


アルミの寿命

ここまで、アルミは良いぞ!って話メインで来ていますが、少しアルミの問題点を指摘したいと思います。

アルミが持つ特性の中に「疲労限界が無い」と言うの特性があります。
疲労限界がない?と聞くと、一瞬良い事のように感じますが、実はこれはあまり良くないのです。

疲労限界というのは、簡単に言うと金属には「金属疲労」というものがあります。これは皆、聞いたことはあると思います。金属疲労で折れたとか言いますよね。
その金属疲労には疲労限界というのがあって、蓄積する疲労に限度があるのです。限度が来れば折れる、わけでは無く、限度が来たらこれ以上は脆くはならない。と言う意味です。

わかりますか? 
その疲労限界が無いというのは、永遠に脆くなり続け、最終的には必ず破断するというのがアルミの特性なのです。

ですので、アルミの自転車は寿命が短く、突然ポキッと折れたりすることがあるんです。

数十年使えるクロモリフレームと違い、十年弱と言われるアルミフレームの寿命の話はこんな所から来ます。

それでも新品で買ったロードバイクがそんなにすぐに破断する訳じゃありません。どんどんと設計の理論が発達して変わっていくロードバイク界の中で、どんどんと新しい物を追い求めるユーザーなら、何の問題は無いと思います。

ただ、中古品市場はちょっと慎重にとは思いますね。



と、いう事で。アルミについて語ってみました。
やっぱり素材としてはどうしてもカーボンに敵いっこないんです。が、どんどんと高価格化して、どっぷりレース沼にハマった人だけの世界がこの先の未来に生き残れる気がしないんですよね。
ホイールだけで八十万とか、もうあほだろ?って思っちゃうんで。
業界としても、アルミの安さを上手く利用していく事で、暗い自転車業界に光を取り込めるんじゃないかと思うんです。

頼りましょう。アルミに。



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