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【ミステリーレビュー】超・殺人事件/東野圭吾(2001)

超・殺人事件/東野圭吾

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2002年の「このミス」で5位にランクインした東野圭吾の短編小説集。

"天下一大五郎シリーズ"をはじめ、本格ミステリーのお約束をメタ視点で切り取り、アイロニカルなギャグテイストでまとめた短編も定期的に送り込んでくる東野圭吾。
本作では、作家、編集者、書評家、あるいは読者に対する皮肉を強めに出して、ミステリー作家の苦悩をユーモラスに描いている。
本人が多作なこともあって、力を入れた長編より、王道を外した作品に注目が集まってしまう傾向があるのも、本作で語られる短編のテーマになりそうだな、と思ってしまうほどだ。

東野作品だけあって、読み手を選ばない癖の少ない文章と、パターンの多才さは相変わらず。
8つの短編が収録された本作は、その特徴がより際立っており、長編の読破にとりかかっている合間にも、さらりと読むことが可能である。

推理小説の書き手が振り回される「超税金対策殺人事件」や「超長編小説殺人事件」などは、ミステリーというよりも推理作家が主人公のショートショート。
一方で、「超犯人当て小説殺人事件」、「超予告小説殺人事件」なんかは、皮肉の要素は込められているも、本格ミステリーとしても機能する内容に仕上げており、ミステリー作家としての矜持も見せていた。

どうしても、精神的にヘヴィーなテーマが紛れ込みがちなミステリーの世界。
読み疲れしたときの息抜き的な1冊として、本作はぴったりだと言えよう。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


内輪ウケとまでは言わないものの、ある程度、ミステリーを読み慣れている人向けという側面はあるだろう。
"天下一大五郎シリーズ"ほど、お約束に通じていないと笑えないというものではないにしても、ズブズブにミステリー沼にハマっている読者ほど刺さるのは言うまでもない。

特に、最後に持って来た「超読書機械殺人事件」こそ、彼の毒がもっとも冴え渡っている。
書評家が、"ショヒョックス"なる機械を利用して、あらすじを要約してもらたり、書評をアウトプットしてもらったりして、実際に本を読まずに仕事をこなすようになる世界。
書評家に商品が行き渡ったら、今度は作家に"ショヒョックス"で高評価が出るテクニックを示唆する機械を売りつける。
最終的には、読者に向けて、本をインプットすれば他人と話を合わせるための感想を自動で出力してくれる"ショヒョックス"のライト版をリリース予定。
結局、誰も本を読んでいないのに、"読書"という概念だけがステータスとして残り続けるという、小説家にとってはこれ以上ない皮肉で幕を閉じるのである。

僕も10年以上CDレビューを続けている身。
このオチには考えさせられるものがあった。
CD版の"ショヒョックス"があったら、自分も使ってしまうのだろうか。
本を読まないのに、作家になりたがる人間が多い昨今。
供給過多な出版業界に対して、東野圭吾の本音が読み取れるかもしれない1冊。

#読書感想文

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