【ミステリーレビュー】カエルの小指 a murder of crows/道尾秀介(2019)
カエルの小指 a murder of crows/道尾秀介
「カラスの親指 by rule of CROW’s thumb」の続編となる道尾秀介の長編小説。
あらすじ
詐欺師稼業から足を洗い、実演販売士として働いているタケこと武沢竹夫。 いつものようにジューサーの実演販売していたある日、訳ありの中学生キョウがタケに接触してきた。
話を聞くと、母親が酷い詐欺被害にあい、発作的に飛び降りたとのこと。
詐欺師の居場所を突き止めるべく探偵を雇うお金を稼ぐため、実演販売を教えてほしいとキョウはタケに依頼するのであった。
キョウを救うため、タケはかつての仲間を再集結。
10年以上ぶりに、ペテンを仕掛けることを決意する。
概要/感想(ネタバレなし)
「カラスの親指」の登場人物にもう一度会いたくなった、というのが続編を手掛けた理由とのこと。
前作から10年以上経っての続編だが、作中でもそのぐらいの時間が流れており、やひろと貫太郎には子供がいるし、少女のイメージがあったまひろも30代に。
その間、全員が堅気で生活しつつ交流が途絶えていないことがわかり、なんだかほっとしてしまう。
そのような背景もあって、前作をなぞるところが多々あり、何なら最大のネタバレに関する記述も含まれているからご注意を。
「カラスの親指」については読んでいることが前提であり、逆の順番で読むのはあまりお勧めできない。
さて、本作において追加された重要人物は、キョウとテツ。
前者は、あらすじにもある通り、詐欺被害により家族をめちゃくちゃにされた少女である。
何故、タケのもとにやってきたのか、居候してまで実演販売を教わろうとする理由など、なんとなく語られはするものの、うまく躱されている感じもあって、どこまで信用していいのかわからない。
タケが襲われたタイミングなども踏まえると、詐欺師と繋がっている可能性すら疑うことができるため、彼女の存在をどう捉えていたかで読み口はだいぶ変わったのではないだろうか。
一度読んだ本を読み返すタイプではないのだが、真意がわかったうえで、もう一度読み直したいなと思わせてくれた。
そして、やひろと貫太郎の子供であるテツ。
「カラスの親指」を知っていれば、こういう形でチームを残したのか、と膝を打つところだ。
動画配信が趣味ということで、デジタルに強いのは良いのだが、それ以外でも機転が利くし度胸もあるので、隔世遺伝的に詐欺師の資質があるということなのだろう。
また10年後に続々編があるとしたら、主役になっていても異論ない存在感。
倫理的な意味で、子供の彼をペテンの準備で使い倒しているのは思うところがあるが、そのぐらいの活躍をするポテンシャルはあるはずだ。
子供を巻き込むという点で罪悪感がないわけではないものの、チームで巨悪に挑み、一泡吹かせようとペテンを仕掛けるカタルシスは、わかっていても止められない。
もっとも、やひろ&貫太郎に、もう少し親らしい貫禄が出ていても良かったのだが。
総評(ネタバレ強め)
最後のペテン、タケのネタバラシが早すぎたので、嵐は終わらないぞ、と。
実際、そこから二転三転、物語は動きを見せる。
詐欺師を騙し返す、というテーマに対して、1羽を騙そうとした5羽と、5羽を騙そうとした1羽の騙し合いというのが、実際に起こっていたこと。
一応は、出し抜いたキョウの勝ちということになるのだろうが、自分も騙されていたことをわかったうえでの勝利なのかは、あくまでタケの想像内にぼかされている。
率直に言って、キョウの目的は想像通りだっただけに、出来ればそれも見据えた仕掛けをタケには用意してほしかったところ。
タケにしても、キョウにしても、テツさんのような完全勝利には至らずで、痛み分けのような結末になったところが、前作ほどの爽快感に至らない理由だろうか。
詰めの甘さがあるというタケのキャラクターをもってすれば、この役割が落としどころだし、しっかりお金を取り返したという意味では十分な働きではあったのだが、いまいち最終作戦においてタケの活躍が地味。
既存メンバーがもっと先輩風を吹かせてほしかったかな。
面白いことは面白いのだけれど、いかんせん期待値が高すぎた。
まひろの恋愛、未知子の病状、詐欺グループの顛末。
ラストを描きすぎず、余韻を持たせるのは相変わらず上手いのだが、金を持っていかれた詐欺グループが、またタケをボコボコにしにこないかは心配だったり。
探偵事務所の証拠は消しているとは言え、キョウの家に大金が舞い込んだ気配があれば、理屈抜きに関係を疑われそうなものだが。
何はともあれ、キョウが前向きになったのであればハッピーエンド。
どうか、もう10年は平凡な幸せの中で生きてほしいものである。