【ミステリーレビュー】神のロジック―次は誰の番ですか?/西沢保彦(2021)
神のロジック―次は誰の番ですか?/西沢保彦
2003年に発表された「神のロジック 人間のマジック」の改題版。
内容紹介
解説/感想(ネタバレなし)
西沢保彦らしい、特殊設定ミステリー。
視点人物のマモルは、国籍も年齢もバラバラな子ども達とともに〈学校〉での生活を送っている。
ただし、どういう経緯で〈学校〉に連れてこられたのかは記憶が曖昧。
そんな事実上の軟禁状態で、殺人事件が発生するというあらすじだ。
登場人物にそれぞれ渾名がつけられているところも含めて、ADVゲームにありそうな設定だな、と。
物語としては、序盤はゆっくり、終盤はハイスピード。
ジェットコースターのような展開である。
〈学校〉のルールであったり、登場人物の紹介であったりと、舞台設定が特殊であるため、その説明にページを割いた印象。
メタ的には、どのような目的で作られた施設のか、どうして連れて来られる前後の記憶がないのか、という大きく横たわる謎に対して、情報を集めるのがここでのミッションだろう。
仮説が色々と出揃ってくると、いよいよ殺人事件が開幕。
そこからは怖がる暇もなくただただ落下していくのみ。
推理すら忘れてしまいそうになるスピード感に情緒が追い付かないのだが、その危うさによって一気に読まされてしまった。
ヒントを隠すのではなく、ブラフも含めて拡散することで、本質が見抜きにくくなる作品。
なかなか事件に入らず、ふわふわとした状態が続くものの、結末のどんでん返しは圧巻である。
総評(ネタバレ注意)
新聞やテレビのない世界。
場所なり、時間なり、認知とのズレはあるのだろうな、というのは推測ができたのだけれど、そこからが難しかった。
過去のゲームの経験から、あんなに脱出しようとしていた〈学校〉は、デストピアから守るためのシェルターだった、なんて結末をまずは想像してしまったのだけれど、定期的に新入生がやってくる、それを〈校長先生〉たちが迎えに行く、という事象に説明がつかない。
だとすると、何らかの研究施設となるのだが、当たらずとも遠からずなハズレが生徒たちの推理として先出しされることで、そっちの線はないか、と勝手に検討をやめてしまっていた。
これは完全に著者の手のひらの上だったな。
話が進んでいくと、なんとなく、彼らの認識よりも未来の世界にいるのだろうな、ということがわかってくる。
そうか、コールドスリープから目覚めた子どもたちか、と相変わらず的外れな推論を立てているところで、殺人事件パートへ急展開。
副題が"次は誰の番ですか?"なので、ひとりずつ減っていくストーリーをイメージしていたのだが、思った以上に皆殺しモードで驚かされた。
"次は誰の番ですか?"なんて思う間もなく、次々に容疑者たちが脱落。
あっという間にふたりきりになって、ゲームセット。
特殊能力があったわけではないものの、残ったふたりは思い込む力が特に強かったということなのだろう。
というわけで、待ちに待った殺人事件だったが、それすらも真相究明におけるパズルのピースだったという印象。
最後は、真犯人以上に衝撃の事実が待っている。
共同体レベルでの妄想により、実態とは異なる事象が事実として認識される……という、プレイした人なら確実に思い起こすであろうゲームがあるのだが、こちらの原作のほうがだいぶ先。
もっとも、双方、終盤まで設定の類似性に気付かない絶妙なストーリー展開になっているので、特に注意は必要ないか。