【ミステリーレビュー】リアル脱出ゲームノベル Four Eyes〜姿なき暗殺者からの脱出〜 /SCRAP&稲村祐汰(2021)
リアル脱出ゲームノベル Four Eyes〜姿なき暗殺者からの脱出〜 /SCRAP&稲村祐汰
"体験型謎解きミステリー小説"としてSCRAPから出版されたリアル脱出ゲームノベル。
あらすじ
元ヤクザで服役経験のある私は、更生して探偵事務所を営んでいた。
左眼が義眼、首筋に刺青、左手には手袋という出で立ちから怖がられることも多いため、客足はそれほど多くない。
そんな私に、ヤクザ時代に仕事をした江津からの依頼が舞い込む。
殺害後に左眼をえぐり取って集める連続猟奇殺人鬼「コレクター」に狙われているため、犯人を突き止めてほしいというのだ。
乗り気ではなかったものの、脅迫まがいの圧力をかけられたこともあり、まずは話を聞くことにするのだが……
リアル脱出ゲームのSCRAPが送る"リアル脱出ゲームノベル"シリーズの第一弾。
概要/感想(ネタバレなし)
謎を解いて、真相を明らかにするという点で親和性の高いリアル脱出ゲームとミステリー小説。
ときおり、謎解き要素のあるパズルが織り込まれた推理小説や、ミステリー顔負けのシナリオの重厚さを持ったリアル脱出ゲームもあったりするので、それを高いレベルで融合させてくれるなら好都合である。
価格的にも、一般的な持ち帰り謎よりは安価であるため、手に取りやすい。
読んでみての率直な感想としては、謎解きをベースに、世界観を構築するためのストーリーを手厚く補完したといったところ。
謎解きによくある、"謎解き好きの友達が、変な手紙を送ってきたんだ"とか、"もしこのアイテムが欲しいのなら、私の謎を解いてみせよ”といった、強引すぎるストーリー展開を、出来る限りでそれっぽく肉付けしたと言い換えても良く、リアル脱出ゲーム目線で見れば、世界観が深掘りされたと言える。
一方で、ミステリー小説目線で読んでしまうと、本筋とは関係ないところで妙なパズルゲームがはじまってしまい、テンポが悪くなってしまう。
多少は薄れているとはいえ、強引さが依然として残っている部分も多く、あくまで"ミステリー小説風の持ち帰り謎"という認識でいたほうが良さそうだ。
謎の質は高め。
そこまで捻った問題は出てこないが、とあるギミックがあることでストーリーがひっくり返る面白味がある。
ただし、小説の文脈で繰り返し出題されることでメタ的に展開が読めてしまう部分もあって、難易度のアジャストも含めて、まだ試行錯誤的な印象。
コンテンツとしてのポテンシャルは高いと思われるだけに、もうひとつ詰めていければ。
総評(ネタバレ強め)
リアル脱出ゲームの場合、ネタバレありの感想は書かないようにしているのだが、この記事においては、どちらに寄せるべきか迷うところ。
まぁ、書籍という媒体である以上、解決編から読もうと思えば読めるため、備忘録も含めて書ける範囲で書いてしまおう。
個人的な話だが、推理小説の途中で暗号が出てきても、基本的には自分で解いてみようとは思わない。
解き筋を見つけることと、暗号そのものを解読するのはイコールではないし、どちらかと言えばサクサク読めるテンポ感を重視したいからだ。
ただし、本作のように問題を問題として提示してくれれば、ならば解いてみようという気になってくる。
何ページも前にちょっとだけ書いてあった内容を伏線にするのではなく、読み解くべき出題範囲も明確。
その意味では、中謎的な"読者への挑戦"が、現実的に解き得る形で提示されているわけで、なるほど、これは面白い。
とはいえ前述のとおり、パターンがわかってしまうとパズルを解かなくても先読みが出来てしまう節があり、このギミック一本で何章も展開するのは、謎の質が良いだけにもったいない。
素直に、一度素直に解かせたうえで、真の鍵を提示して最初から解き直させる、そんな構成のほうが(ありがちではあるが)評価された気がするのだよな。
ミステリーとしても、小説としても、ちょっと雑。
猟奇殺人ということで、何の意図があって目をくりぬいているのか、と気になって読んでいたが、特にトリックに関係なかったとは。
謎をねじ込むのが前提になっているせいで、ストーリーも大味気味。
謎解きとしてのギミックは100点満点なのだが、推理小説とのメディアミックスは、すぐに出来そうであっても、なかなか難しいものなのだなと痛感した。