
ヴィジュアル系CDの醍醐味 特殊パッケージ大会
CD派か、サブスク派か。
そんな議論をよく目にする昨今だが、CD派の醍醐味としては、ジャケットデザインを含めた総合芸術性にあるという意見も少なくないだろう。
特に、五感をフルに使って世界観を表現するヴィジュアル系。
CDのパッケージは必ず四角いプラケースだと誰がどうしていつ決めた。
特殊パッケージを用いることで、その芸術性をより高めようとするアプローチが多く見られるのである。
常識を覆すようなこだわりが詰まったジャケットと出会うと、なんだかワクワクする。
良い買い物をしたな、と充実感が高まる。
そんなヴィジュアル系バンドの特殊パッケージ仕様音源の中から、いくつかアート性の高いものや衝撃が大きかったものを紹介してみよう。
露のロータス / amber gris
トールサイズのCDジャケットも今や珍しくはないのだが、それを文庫本に見立てて作り込むアイディアが秀逸。
amber grisの音楽性が、まさに"おはなし"といった趣向だったこともあり、彼らの世界観を最大限に引き立てるパッケージだったのでは。
三部作のシングルとしてリリースされた作品群の中でも、もっとも幻想的でコンセプトに沿った作品となっていたのかと。
否定デリカシー / バロック
見立て的なジャケットで忘れてはいけないのが、バロックの否定デリカシー。
CDではなく、デモテープだけれど、カセットの形状をこれ以上ないぐらいに活かしていた。
見た目も、開け方も、まさにシガレットケース。
お洒落系の祖として名高いバロックだけれど、世界観を追求するスタンスは、それまでのヴィジュアル系から脈々と受け継がれていたのだ。
個性派ブレンド クラシック / メリー
日本沈没 / R指定
写真で見れば普通のジャケットであるが、どちらもアナログサイズ。
CDがやたら小さく見えてくる。
それにしても、丸尾末広氏のイラストとアナログサイズジャケットの相性の良さである。
大きいから目立つというだけでなく、アートワーク単体でも魅力を引き出しているという意味でも、絶妙なコラボレーションと言えるだろう。
美意識過剰 / IZAM
IZAMさんのソロアルバムは、なんと六角形。
確かに、円形のCDにはぴったりのサイズ感である。
もっとも、それ以上に形にこだわった理由は、薔薇の形状に寄せること。
文字通りの美意識過剰っぷりで、ケースからはじめて取り出したときには驚いたものだ。
gravity / LUNA SEA
一見、変哲のないCDシングル。
ただし、ジャケットを温めると、メンバー5人をコラージュした画像が浮かび上がる。
何か出てくるかもしれないから、ジャケットを温めてみよう、なんて普通は思わない。
これ、自力で発見した人なんているのだろうか。
このCDと出会ってからというもの、黒一色のジャケットを見ると、とりあえず温めてみるようになってしまった。
鬼葬 / Dir en grey
こちらも一見普通のCDに見えるのが、Dir en greyの「鬼葬」。
抽象的だが、和を意識したおどろおどろしいデザインは、なかなか格好良い。
しかし、ブックレットに記載された歌詞は、すべて英語。
読みにくいったらありゃしない。
と思ったら、CDトレイを外したところに、アナザージャケットが隠されている仕様。
こちらのブックレットには、きちんと日本語で歌詞が記載されている。
テンションを下げてから、上げる心理テクニックで、これにはすっかり驚かされた。
なお、「six Ugly」でもブックレットを隠すギミックは継続されたが、こちらはデジパックを破壊しないとブックレットが取り出せない鬼仕様。
これはさすがにノーセンキュー。
零度 / PUNK BACK OCEAN
ヴィジュアル系の枠に当てはめて良いのかは微妙であるが、LAID BACK OCEANの変名バンドのアルバムは、常識の枠からはみ出すぎた1枚。
最終的には、普通のCDアルバムである。
そう、最終的には。
問題は、これが届いたときの状態。
通販限定でリリースされた本作は、なんと、クール便で送られてきた。
開けてみると、氷漬けだ。
黄色い液体を凍らせたのだろう物体。
その中に、うっすらCDのようなものが見える。
「零度」というアルバムの世界観を示すために、本当にCDを凍らせて販売してしまうとは。
届いたからには早く聴きたいのに、氷が溶けるまで焦らされる。
音への渇望という意味でも、非常に楽しませてくれたアイディアだった。
ここまでくると、そもそもジャケットってどの部分までをジャケットって言うのだろう、と混乱してくる。
流星 / 悠希
所有しているCDの中で、もっともジャケットの概念がわからなくなる1枚。
うちわはCDの付属品なのか、うちわもジャケットのうちに入るのか。
収録曲の歌詞は、うちわの表面に記載されている。
いずれにしても、グッズとCDという切り分けではなく、CDとうちわはセットということになるのだろう。
しまむら祭り / 絶倫★ハグキ
これも、特殊ジャケットになるのだろうか。
スーパーデリカテッセンパッケージングテクノロジー仕様らしい。
アイディア勝負とはよく言ったもので、安上がりでインパクトだけは抜群。
さすがにこれは保管に困る。
La premiere porte / pleur
最後は、pleurのシングル。
バンド名が意味する"涙"をモチーフにしたジャケットで、初音源にしては、だいぶシンプルなデザインである。
しかし、開いてびっくり。
メンバーの写真が飛び出してきた。
インパクト重視の飛び出す絵本仕様。
シンプルに見せかけて、無駄にド派手。
わけのわからなさに、すっかりハマってしまったあの日。
この衝撃は、なかなか忘れられるものではないのだよな。
CDのパッケージにコストをかける時代は終わったのかもしれないけれど、まだまだ、びっくりどっきりさせてくれるジャケットに出会いたいという欲求は枯れていない。
配信されたデータを聴くだけでは味わえないこの興奮。
できればこれからも楽しませていただきたいものだ。