【ミステリーレビュー】神様ゲーム/麻耶雄嵩(2005)
神様ゲーム/麻耶雄嵩
「講談社ミステリーランド」に配本された麻耶雄嵩の神様シリーズ第一弾。
子供向けレーベルからのリリースということで、200頁程度で文章も平易。
小説としての読みやすさがある一方で、最終章でのどんでん返しのインパクトが大きく、子供には読ませたくない作品と称されることもあったらしい。
僕は2006年版の「このミス」で5位になっていたのをきっかけに文庫本を手にしたので意識していなかったが、児童文学と侮って読んでいたら、最後の数頁の衝撃は確かに計り知れなかったのかと。
主人公の芳雄が仲間たちと結成した少年探偵団が、連続猫殺し事件の謎に迫る。
いたってありがちなプロットなのだが、特徴的なのは、自らを神と称する鈴木太郎という少年の存在。
神であるが故、すべてを知ることができる彼との会話によって、芳雄は過程をすっ飛ばして犯人の名前を知ってしまう。
彼を信じるか、それとも、ただの"ゲーム"なのか。
確証が持てない中で、実際の殺人事件が起こるというストーリーだ。
結局、神は本当に存在するのか、それとも洞察力、推理力のたまものでタネがあるものなのかは明かされないままで、考えようによっては後味の悪い終わり方。
読者がどちらと思うかによって、真相が変わってくる仕掛けとなっており、あえてすべてを語らないことで、深みをもたらしていると言える。
デビュー作「翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件」で二転三転した推理合戦を展開した麻耶雄嵩らしい構造であろう。
【注意】ここから、ネタバレ強め。
なんだろう、これは。
相変わらず、"イヤミス"とはまた異なる妙な読後感を与えてくれる作家である。
登場人物が限られているため、英樹殺しの犯人は探偵団の中にいる。
そして、それは諸々の状況判断からミチルである、ということは比較的容易に辿り着ける。
後から児童文学と知って、その点のわかりやすさには納得がいった。
問題は、共犯者の存在である。
芳雄が推理した父親が共犯説は、ある程度理にかなっているものと思われる。
やはり、殺人者が留まっている可能性が高い状況下で、子供たちだけで死体のあったところに戻り、本当に死んでいるかを確認させるように指示をしたことには違和感が残る。
殺人事件を担当する刑事なら、子供に現場を荒らされることも嫌がるだろう。
一方で、神の"天誅"によって死亡したと思われる母親が共犯だった場合、現場からの消失トリックは何も語られていない。
最初に芳雄が犯人は子供だと睨んだ、たらいに隠れるトリックについては、背が小さいという描写があった母親であれば出来たのかもしれない。
だが、だとすると、どうやって井戸から死体を引き上げて服を着せ変えたのだろう、という謎も出てきてしまうので、母親共犯説は強引な気もするのだ。
そこでひとつ自分なりの解を見出すとすれば、父も母も共犯という仮説。
鈴木太郎は、犯行動機について、共犯者とエッチなことをしていたのを見られたから、としか語っていない。
それを性交渉の伴う逢引きと捉えるから母親共犯説が衝撃的なのだが、児童ポルノ的な撮影を行って金儲けをしていたのだとすれば、夫婦そろって共犯になるケースもあるのでは。
母親に"天誅"が下ったことを踏まえると、犯行現場にいたのは母親のみで、死体発見時は普通に物置に隠れてやり過ごす。
その後、合流した父親が入れ替わって服の着せ替えを行い、現場検証の際に母親の痕跡を抹消。
こんな感じでどうだろうか。
それにしても、鈴木太郎と出会ってしまったことで、母親と好きな女子と親友を失った挙句、自分が30代半ばで死ぬことを悟ってしまった芳雄少年。
彼の将来が心配でならない。