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【ミステリーレビュー】あと十五秒で死ぬ/榊林銘(2021)

あと十五秒で死ぬ/榊林銘

榊林銘のデビュー作となった短編集。



あらすじ


死神から与えられた余命は、十五秒。
「私」は自分を撃った犯人を告発したい。
あわよくば、反撃も。
死ぬまでの残り時間、時間を止めて思考することが許された「私」は、置かれた状況の中で出来ることを考え、実行する。

被害者と犯人の十五秒間の中で起こった攻防戦を描いた「十五秒」をはじめ、<あと十五秒で死ぬ>という設定で巻き起こる事件を描く短編集。



概要/感想(ネタバレなし)


とにかく、<あと十五秒で死ぬ>という設定をどう活かすのか、に尽きる。
最初の「十五秒」は、ある種、その設定においてはスタンダードと言え、銃で撃たれて余命十五秒という状況で反撃の一手を掴もうと必死にもがく物語。
この短編が「第12回ミステリーズ!新人賞」おいて佳作となったことが本作が出版されるきっかけだと思われるが、この設定で行こう、と決断できるだけのインパクトは確かにあるだろう。
王道こそ至高を地で行く短編である。

「このあと衝撃の結末が」は、連続ドラマ+クイズ番組がモチーフ。
特に見ていたわけでもないが、なんとなく眺めていたドラマの最終回。
ラストシーンを前に、このままハッピーエンドを迎えるかと思いきや、目を離していた十五秒の間にヒロインが死んでいた。
たった十五秒で、この結末に至る急展開を描き切れるはずなんてない。
姉に唆されるまま、過去の回を振り返りながら何が起こったのかを推理することに。
ふたつめは、少し捻りを加えた<十五秒後に死ぬ>。
十五秒の使い方として、編集が含まれるのはズルいと思ったものの、ドラマだからこそのギミックが活かされていて、これは納得せざるを得ない。

「不眠症」は、なんとなく作風を変えてきた印象。
茉莉と母様との生活と、茉莉が繰り返し見る夢の描写が交互に描かれる中で、ぼんやりと<十五秒後に死ぬ>の意味が見えてくる。
最後の「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」は、逆転の発想。
首が取れても、十五秒までなら死なないという特殊体質を持つ人々が生活する島を舞台に、首無し死体の謎に迫っていく特殊設定ミステリー。
後半ふたつは後段で詳しく語ろうと思うが、王道から邪道まで、さまざまな<十五秒後に死ぬ>設定を考え出し、ミステリーとして仕上げた発想力は見事。
凝りすぎて複雑になってしまっている部分はあるものの、短編でまとめていることもあって読みやすさは損なわれておらず、書く気があるかは不明だが、第二段にも期待してしまう。



総評(ネタバレ強め)


前半の2編は設定がわかりやすく、後半の2編は少し複雑。
チュートリアルから入って構造を理解させてから本質に入っていくのは、定石であろう。
「十五秒」と「このあと衝撃の結末が」については、設定を理解し、あとは流れに身を任せば良い。
読者は、突然頭脳バトルに巻き込まれて、最後にひっくり返す仕掛けに驚かされて、とテンポ良く読むことができる。

「このあと衝撃の結末が」にて一緒に推理する要素が加わったうえで、その後に来る「不眠症」が曲者だった。
白昼夢のようなふわふわした空気が漂っている作風。
<あと十五秒で死ぬ>という設定があることも踏まえ、夢と現実が実は逆さまであるという仕掛けについては、比較的容易に推測できるのだが、タイムリープ的なギミックもあるため、何をすればこの物語を解いたことになるのかが、最後までわからない。
トゥルーエンドに達してエンディングかと思いきや、バッドエンドで終わるオチも含めて、なかなか味わい深い短編だったと言えよう。

そして、頁数としては中編と言って良いかもしれない「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」。
登場人物の大半が、首が落ちても十五秒までなら死なない人たち。
相手の体であっても、胴体とさえ繋がっていればOK。
どういう原理かわからないが、喋ることも可能なようだ。
顔のない死体モノを極端に高度化したような設定で起こる殺人事件は、まさに特殊設定での本格ミステリー。
殺されたはずの克人が、友人と首を10秒おきに交換することで生きながらえ、犯人を突き止めようとする設定は、被害者=探偵役という時点で斬新だし、島の住人だからこそのトリックもあって面白い。
世界観が独特すぎて説明の複雑化は避けられず、やや理解しにくくなってしまったのは惜しいところ。
なかなか実写化のハードルは高そうだが、技術が追い付くのなら映像化してほしいものだ。

#読書感想文

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