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【ミステリーレビュー】准教授・高槻彰良の推察7 語りの底に眠るもの/澤村御影(2022)

准教授・高槻彰良の推察7 語りの底に眠るもの/澤村御影

高槻&尚哉の凸凹コンビによる民俗学ミステリーシリーズ第七弾。


内容紹介


ドラマ化で話題騒然! 大人気民俗学ミステリ、決意と絆が深まる第7弾!

青和大の女子学生が高槻と尚哉の元へ相談に訪れた。
サークルの友達と一緒に、雑居ビルのエレベーターで「異界に行く方法」を試した翌日、うち一人が行方不明になったという。
心当たりを尋ねると、彼女の声は歪み――。(――第一章「違う世界へ行く方法」)

遠山からの依頼で、栃木の山奥へ赴いた高槻と尚哉。
別荘地を作るための工事中らしいのだが、沼を埋め立てようとしたところ、不審な出来事が相次ぎ、困っているという。
しかもその沼には「ヌシ」が棲むという伝承もあるらしく!? (――第二章「沼のヌシ」)

「――先生が全部忘れても、俺が覚えています。約束したでしょう」
実写ドラマ化で話題騒然&人気沸騰!
異界に魅入られた凸凹コンビの民俗学ミステリ、第7弾!


解説/感想(ネタバレなし)


さすがに"もうひとりの高槻"の謎は引っ張るか、といったところだが、その存在がいることを前提に、ふたりの関係性が深まっていくことを踏まえれば、ゆっくりながらも結末に近づいていると言えるのだろうか。
ただし、準レギュラークラスを積極的に登場させた割には、物語は動かず。
足踏みをしている印象も強く、読み飛ばしてもよさそうだが、何か今後伏線になっていたりする部分はあったりするのかな。

もっとも、それはキャラクター小説としての話。
民俗学ミステリーとしては、正統派と言える。
繋がりそうで繋がらないもどかしさも、時間がしっかり経過する本作の設定においては、必然であったのかもしれない。

著者の作品である「憧れの作家は人間じゃありませんでした」とのクロスオーバーもあるようで。
キャラクターが育ったところで、わかる人にはわかる小ネタも挟みつつ、初期の王道路線を再現するアプローチ。
そう考えると、初心に帰って読みたい1冊。
安定のクオリティは保っている。



総評(ネタバレ注意)




単体で見たら王道中の王道。
怪異の仕業に見せかけた事件が起こり、それを尚哉の嘘を聞き分ける能力と高槻の洞察力で、人間によるものだったと見抜く。
怪異よりも本当は人間が怖い、といったオチも含めて、ミステリーとしてはこういうのが読みたいという内容でまとめられていたのでは。

一方で、やや消化不良気味に感じてしまうのは、やはり、通常回に徹しすぎて、物語が足踏みしてしまった感が強いからだろう。
まして、遠山や沙絵といった怪異と人間の境界線上にいるキャラをそれっぽく登場させているのだから、何か進展を、せめてキャラの掘り下げを、と期待したくなるところ。
難波ら、学校の面々が出てくるだけであれば通常回でも納得できただけに、読者サービスが仇になった気がしないでもない。

気になると言えば、林原の存在。
沙絵との繋がりも示唆されていて、また登場しそうな匂いはするのだが、世界観はどうなっていくのだろう。
彼がメインで出てくるシリーズは読んでいないこともあり、他のキャラクターたちも作品を跨いで出てくるのか、その場合、知っておかねば読み解けない設定はあるのか等は判別できない。
そのあたり、読んでいる前提で話が転がっていくようだと少し不安は残るのだけれど、ここまで来たら最後まで読んでしまうつもりなので、次巻も読者フレンドリーを貫いてほしい。

#読書感想文


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