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【ミステリーレビュー】ノッキンオン・ロックドドア2/青崎有吾(2019)

ノッキンオン・ロックドドア2/青崎有吾

"不可能"専門の御殿場倒理と、"不可解"専門の片無氷雨のW探偵を主人公にした"ノッキンオン・ロックドドア"シリーズの第二弾。

あらすじ



インターホンもチャイムもない探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」。
大学のゼミ仲間だった倒理と氷雨は、お互いの強みを生かし、弱みを補うために、卒業後は探偵事務所を共同経営していた。
細々と舞い込んでくる事件に挑んでいくふたりだが、ある日、再会した旧友との因縁で、唯一解かれていなかった"五年前の事件"に向き合うことに。
捜査一課の警部補となった穿地決、犯罪コンサルタントとして暗躍する糸切美影を含めた当時のゼミ生4人。
彼らの道を決定づけた密室事件の真相とは。



概要/感想(ネタバレなし)



シリーズものの連作短編となるが、いったんの完結編となるのだろうか。
ここまで張られていた伏線は、ひとまず回収された形。
1巻だけでも短編集として成立しているものの、美影という黒幕が存在する以上、彼との因縁が決着するまでは読んでおかねばといったところだろう。
シリーズの長期化は新規流入の阻害要因にもなり得る中で、コンパクトに完結させるのも英断。
もっとも、いつでも再開できるような設定でもあるので、今般のドラマ化で熱が再燃するようなら、いくらでも膨らませられそうなのも上手く出来ている。

シリアスな要素はあるも、全体的にタッチは軽妙。
不可能と不可解の役割分担については前作で定着させていることもあって、穿地や美影にスポットを当て、最終章に向けてキャラクターを深掘り。
特に穿地については、だいぶ人間味が見えてきたのではないだろうか。
前作よりも1編少ない、全6編。
ただし、ボリュームが落ちたということはなく、密度が濃くなった中でテンポの良さは変わらず、という印象だった。

大ネタは長編に使いたいよね、という著者の意図があったりするのかは不明だが、一般論として、短編用のトリックはスケールが小さくなりがち。
そういう中で、"チープ・トリック"をギミックに取り込むアイディアが素晴らしい。
スケールが小さかろうと、面白いトリックはいくらでもあるという挑戦的なメッセージにも見えてくる。
得意分野にハマればあっさりと解決に持っていってしまうW探偵のスタイルも相まって、こんなにも短編向きなシリーズも珍しいのでは。



総評(ネタバレ強め)


特殊設定ではないものの、リアリティ無視の設定ではあるので、割り切って読むのが前提にはなってくるが、古き良き探偵漫画のギミックを現代的なライトミステリーに落とし込むスタイルは、シンプルに面白い。
殺人現場の壁にチェーンソーで大きな穴を開けられていた謎に迫る「穴の開いた密室」でリスタート。
壊れた時計からアリバイトリックを読み解くという超古典的な設定をモチーフにした「時計にまつわるいくつかの嘘」、穿地を視点人物にジャーナリストの転落死を巡る「穿地警部補、事件です」、少女の失踪事件が思わぬ展開を見せる「消える少女追う少女」と、アプローチは様々だが粒が大きい。
特設サイトで公開されるという意外な発表形態だった「最も間抜けな溺死体」も収録されている。

そして、単行本化にあたって、物語の完結編となる「ドアの鍵を開けるとき」が書き下ろされた。
真相には賛否あるだろうが、これだけ切れ者が揃っていて解けなかった謎、となると必然的にハードルが高くなってしまう。
ふたを開けてみれば穿地だけが騙されていた形になるものの、結果として、この真相が一番しっくりくるのは間違いないのだ。

第一章が完結しただけで、もしかしたら続編はあるのかもしれないが、美影の立ち位置はどうなるかが問題だ。
引き続き犯罪コンサルタントとして立ちはだかるのか、自首したうえでアドバイザーとして協力する形になるのか。
後者は天川教授と被るだけに、想像がしにくいところ。
どうせだったら、ゼミのフィールドワークとして過去の事件を再考したり、発生している事件に巻き込まれたりする大学時代の4人を描いてほしいと思うのだが、そういうスピンオフはどうだろう。

#読書感想文


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