【ミステリーレビュー】変な家/雨穴(2021)
変な家/雨穴
映画版の公開も決定している、ウェブライター雨穴による不動産ミステリー。
内容紹介
解説/感想(ネタバレなし)
もともとはWEBメディア記事として公開されていたルポルタージュ風のホラー・ミステリー。
WEBメディアに出ていた時同様、"筆者"と登場人物の会話を主体に物語が転がっていく作風で、一般的なミステリー小説とは異なる趣である。
YouTubeでも公開されており、小説版はその続編も含めた完全版という位置づけか。
文庫では250頁程度で、文字のフォントも大きく、ほとんど時間がかからず読めてしまうので、かなりライトに読むことができる。
とある間取り図から読み取れる情報を軸に推論を立て、それを裏付ける情報が出ると、また次の間取り図が登場する、というのが大きな枠組み。
その間も物語はずっと続いていて、真相への伏線が何重にも渡って張り巡らされている。
文庫版においては、あとがきも含めて彼の作品だった、とだけ添えておこう。
探偵役が名推理をして謎を解き明かす、という気持ち良さで成り立っている小説ではないため、ミステリーとして読むには注意が必要。
不動産ミステリーと称されてはいるが、著者はホラー作家という肩書でもあり、ヒトコワ系のホラーと捉えたほうがしっくりきそうな内容だ。
とはいえ、謎が謎を呼ぶ展開や、背後に横たわるおぞましい事実、視点がひっくり返るどんでん返しなど、ミステリー読みの琴線に触れるであろうポイントも数々用意されているので、タイムパフォーマンスが良い作品。
WEBメディア記事で著者の作風に慣れていたこともあり、個人的には素直に楽しむことができた。
総評(ネタバレ注意)
何度か書いているとおり、WEBメディア記事の書籍化、という側面が強く、そこに対しての慣れがあるかないかが評価に直結する気はする。
実際、書籍よりもWEBとの相性が良い内容だとは思うので、読書家向けというより、本離れしつつある層を本に引き戻すために機能している作品かもしれない。
ミステリーとしての楽しみ方としては、秘密の抜け穴が合法化していることに尽きるか。
抜け穴が存在してはいけない、というのは古い時代からのお約束だが、そこは不動産ミステリー。
不自然な間取りから、抜け穴があることを見抜くなど、本来では反則技となるところを醍醐味として置き換えているのは、この設定だからこそできたと言える。
もちろん、抜け道を見つけて終わりではなく、そこから想像力を働かせてミステリー的な方向に話を転がしているのも面白い。
一連の物語については、手紙にて真相が示され、それに重ねる想像という形で、景色が変わるどんでん返しが待っている。
それに加えて、未消化だった伏線の回収が、あとがきによって提示されるという手法も斬新だった。
あとがきを物語の登場人物が担当する、というのも、ノンフィクション風の作風だから出来ることだろう。
文庫版あとがき、ということになっているため、新たに追加されたものなのか、単行本でも同様の回収があったのかは未確認だが、よりヒトコワ感が強まる仕掛けだった。