【ミステリーレビュー】聯愁殺/西沢保彦(2002)
聯愁殺/西沢保彦
トリッキーな設定と破綻のないロジックに定評がある西沢保彦の長編パズラー。
見ず知らずの男に殺されそうになった梢絵。
反撃が奏功し、なんとか一命をとりとめた彼女は、連続無差別殺人事件の唯一の生き残りとなる。
犯人と思われる人物は、梢絵の証言や物的証拠から警察が早々に突き止めるも、4年もの間、雲隠れしたまま膠着状態が続いていた。
犯人の動機を知りたい梢絵は、推理集団"恋謎会"に調査を依頼。
無差別と思われた殺人事件の被害者のミッシングリンクを解き明かすことはできるだろうか。
ざっくり言うと、"恋謎会"のメンバーが順番に自説を唱える多重解決もの。
基本的にはホワイダニットが主眼になっていくのだけれど、推理の中で実は犯人の前提が違うのでは、実はトリックが使われたのでは、と話が展開していく。
作中のほとんどがディベートで構成されているため、極端に動きは少ないのだが、実は真相に繋がる伏線が散りばめられていたりするので飛ばし読みは厳禁。
意外性はあるが、整然としたロジックに帰結するところは、西沢保彦らしい作品であると言えよう。
もっとも、個々の推理にはふわっとした部分が残されており、ひとつひとつの推理によって見えてきた情報を繋ぎ合わせて、真相に行きあたるという形式である。
どれも本当っぽいぞ、という魅力的な推理が並ぶわけではなく、多重解決ものとしては、少し読みにくさを与えているだろうか。
外れていることがわかる強引な推理を1章分読むのは相応に苦痛。
ディベート部分をコンパクトにした中編程度のボリュームにまとめきれていたら、もっと評価も高まったのでは。
また、名前や団体名等の固有名詞が、ことごとく難読なのが面倒。
毎回ルビが振られるわけでもないので、最初に出てきたときに覚えきらないと、以降ストレスを貯めながら適当な当て字で読むか、いちいち該当箇所まで遡って読み方を確認しなければならない。
ちなみに、タイトルは"れんしゅうさつ"。
特に本文中に出てくるワーディングでもなく、意味は字面から推察するしかないのだが、ここまで難読にこだわる理由についても解き明かしてほしいものである。
【注意】ここから、ネタバレ強め。
ネタを知ってしまえば、どんでん返しのパターンとしては古典的なもの。
アンフェアではないか、と思ってしまうのだが、読み返してみると確かに事実しか書き込まれていないのである。
騙されてしまうポイントとしては、やはり最初の章の存在であろう。
梢絵が、見知らぬ男に襲われるシーン。
これを事実として確定させることで、視点人物=犯人説を消去せざるを得ない。
この章さえなければ、"恋謎会"のメンバーの推理を心内描写であからさまに否定し、イライラしながら憤る梢絵の態度から、"この人物は真相を知っているのでは"と思い当たるのだが、確定した事実との整合性から確信には至らず、"動機を知りたい梢絵にとって、誰がどのように殺したかは二の次の話"と勝手に納得してしまうのである。
ネタがわかってから、核心に触れそうなキーワードが出たときの梢絵のリアクションを見返すと、これは良く出来ているなと感心するばかりだ。
"恋謎会"の推理が肩透かしに終わり、真の探偵役、刑事の双侶(なるとも)が真相を暴くのだが、あっさり殺され、梢絵はシリアルキラールートへ突入。
なんというか、アンチミステリーの要素も含んでいるのだろうか。
双侶、あの状況でワンチャン期待したのかと思うと、ちょっと切ない。