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【ミステリーレビュー】愚者のエンドロール/米澤穂信(2002)

愚者のエンドロール/米澤穂信 

米澤穂信による、"古典部"シリーズ第二段。


あらすじ


2年F組の生徒が文化祭の出展に向けて制作した自主映画の試写会に招かれた古典部の4人。
しかし、その映画は、脚本担当の体調不良によって結末が書きあがっておらず、密室で少年の死体が発見されたところでストップしてしまっていた。
折木奉太郎は、制作の指揮をとる入須から、映画を完成させるために物語の結末を突き止めてほしいと依頼され、オブザーバーとして関係者の推理を検証していくことになる。



概要/感想(ネタバレなし)


密室の中で生徒が惨殺される。
日常の謎を解決する連作短編のような「氷菓」に対して、本格ミステリーの要素が強まった事件に挑む奉太郎。
もっとも、劇中劇となる自主映画の中で起こった殺人事件。
古典部の設定に無理がない範囲で、王道のテーマを持ち込むことに成功していたのでは。

「毒入りチョコレート事件」のオマージュとして描かれており、関係者が順に推理を語り、それを古典部が検証していくスタイル。
といっても、序盤はミステリー好きであれば明らかに違う、と憤るような推理ばかりで、多重解決モノの面白さよりも、キャラが立った古典部のやりとりで引っ張るタイプの読み物という印象が強い。
しかしながら、これがあっての後半戦である。
奉太郎がトンデモ推理をばっさばっさと切り捨てて、信頼度が高まっていたからこそ、終盤の物語の動き方に意外性が出て、頁をめくる手が止まらなくなる。
前作同様、サイズ的にもコンパクトなので、盛り上がってきてからはあっという間に読めてしまったな。

なんとなく、ヒロインの立ち位置である千反田えるの活躍が控えめな印象ではあったが、きちんと奉太郎が探偵役となるための導線を引き、妙な勘で確信を突いてくるという点で、しっかり存在感は出していたのかと。
ウイスキーボンボンを7粒食べて酔っぱらうシーンは、何に繋がっていたのだろうと思っていたが、「毒入りチョコレート事件」に当ててきた、ということね。



総評(ネタバレ注意)



本格ミステリーを古典部で、というワクワク感はあるのだが、劇中劇であるためサスペンス性はなし。
では、その分薄まった作品になっているかというと、そんなこともないのである。
奉太郎が使命感を見出し、ひとつの解決に辿り着くまでは、ライトな青春ミステリーとして捉えられるものの、他の部員たちの指摘により、残されていた伏線が明るみに出て本当の結末に辿り着く、という展開は、青春ミステリーの土俵で本格ミステリーに挑んだ本作だから可能になった多重解決。
仕掛けとしては単純であるが、それまで低レベルな推論が繰り出されていたのが、ひとつの目くらましになっていた。
奉太郎が探偵役ではあるけれど、彼らはあくまで古典部というチームである、というメッセージになっているようで熱くなる。

そのうえで、もうひとつ上のレイヤーでのオチもあって、伏線もしっかり回収。
プロットが見事、としか言いようがない。
5章の副題、「味でしょう」が何でこのタイトルになるんだ?と不思議だったが、なるほど、語呂合わせでヒントを示唆していたのか。

ちなみに、ミステリー映画の問題編を撮影した時点で、結末を知る唯一の人物が不在になるという構成としては、我孫子武丸の「探偵映画」を彷彿とさせる。
あとがきでも触れられていたので、しっかり意識はしていたようだ。
そちらを先に読んでいれば、"本郷は失踪まではしていないのだから、結末を聞けばいいじゃないか"というシンプルな疑問が浮かび、"どうしてそうしないのだろう?"という入須の真意に気付きやすかったかもしれない。

#読書感想文


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