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【ミステリーレビュー】探偵俱楽部/東野圭吾(1996年)

探偵俱楽部/東野圭吾

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東野圭吾による、ノンシリーズの短編集。


あらすじ



冷静かつ迅速な調査員たちが、難事件を鮮やかに解決。
VIP専用の会員制調査機関、探偵倶楽部に舞い込む依頼は多種多様。
視点人物が入れ替わるオムニバス形式によって、探偵倶楽部の活躍を描く全5編。



概要/感想(ネタバレなし)


1990年に「依頼人の娘」として祥伝社から刊行。
1996年の文庫化にあたり、「探偵俱楽部」と改題された作品。
2005年には、角川文庫から再販、2010年には谷原章介の主演でテレビドラマ化も果たしている。

物語の共通して登場するのは、探偵倶楽部の男女ふたりの調査員コンビ。
ただし、外見的な特徴以外、このふたりの素性やキャラクターはまったく描かれず、主人公とは言い難い。
実質的に、事件の関係者が交代で主役を務めており、探偵役にほぼスポットライトを当てないというのが、本作におけるチャレンジの部分であろう。

社長の自殺を、秘書の成田、婚約者の江里子、娘婿の副社長・高明の3人が、それぞれの事情から隠匿しようとする中でトリッキーな展開が待っている「偽装の夜」。
入浴中に感電死した富豪・孝三の死を、倒叙モノ風の書きぶりで描き、読者を混乱させる「罠の中」。
母が殺され、失意に暮れる美幸は、家族が何か隠し事をしていることを察して、探偵倶楽部に真相究明を依頼する「依頼人の娘」。
芙美子が依頼した浮気調査が、謎の多い殺人事件に発展する「探偵の使い方」。
大学教授・大原泰三は、娘である由理子の妊娠に対して、父親を突き止め、追放するために調査を依頼する「薔薇とナイフ」の全5編。
なるほど、探偵倶楽部という調査機関を前提としていながら、作風や探偵の関わり方を絶妙に変化させて、単調にならないように工夫されている。
キャラクター性を排除したことで、王道パターンに頼ることを避け、短編集としてのバランスを意識してアプローチを散らばせたといいったところだろうか。
薄味ながら、さすがのクオリティである。



総評(ネタバレ注意)


VIP専用の優秀な調査機関。
表情を出さず、個性も出さず、ということで、探偵のキャラクターを重要視するミステリー界へのアンチテーゼだったりするのかな。

依頼者のことを事前に調べるのも仕事のうちとはいえ、会員全員の身辺を常日頃から調査しているのでは、というほどの的確な情報網は、有能のレベルを超えているきらいはある。
ただし、万能すぎるな、と思ったあたりで、それを逆に利用される「探偵の使い方」が効いていた。
一般的な依頼から、思いがけない展開に発展するのは「薔薇とナイフ」も同様だが、探偵倶楽部が存在する世界観を上手く利用したという点で、こちらのほうが印象に残るだろうか。

「偽装の夜」、「罠の中」は、どちらも犯行計画の会話からスタートする倒叙モノを見せかけつつ、本編が進んでいる途中でイレギュラー要素が加わり、追い詰められる犯人を描くというよりも、犯人すら知らない真相を探偵倶楽部が暴いていくという形式。
事実上のタイトル作となる「依頼人の娘」は、正当派の展開ではあるものの、主人公の疑心暗鬼によってサスペンスのような空気を纏っているのが、少し異質。
いずれにしても、ブラフを張ったうえで、どんでん返し的な結末があるという点で、ひとつひとつは短いながらも、しっかり練られていた。

探偵倶楽部がいる世界観、というコンセプトでの短編集。
シリーズ化もできそうだと思う反面、やはり探偵のキャラクターが弱いと、それ以外の部分でのインパクトが重要になってくる。
これ以上続けるなら、探偵側のパーソナリティを掘り下げる必要も出てくるだろうし、作品としては面白いにも関わらず、そこに至らなかった理由もなんとなく推測できてしまうのである。


#読書感想文

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