大相撲九月場所14 高安ー豊昇龍
十四日目。
見応えある一番が多い一日だった。横綱、大関が振るわない中でも感じる、大相撲という文化の強さ。
まずは玉鷲に触れない訳にはいかないだろう。相手はうるさい翔猿だ。
しかし、真っ向勝負。
私は「小さい相手はやり辛いだろうなあ」と思いながら見守っていた。
杞憂もいいところだった。明日への勢いをつけるという意味でも大きい一勝。
ここ一番の集中力。圧巻。
だが、今日取り上げるのは、高安と豊昇龍の一番。
好対照な表情の二人。
立ち合い。高安のかち上げ。これで勝負は決したようなものだった。
豊昇龍の体が伸び上がり、前のめりに。高安は、これを冷静に引き落とす。
大関に昇進した頃の立ち合いが戻ってきた。
そして、戦を前にしているとは思えない穏やかな表情。かつては、気合を表に出す力士だったはず。立ち合いの仕切り前に一度手を強く叩くルーティーンが好きだった。
何か、達観したかのような。幾度となく味わった苦杯が、無欲の境地に立たせているような。
ある種、不気味ささえ覚える。心技体が今、高いレベルで調和している。
審判部は、素晴らしい取組を残してくれた。直接対決。
この一番は5時前か?4時台に千秋楽直接対決なんてあっただろうか?
とにかく本当に楽しみだ。両力士とも万全の状態で明日を迎えてほしい。
そして、この一番を取り上げた理由がもう一つ。憶測まみれの楽しみが生まれた。
(以下、本当にただの憶測であり妄想だ)
高安は、種を蒔いた。
ほぼ立ち合いで決した一番。豊昇龍は歯が立たなかった。
その直後の一礼。あの表情に、豊昇龍のただならぬ気迫を感じた。
簡単に優勝争いの引き立て役になるようなタマではない。何より、彼に流れている血がそれを許さないだろう。だが、今日ばかりはどうしようもなかった。
今の豊昇龍は、優勝争いという大波に抗う術を持ち合わせてはいなかった。
納得?仕方ない? まさか。
豊昇龍はまた一回り強くなる。そんな予感。
高安の千秋楽と、豊昇龍の輝かしい未来に大いなる期待を込めて、今日は筆を置く。
大相撲に携わる全ての皆様、あと一日、どうぞよろしくお願いします。