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パンツ一丁で藤井風を熱唱した話

タイトルと全く関係のない話から始まって申し訳ないが(後で話します)、私はルームメイトと会話をしない。

仲が悪いわけでもなく、私達はただ会話をしないのである。よくお笑い芸人コンビがプライベートで会う事も話すこともないという話をよく聞くがまさにそれである。同じ屋根の下で何年も暮せば当然会話も減るし、会話がないからといって気まずい空気が流れることもない。私が思い出せる最近した会話は「部屋の電気消すね」と「電気ポット借りるね」ぐらいである。ルームメイトはどう思っているだろうか……なんてたまに思うけど、でも会話をしないので私は分からないままだった。本題に戻ろう、

私は自室だとよくパンツ一丁になる。

パンイチで藤井風の「満ちてゆく」を歌いながら部屋の掃除をする。

それがどうやら最近のストレス解消法なのだが、私が歌うとルームメイトはきまってノイズキャンセリング機能付きのAirpodsをつける。当たり前である。うるさいのだから。遠回しに私の歌がノイズと言われている気もするが(事実その通りである)、私もバカでかい声で歌っているわけではないし、文句も言われないので、パンイチのまま掃除を続ける。私達は会話をしないので彼の真意は分からない。

違和感を覚えたのはその翌週だった。

私が大学から帰ってくると部屋からピアノの音が聞こえてきた。

私の部屋には電子ピアノが置いてある。多分、ルームメイトが弾いてるのだろう。彼は幼少の頃からピアノを習っていたらしく(羨ましい限りだ)、時たま思い出したかのように弾きに来る。それ自体はいつものことなのだが、私は彼が弾いてる曲に驚いたのだ、なんと藤井風の「満ちてゆく」を弾いていた。「あれ?これ俺がよく歌っている曲だ」と思いながら部屋のドアを開けると、私の帰宅に気づいた彼は弾くのをやめてしまった。少し気になったけど、私達は会話をしないので真偽は分からなかった。

「もしかして俺の歌を聞いている???」


そんな疑問が頭によぎった。その謎を確かめるべく私はパンイチで星野源の「喜劇」を歌った。無論、この検証においてパンイチになる必要性はまったくないのだが制御因子を揃えることは実験に必要なので仕方がない。今回もパンイチだ。そうして私は掃除をするたびバカみたいに喜劇を熱唱した。あくる日、いつものように大学から帰ってきて、見慣れたドアの前に立つと部屋からピアノの音が聞こえてきた。弾いてる曲はやはりというか「喜劇」だった。言葉を介さない会話がそこにあった気がした。それが私はなんだか嬉しくてしばらくドアを開けられずにいた。




演奏が終わってからドアを開けると、彼は知らん顔をしてピアノから離れてた。

「本当は歌が聞こえてる?」
「もしかして藤井風や星野源が好きなのかな?」
「他にどんな曲が好きなんだろう?」

いろいろよぎったけど、
私達は会話をしないのでその真偽は今も分からないままだった。

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