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春に生まれた人になんとなくわかってほしい話
春生まれの私は、名前にも春が入っているし、もちろん一番好きな季節も春である。
なんというか、ああ、春に生まれたなあ、と思う瞬間が日々に紛れている。言い表すのは難しいけど、とりあえず書いてみようと思う。
3月の中頃、いつもより夕方が長いことに気がついた。うちで飼っている老犬も、普段なら17時45分に鳴くのに、18時になっても鳴かなかった。
そうか、春の姿がそこまで見えているからなのか。ぽかぽかした暖かい空気を含んだ春が、すごそこまで来ていた。
3月28日。新しい生活に彩りがほしくて、お花屋さんに立ち寄った。
すみませーん、桜ください、きれいに咲くやつ。
塩顔の素敵なお兄さんは、どれも満開に咲くよ、と笑った。私は手前の桜と目があったような気がして、彼女と一緒に帰った。
4月1日のTwitterの世界トレンドは#新社会人。
新社会人なんてとっくの昔になったベテランだけでなく、ついこないだまで新社会人と呼ばれていたであろう若手までが、新社会人に向けてメッセージを送っていた。
見ず知らずのどこかの新社会人に、自分の経験や知識をシェアするこのコミュニティが素敵だと思った。毎年トレンドに上がることも、またいい。あったことのない新社会人たちの背中に翼が見えた気がした。
4月5日に彼女は散ってしまった。朝起きたらたくさんの花びらが落ちていた。いきたくないよう、と泣いたのかしらなんて考えながら掃除機でザーッと吸った。
なんてことない毎日だけど、道ゆく人たちはみんな地面から2ミリくらい浮いているんじゃない?なんだかふわふわしている。春っていうのは出会いと別れの季節、なんていうけど圧倒的に別れの方が多い気がするなあ。あの人、にんじんと玉ねぎ買ってる、今日の晩ご飯はカレーかな。あの人もこの人も、待っている人がいるのかな。ああ、なんてことない。でも、確かに春。