フットボールのダイヤモンド・オフェンス における攻撃サポートの構造化23 2.3.5 ファイナルゾーンにおけるプレー・オプション 〜バスケットボール3〜

2.3.5 ファイナルゾーンの状況におけるプレー・オプション 〜バスケットボール3〜

フットボールのダイヤモンド・オフェンス は、テックス・ウインターが考案したバスケットボールの攻撃メソッドであるトライアングル・オフェンス をベースにしたものである。テックス・ウインター(1962)が提唱したトライアングル・オフェンス には、フォワード(ウイング)がボール保持者になった場合に「4つのパスのオプション」がある。

パスの4つのオプション:
(フォワード(ウイング)がボールを外側で受け取ったとき)
ニックコーチはトライアングル・オフェンス をYouTubeの動画で説明している:

トライアングル・オフェンス はフォワード(ウイング)がパスをする位置に応じて4つのオプションに分かれている。
第1のオプション:中央へ斜め前のパス、ポストプレー
第2のオプション:バックパス、サイドチェンジ
第3のオプション:横パス、ライン間にポジションを取るプレーヤーへのパス
第4のオプション:同じ外側に位置するプレーヤーへの縦パス。

図29:フォワード(ウイング)が外側でボールを受けた場合

萩原が前の章で、

「最初の入りだけは決めておいて、そこからどう相手が崩れるかを見ながら連続させていくっていう感じ」

というフリーランスオフェンス の説明をしたが、トライアングル・オフェンスも「最初の入り」は決まっているのだ。フォワード(ウイング)が相手コートの外側でボールを受け、相手ディフェンスのプレーを読み、予測して、「4つのパスのオプション」から、フォワード(ウイング)がどれを選択するかによって、その後のプレイヤーの動き方、攻撃の仕方が変わってくる。


トライアングル・オフェンス の特徴:

フィル・ジャクソン(2014)は、トライアングル・オフェンス の特徴をこのように説明している:

トライアングル・オフェンス は、その名をそれ自体のキーポイントとなる特徴からとっている。トライアングル・オフェンス では、フロアの「ストロング」サイドに、サイドライントライアングルを3人のプレイヤーによって形成するのだ。



図30:ハーフコートに3つのトライアングルが形成されている

更に、フィル・ジャクソンはこう続ける:

理解すべき重要な点は、どのようにパスをするか、そしてどのようにディフェンスを読むかということである。

相手のディフェンスを読むために、どのように、どこにパスをするのか、4つのパスのオプションから1つを選択する。その1つのパスから、相手ディフェンスがどのように反応するのか、それを観察し、どこにスペースができるのか、そのスペースを素早く見つけることが大事であり、一瞬できたオープンスペースを素早く活用することがトライアングル・オフェンスには必要なことであり、そのコンセプトはそのままフットボールのダイヤモンド・オフェンス に応用される。


テックス・ウインター(2007)は、「安定したトライアングル・オフェンスをつくる7原則」を提唱した:

安定したトライアングル・オフェンスをつくる7原則:

(以下は、テックス・ウインターが提唱した「安定したトライアングル・オフェンスをつくる7原則」と「サウンドオフェンス 7つの原則」の要約である)

1. ディフェンスを突破しなければならない

ディフェンスを突破しなければならない。それを行なう最善の方法はカウンターアタックだ。なぜなら、バスケットボールはベースラインからベースラインまでのフルコートで行われるゲームだからだ。

2. スペーシング

フロアでプレイヤーは間隔を空けて配置されなければならない。そうすることでディフェンス側は攻撃側プレーヤーを捕まえることも、味方ディフェンスを助けることも難しくなる。プレーヤーは互いに数メートルの距離を離れている必要がある。その距離は様々である。この適切な間隔で、もし、相手ディフェンスが捕まえようとしても、常にオープンなプレーヤーが生まれることでしょう。

※スペーシング:味方プレイヤー同士の間隔や位置取り。

3. ボールとプレーヤーの動き

プレーヤーはコートでボールを動かし、自身も動かなければならない。しかし、目的を持たなければならない。なぜなら、ボールは1つしかなく各プレーヤーは80%の時間、ボールを持っていない状況にあるからだ。

4. ボール保持者のオプション

ボール保持者は、他の4人のチームメートにボールをパスすることができる状態であること。プレーヤーは常に動いていなければならない。

5. オフェンスリバウンドとディフェンスバランス

すべてのショットに対してしっかりとリバウンドポジションをとり、また、次のディフェンスに備えた適切な場所どりをおこなう。

6. 誰でもスペースを埋めることができる

オフェンス は、どのプレーヤーにも、その役割にかかわらず、コート上の空いているスペースを埋める機会を提供しなければならない。すべてのポジションは交換可能でなければならない。

7. 個々の才能を活用する

ベストプレーヤーを活用する(ベストシューターに確率の高いショットを打たせ、リバウンダーのためにリバウンドチャンスをつくり、ドライブが得意なプレーヤーには、ドライブチャンスをつくり出す)。しかし、常にコートの他のチームメートをリスペクトすること。マイケル・ジョーダンがこれを教えてくれました。

この「安定したトライアングル・オフェンス をつくる7原則」は、他の集団スポーツにも当てはまる普遍的な原則であると思う。バスケットボールだけではなく、フットボール、フットサル、ハンドボール、ラグビー等にも応用可能な原則だと考える。特にフットボールは、他の人数の少ない集団スポーツ(バスケット、ハンドボール、フットサル等)よりも、人数も多く、グラウンドも広大で、足を使い、野外で主に行われるスポーツであるので天候にも左右される非常に複雑性が高いスポーツである。応用するのが難しいこともあると思う。しかし、攻撃戦術や守備戦術、攻守の切り替え、セットプレーにいたるまで、フットボールはまだまだ、他の集団スポーツから学び、応用することができる戦略・戦術がまだまだたくさんあることだろう。フットボールはフットボールそれ自体を学ぶことも大切であるが、他のスポーツからアイディアを取り入れることで、フットボールというスポーツを飛躍的に進化させることがこれからも可能なスポーツであると考える。


プレーヤーの基本的なポジション:

セットオフェンスを始めるには、その基本的な考え方を理解する必要がある。テックス・ウインター(1962)は、プレーヤーの基本的なポジションについて説明している:

セットオフェンスを始めるにあたっては、センターをインサイドに置いた2−3のセットアップでフロアスペースを占める。プレーヤー同士はおよそ5−7mの間隔を維持すること。これによって、適切なフロアスペースがとれ、ディフェンスを広げることができ、同時に早くて正確なパスをまわすことができる。

図31:プレーヤーの基本的なポジション(展開ライン)

フットボールのプレーヤー間の距離は、15−20mが望ましい。スペインフットボールコーチングコース・レベル3の集団プレー(Juego Colectivo)の講義でセサル先生から学んだことだ。バスケットボールやその他の集団スポーツにおいても、そのスポーツにおけるコートの広さとプレーをする人数によって、プレーヤー間の間隔は違うことだろう。バスケットボールでは5−7mである。それ以上プレーヤー間の距離が離れるとパスが長くなるので、パスをするときに大きな動きになる。そうすると相手ディフェンスにパスを読まれてしまい、インターセプトされてしまう可能性が高くなることだろうし、ロングパスは技術的なミスも起こりやすい。

適切なプレーヤー間の距離をプレーヤー全員で取り、スペースを埋め、ショートパスで攻撃を組み立てると、相手ディフェンスにボールを取られても、すぐに取り返すことが可能である。プレーヤー間の距離が近いので、ボール近くの数人(3、4人)で、すぐにカウンタープレッシングをかけてボールを取り戻すこともできるであろう。ロングパスを使うのも有効な場合もあるが、自然とプレーヤー間の距離が開いてしまい、プレーヤーが走る距離が長くなるのと同時に、ボールを失った際にすぐにカウンタープレッシングをかけることが難しくなることだろう。なぜなら、プレーヤー間の距離が離れているからである。

逆にプレーヤー間の距離があまりに近いと、今度は1人のディフェンスだけで攻撃側の2人を同時にディフェンスすることが可能になってしまう。

フットボールの場合は攻撃時のプレーヤー間の距離を15−20m 取ると、DFライン、MFライン、FWラインの3ラインと仮定した場合、縦に30〜40m、横に3人が並んだ場合は40m、4人が並んだ場合はプレーヤー間の間隔を15mと仮定すると、60mになるので、自然と横幅をワイドに取る配置になることだろう。


引用・参考文献:

ジャクソン・フィル. イレブンリングス. 共著者:ディールハンティー・ヒュー. 訳:佐良土茂樹, 佐良土賢樹. スタジオ タック クリエイティブ. (2014). 82-83.

Winter, Tex. The triangle offense. FIBA assist magazine, (2007). 1-2. 4.

Winter, Tex. The Triple-post Offense: Sideline Triangle. Ag Press, (1997). 3-7, 9-11, 16-21, 40-49, 76--82, 88-90.

ウインター・テックス. バスケットボール:トライアングル・オフェンス. 監訳:笈田欣治. 訳者:村上佳司, 森山恭行. 大修館. (2007). 3-4.

バスケットボール用語辞典. 監修:小野秀二、小谷究. 廣済堂出版. (2017). 84.

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坂本 圭  フットボール進化研究所
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