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フットボールのダイヤモンド・オフェンスにおける攻撃サポートの構造化21 2.3 他のチームスポーツにおけるダイヤモンド・オフェンス ~バスケットボール~
2.3.1 トライアングル・オフェンスをダイヤモンド・オフェンスに適応させる
テックス・ウインターによって考案された「トライアングル・オフェンス」をフットボールの攻撃戦術のメソッドとして適応させることが、私の論文のテーマである。
トライアングル・オフェンスの目的:
テックス・ウインター(1962)は、バスケットボールのセットオフェンスのメソッドとしてトライアングル・オフェンス考案した。テックス・ウインター(1962)によるトライアングル・オフェンスの目的は:
適切な得点チャンスを生み出すことであり、これはすべてのオフェンスの基本的な目的である。
言い換えるなら、トライアングル・オフェンスは、シュートチャンスを創り出すことを目的とした方法・手段である。私はこのトライアングル・オフェンスのコンセプトをフットボールのダイヤモンド・オフェンスに適用することを試みた。
トライアングル・オフェンスのコンセプト:
トライアングル・オフェンスのプレーメソッドはテックス・ウインター(2007)が1950年代に考案した:
それはチームに無私のプレーと攻撃の創造的な意思決定のオプションを与えるユニークなバスケットボールのコンセプトである。
チームが無私のプレーをするという意味は、「私」ではなく、「私たち」のチームとしてプレーをするという心の変化である。それは私心を捨て、私たちは1つのチームとしてプレーをすることを何よりも優先するというプレー哲学である。
トライアングル・オフェンスを使い、NBAで監督として11回制覇するという偉業、記録を持っているフィル・ジャクソン(2013)は、トライアングル・オフェンスについてこのように述べている:
トライアングルは、どんなシステムでも自分自身で得点する方法を発見できるスーパースターたちのために設計されたものではない。チームの他のすべてのプレイヤー、自分自身でショットを生み出す力を持たないプレイヤーたちのために設計されたものなのだ。そして、トライアングルは、シュートを打とうと打つまいと、すべてのプレイヤーにオフェンスで重大な役割を持たせる。
フィル・ジャクソンが述べたことに対して、私は深く感銘を受け、この攻撃メソッドを是非ともフットボールに適応させたいと強く思っていた。
このすべてのプレイヤーにオフェンスで重大な役割を持たせるトライアングル・オフェンスのアイディアは、チームスポーツの攻撃メソッドにとって最高で最適なものだと考える。トライアングル・オフェンスは、自分自身でシュートを生み出す力を持たないプレイヤーたちのためにあるのだ。これは、たとえタレント性の低いプレイヤーが多くいるチームであっても、プレーの仕方次第では、強い相手チームに試合で勝つ可能性が十分にあることを示している。
2.3.2 プレーを読む
フィル・ジャクソン(2013)は「プレーを読む」ことについてこのように述べている:
理解すべき重要な点は、どのようにパスをするか、そしてどのようにディフェンスを読むかということである。
続いて、フィル・ジャクソン(2013)は、試合中に相手のプレーを読むとは、どのようなことを言うのかについて説明している:
私が好んでいるのはトライアングル・オフェンスを「5人で行なう太極拳」と考えることだ。なぜなら、トライアングル・オフェンスは、ディフェンスの位置取り自体に応じて動く、すべてのプレイヤーを巻き込むからである。この考え方は、ディフェンスに闇雲に向かっていくということではない。ディフェンスが何をしているのかを読み、それに応じて反応するということである。
トライアングル・オフェンスの最も重要な特徴は、すべてのプレイヤーが相手ディフェンスの位置取りを読み、反応していく。相手ディフェンスの動きに対して攻撃のプレイヤー全員が調和したリアクションしていくのだ。この動きはチームメートの相互作用から生じる。その相互作用から自己組織化が起こり、即興プレーとして現れる創発が発生する。それは、多くの攻撃パターンを覚えるのではなく(もちろん基本的な攻撃パターンを覚える必要はあるが)、攻撃メソッドの原則を理解し、直感的にプレーすることができるまでトレーニングすることであると考える。
2.3.3 即興プレー
テックス・ウインター(2007)は、トライアングル・オフェンスの信念についてこのように説明している:
私の信念は、プレイヤーは相手ディフェンスを読み、コートの上で何が起きているのかを知っていて、それに応じてリアクションしなければならない。
第二に、バスケットボールは反射のスポーツでなければならない。私のチームは流動的、直感的で完全なゲームをすることを望んでいる。
テックス・ウインターのこの信念は、そのままフットボールのダイヤモンド・オフェンスのコンセプトに適応させることができる。
なぜなら、フットボールの未来は、より組織的で、分析的で、流動的で、直感的で、素早くプレーをしなければならないと考えるからだ。フットボールのディフェンス戦術の進化は非常に早く、相手ディフェンスに対抗するためには、チームの戦略・戦術を念頭に置き、プレー中に相手ディフェンスのプレーを読み、直感的に動き、チームメートとコミュニケーションを取って相互作用し、プレーを素早く選択する必要がある。試合中に思考を止めることはできない。
コービー・ブライアント(2013)は、トライアングル・オフェンスについてこのように説明している:
相手チームには、僕たちが何をしようとしているかわからないからね。なんでかって? それは、僕たちだってこの一瞬一瞬に何をしようとしているかなんて分かってないからだよ。全員が、互いを読み合って、反応し合う。巨大なオーケストラだ
フットボールも、バスケットボールのようにプレイヤー間の相互作用からなるスポーツだ。フットボールはバスケットボールに比べてプレーをする人数も多く、コートも広大であるのでより複雑なスポーツであると考える。コービー・ブライアントが説明したように、フットボールの試合でも一瞬一瞬、自分たちが何をしようとしているかなんて分からないと思う。プレイヤーは無意識的に相手ディフェンスのプレーを読み、相手のプレーを学び、直感的に反応し、チームメートとの相互作用によって自己組織化する。その自己組織化から創発が発生し、それが結果として即興プレーという形として目に見えるのだろう。
引用・参考文献:
ウインター・テックス. バスケットボール:トライアングル・オフェンス. 監訳:笈田欣治. 訳者:村上佳司, 森山恭行. 大修館. (2007). 2.
Winter, Tex. The triangle offense FIBA assist magazine 2007.
ジャクソン・フィル. イレブンリングス:勝利の神髄. ディールハンティー・ヒュー共著. 訳者:佐良士茂樹, 佐良士賢樹. Studio Tac Creative. 2014. 82-83.
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