『海に眠るダイヤモンド』の叙述トリックについて
2024年は野木亜希子さんの年と言っても過言ではないでしょう。
もちろん宮藤官九郎さんのご活躍も素晴らしく『不適切にもほどがある!』、『新宿野戦病院』、『終りに見た街』という3作品が世間に与えたインパクトはすさまじいものがありました。
そうなってくると『君と宇宙を歩くために』がマンガ大賞2024、このマンガがすごい!2025の2冠を達成した泥ノ田犬彦先生も外せません。
きりが無いのでこれらは別記事に譲るとして、今回は野木亜希子さんの『海に眠るダイヤモンド』について個人的に不満だった点を挙げたいと思います。
以下『海に眠るダイヤモンド』のネタバレを含みます。
また、作品を貶める意味合いはなく、ただ僕の視聴してきた思い出が損なわれたことに対する残念さを書き残しておきたいという意図です。
全体的に最後まで楽しく視聴させていただきました。
■映像の叙述トリック
本作はドラマの構造上の謎が2段階用意されていました。
1つ目は、現代編で宮本信子さん演じる「いづみ」さんが過去編では誰が演じているのか。
杉咲花さん、土屋太鳳さん、池田エライザさんがそれぞれ序盤ではいづみさんらしき振る舞いをするので視聴者は謎解きの楽しさも味わうことができました。
そして2つ目は、神木隆之介さんが一人二役を演じた現代編のホスト「玲央」と過去編の外勤「鉄平」はなぜ顔がそっくりなのか、という謎です。
鉄平の孫であるという先入観で物語を追う我々は、鉄平の結婚相手が誰なのかを探りながら視聴することになりました。
いよいよ過去編で鉄平が映っている映像をいづみさんと玲央とが確認しました。
するとそこに映っていたのは神木隆之介さんではなく百蔵充輝さんが演じる鉄平でした。
玲央が「(俺と)似てる?」といづみさんに聞くと「似て、ないねー」と答えたのでした。
つまりこれまで僕たちが見てきたのは、いづみさんが言う「玲央は鉄平に似ている」という情報から玲央が鉄平の日記を読んで想像してきたものだった、ということです。
野木さんによる映像のミスリードにより、勝手に「玲央は鉄平の孫」と思い込んでいたということです。
叙述トリックの一種ではあるのですが、僕はこの映像トリックに落胆しました。
これまで見てきた朝子(杉咲花さん)、百合子(土屋太鳳さん)、リナ(池田エライザさん)、賢将(清水尋也さん)との対話は神木隆之介さんじゃなかったんです。
笑ったり泣いたりしてきた相手が神木さんじゃなかった。
つまり僕の視聴してきた思い出は全部嘘だったということです。
残念過ぎます。
朝子が夢を語ってはにかんだ相手が神木さんじゃなかったなんて。
映像の叙述トリックとしては面白いし驚きました。
設定の穴もありません。
だけどやはり朝子の相手は神木さんが演じる鉄平が良かったです。
■さかもと五度案
やはり僕は神木隆之介さんと杉咲花さんが演じ、想い合っていた過去編が良いと思います。
そこで僕が考えた案はこうです。
「玲央といづみさんからは似ているように見えない」
玲央が「(俺と)似てる?」といづみさんに聞くと「似て、ないねー」と答えるのは同じ。そして鉄平を演じるのは神木さんです。口に綿を詰めたりしても良いかも知れません。
玲央からもいづみさんからも鉄平に似ているように見えない。でもなぜかいづみさんは玲央の中に鉄平らしさを見出した。結果玲央のおかげで鉄平の行く末をたどることができた数奇な運命。
こんな感じでも良かった気がします。
■とは言え良いドラマでした
個人的にかなりショックでしたが、全体的に良いドラマでした。
端島。軍艦島の過去を知らなかったので勉強になりましたし。
それに「ダイヤモンド」の意味合いが「石炭」から「ギヤマン」に変化する素晴らしい構成もお見事でした。
そして映像の中で構築された過去編の端島と現代編で実際に内部に訪れた軍艦島とがつながるラスト。つまり冒頭との円環構造も素晴らしい構成でした。
何も知らない我々にとっては廃墟でしかなかったのに、最終話を迎えた我々には思い出と涙が詰まった大切な場所となりました。
本当にギヤマンの一輪挿しが今でも輝いているのではないかと思わせるほどの没入度です。
野木さんは2024年、映画では『ラストマイル』で現代の社会問題を描き、ドラマでは『海に眠るダイヤモンド』で軍艦島の歴史と現代に引き継がれた希望を描きました。
今後も目が離せない作家の一人です。
『海に眠るダイヤモンド』に関わったすべてのみなさん、お疲れ様でございました。