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『夜明けまでバス停で』を観てもテロを起こさないために

『万引き家族』『岬の兄妹』『ミッドナイトスワン』『花束みたいな恋をした』『さがす』と最近の邦画の傑作は、「貧困」をストーリーに訪れる取り返しのつかない不幸として描かれる。
そしてドラマでは『アバランチ』や現在放送中の『エルピス -希望、あるいは災い-』、Amazonプライムで配信中の『仮面ライダーBLACK SUN』など社会批評性の高い作品が放映されている。

『夜明けまでバス停で』は「貧困」と「社会批判」を同時に含む。
あらすじはこうだ。
コロナ禍により職と住居を奪われた北林三知子(板谷由夏)。ホームレスとしてバス停のベンチで夜を過ごす日々だ。ホームレスのおじさん(通称バクダン・柄本明)から爆弾の作り方を教わる。

現代の日本を穿つパワーを持つ作品だ。
以下ネタバレを含む。


■ もう我々にはバクダンしかないのか

バイト先の居酒屋はセクハラやパワハラが当たり前の男性マネージャーと、言いなりの女性店長がいて、愚痴を言い合う同僚がいる。
フィリピン人の皿洗いの女性は旦那に逃げられ娘も家を出て行き、孫3人を育てるのに必死で食べ残しを待ち帰っている。
コロナ禍により若い同僚以外は解雇されてしまう。
職場が用意しているアパートから退去しなければならなくなり住むところも失ってしまう。

コロナ禍ごときで社会から分断されてしまう。
この主人公のような状況に陥っている女性が多いであろうことは、女性の自殺率増加からも想像できる。
環境の変化でいともたやすく社会から見捨てられてしまう。
炊き出しの列やホームレス達のダンボールハウスのすぐ近くでオリンピック2020がおぞましく掲げられている。人が社会から見捨てられている東京で、まるでそんな人など居ないかのように華やかなイベントが強行された。

おそらく多くの観客がこの映画を見て『JOKER』の時のような血のたぎりを覚えたのではないか。
エンドロールの途中で国会議事堂が爆破されたが、あれを見て悲しんだ人はいるのか。納得したり理解したのではないか。まるで悪者に天罰が下ったかのように。

もう我々には爆弾しか残されていないのだろうか。あるいは銃撃。あるいは自殺。
ラストがヒントに感じた。
ホームレスのバクダンから『腹腹時計』を譲り受け爆弾を作ってしまった主人公だが、もし彼女が別の物を譲り受けていたらどうか。
退職金を持ってきてくれた店長と友情を深めてアクセサリー屋を開けていたら。
社会への復讐ではなく、人と人との出会いの奇跡性を優先できていたら。

僕の希望というか切願は「人を殺すな」「自殺するな」「社会のためではなく大事な人のために生きよう」ということだ。


■ まとめ

冒頭に挙げた作品たちがわかりやすく描いているようにこの社会はすでに終わっている。クズ達がむさぼり再生不可能なまでにスカスカだ。
だから社会のために生きれば生きるほど搾取されてしまう。
なので大事な人のために生きよう。大事な人がいない場合は大事な物や大事な空間のために生きよう。
社会を捨てずに逸脱しないまま、テロを起こさないで生きる。
そもそもテロ程度で変わるような日本ではない。安倍晋三銃撃事件のその後を生きる僕らにとっては泣きたくなるほど自明なことだろう。

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