別れの映画『PERFECT DAYS』
『PERFECT DAYS』を再び鑑賞してきました。
何かを確認したいわけでもなく、ただもう一度映画館で観ておきたいと思ったのです。
パンフレットも購入しようと思いました。
(映画のパンフレットって電子書籍化できないのでしょうか。需要があると思います)
パンフレットを購入して良かったです。本作が心に残った方は必ずお気に召すかと思います。
平山(役所広司)のフルネームも載ってますし。
2回目の鑑賞で思ったことを、登場人物ごとに書き残しておきたいと思います。
1回目の時は感じなかったのですが、この映画は様々な別れを描いた作品なんだなと新たに気づきました。
以下の文章は作品をご覧になっていないと何を言っているのかわからないと思います。今すぐ映画館へ行きましょう。
■平山と別れていった人たち
2回目に観た平山さんは1回目の時とは印象が違う部分がありました。
タカシ(柄本時生)が突然辞めてシフトがきつくなった時に会社に電話をするシーンで怒りを露わにしていましたが、もっと声を荒らげてるかと思ったらそうでもなかったです。物静かな人というイメージだったから驚きが強くてインパクトが大きかったのでしょう。
パンフレットにはこのシーンで監督からもっと怒るよう演出があったと書かれています。やはり初見だとびっくりしますよね。そして平山さんの人間らしさが垣間見えるシーンでもあります。
それと古本屋の100円棚から本を選ぶ平山さんは、100円棚に並ばない本はずっと読まないってことだよな、とも思いました。だからどうしたと言われたらそれまでですが。
平山さんは劇中、いろんな人と出会い別れていきます。
■アヤ(アオイヤマダ)
ガールズバーの店員アヤ(アオイヤマダ)はタカシ(柄本時生)が熱を上げてる女性です。
平山さん所有のカセットテープの音が気に入る一方で、タカシの「10のうちの10」というような数字による評価を好ましく思っていません。
アヤは、タカシがこっそりアヤのカバンに入れたカセットテープを返すために平山のもとを訪れます。
この時車中でアヤは悲しそうに涙を流します。
これは僕の想像でしかありませんが、アヤはタカシからの好意に応えられないことを苦しんでいたのかも知れません。
タカシはお金が無いとアヤに会えない。そしてタカシは数値化の世界の住人です。平山の妹(麻生祐未)や平山の父親と同じ世界です。でもアヤは違うのでしょう。だからタカシとは一緒に居られない。
きっとアヤはタカシが平山さんのような世界観の持ち主であればと感じたことでしょう。
アヤがガールズバーという数値化の世界で働いていることでタカシを追い詰めていることに気付けたのは平山さんのおかげなのでしょう。
それが車中での涙の意味かなと感じました。
平山と妹が離れなければならなかった理由が、アヤとタカシにより予め示唆されていたことになります。
■ でらちゃん(吉田葵)
タカシが仕事を辞めたことで別れることになった人物にでらちゃん(吉田葵)も存在します。
タカシの耳を触るのが大好きで、トイレ掃除に来ていないか探し回っているでらちゃんですが、彼はタカシが辞めたことを理解できないかも知れません。彼はずっとトイレにタカシが居ないか探し続けてしまうのかも知れません。
そして平山さんも、タカシとでらちゃんの関係性を微笑ましく思っていただけに、二人の別れは悲しいと感じたことでしょう。
■ タカシ(柄本時生)
タカシの突然の退職はアヤが関係しているかも知れません。
ガールズバーを辞めたのか、それともタカシをこれ以上苦しめないようにもう会えないことを告げたのかも知れません。これらは僕の想像でしかありませんが、タカシが働く理由を失ったのは事実でしょう。
■ ホームレス(田中泯)
タカシと最後に電話をした場所は、ホームレス(田中泯)がいつも居た場所でもあります。
数日前にホームレスは別れの挨拶をするかのように平山さんの方を向いて少しお辞儀をしていました。
つまり平山さんにとってこの日はタカシとホームレスという2人の男性と別れたことになります。
ホームレスはその後渋谷駅近くの交差点と思われるところでいつものようにパフォーマンスをしているところを目撃できましたけれど。
■ 妹(麻生祐未)
平山さんの妹(麻生祐未)と別れるシーンは2回目に見てもやはり涙を浮かべてしまいました。
1回目に観た時は、平山さんに「トイレ掃除してるの?」と聞いた時の表情がすごく嫌そうに感じましたが、2回目の印象は全然違いました。
僕が2回目に感じたのは「兄さんならもっとすごい仕事ができるのになんで」という悲しみの表情なのでは、ということです。妹は嫌な奴ではない、ということを踏まえて鑑賞したことで1回目とは違った印象になったことが嬉しかったです。
■ ニコ(中野有紗)
平山の姪ニコ(中野有紗)も平山と再会できる約束をした数少ない登場人物の1人です。
母親と伯父さんは住む世界が違うと聞かされ「私はどっちと一緒?」と平山さんに質問しましたが、答えてもらえませんでした。平山さんとしては自分の世界に近いと気付いていたはずですが、母親と一緒に生きた方が苦しむことは少ないと思ったのかも知れません。
ですが『11の物語』(パトリシア・ハイスミス)の「すっぽん」に登場するヴィクターになってしまいそうな姪のことは平山はほっとけないでしょう。
(ヴィクターは母親を許せずに刺し殺してしまうようです)
■ 友山(三浦友和)
友山(三浦友和)は癌が転移していると告げたように、作中で一番死に近い存在です。
平山さんも加齢や飲酒や食生活などで健康面が気になりますが、死を感じさせる友山は今後絶対に会うことが出来ないことが決定付けられています。
平山さんにとって、アヤもタカシも妹もホームレスも、今度会えるかも知れない存在です。
ですが友山は違います。
そしてこの束の間の親友との別れのシーンが川であるというのが印象的です。
川は流れていきます。常に海の方へと向かっていきます。一方、木はずっとそこにとどまります。
もう会うことが出来ない友山との別れのシーンは川でなければならなかったのでしょう。
■別れの映画
劇中に流れる「Perfect Day」(Lou Reed)にはこのようなフレーズが繰り返されます。
この数日間のうちに平山さんに訪れた出会いと別れは平山さんにだけ訪れた、平山さんだけのものです。
他の誰にも体験できません。
平山さんが関与したからこそ別れが発生しました。
これらを踏まえると、最後の平山さんの表情には様々な感情が乗っていることに気付きました。
1回目の鑑賞では「喜怒哀楽どれでもあるような、どれでもないような。でも世界を讃えている」と感じました。
(参照記事 世界を愛するか、社会にすがるか【映画】『PERFECT DAYS』の世界観)
2回目の鑑賞では「別れの悲しみが強い。それでもこの世界を愛している。それは別れの悲しみを与えてくれたことすらも含めて」と感じました。
正解などはありませんし、平山さんの感情は平山さんだけのものです。
ですがこの作品を鑑賞し、皆様の中にもいろんな感情が芽生えたはずです。
本稿をお読みいただき、共感していただけた点や、正反対な感想を抱いた点もあるかと思います。
僕は平山さんに共感し、学んだように、それら全てを含めてこの世界を愛しています。
この日々は足すことも引くことも出来ない。あるがままですでにもう完璧だったのです。