誰がジョーカーの魅力を剥いだのか 『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』
酷評されている『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(原題『Joker: Folie à Deux』)を鑑賞しました。
(以下「フォリアドゥ」)
鑑賞後酷評する人たちの気持ちがわかりました。
前作と比較する形で今作の酷評ポイント(みんなが反感を抱いた点)をまとめたいと思います。
以下「フォリアドゥ」と『ジョーカー』(原題『Joker』)のネタバレを含みます。
キーワードは「誰がジョーカーの魅力を剥いだのか」です。
⬛︎ Folie à Deux (フォリ・ア・ドゥ)って何
フォリ・ア・ドゥとは、「感応精神病」「2人狂い」などと翻訳されるフランス語らしいです。
妄念が相手に感染し、その妄念が広がっていく、というもの。
前作『ジョーカー』は虐げられた男が社会に復讐したお話でした。その振る舞いに感応した人たちが暴徒と化し、現実社会をも巻き込みかねないと不安視された衝撃作です。
一方「フォリアドゥ」はジョーカー(ホアキン・フェニックス)の妄念がハーレクイン(レディ・ガガ)に感染する、という構成。
「フォリアドゥ」では「2人狂い」の相手が3人登場する。
ハーレクイン。
ジョーカーを慕う男囚(ジェイコブ・ロフランド)。
そしてサイコパスの男囚(コナー・ストーリー)。
ハーレクインはジョーカーが吐いたタバコの煙を吸い込んだり、受精し子を孕んだりする。
(受胎が発覚するにしては時期が早すぎる?)
ジョーカーを慕う男囚はジョーカーからキスの仕方を教わるという形でますます心酔し、その後看守の暴行により命を落とす。
サイコパスの男囚はジョーカーを神格視する余り、カリスマ性を失いジョーカーからアーサーへと戻ってしまったことに怒り刺し殺す。
3人のうち男囚2人が観客を想定・投影しているのではないでしょうか。
つまりジョーカーに心酔してしまい社会から排除されてしまうか、魅力を失ったジョーカーに怒りジョーカーそのものを殺してしまうか、です。
⬛︎ 誰がジョーカーの魅力を剥いだのか
「フォリアドゥ」のストーリーはわかりやすい。
貧相な男が女に好きと言ってもらえて男性性を取り戻すも、振られて貧相に逆戻りしたあげく、期待外れだと殺される話です。
前作『ジョーカー』には反倫理的高揚感がありました。今まさに弱者男性たちが社会に、日本に抱いているイライラや憎しみ、復讐心のようなものを刺激されました。
悪でしか無いジョーカーに対して「良くやった。お前は代弁者だ」とばかりに高揚したのです。
模倣犯が出るかも知れないと危険視されてしまうほどの魅力と感染力がありました。
今作「フォリアドゥ」はそう言った意味で肩透かしをあえて行います。
ジョーカーはただの弱い貧相な男であると強調したのです。女に好きと言ってもらえて浮かれてしまい、挿入時に「いいの?」と優しく聞くような、全然悪では無い凡夫に描きました。
それはそのまま反倫理的高揚感を抱いて鑑賞に来た我々に冷水をぶっかける形となっています。
悪に惹かれると男囚のように看守(つまり社会)から殺されてしまう。
ハーレクインに振られてしょぼくれるおじさんのことを持てはやしてただけなんだぞ、と。
この趣味の悪い嫌がらせのようなオチにしてしまったのは、『ジョーカー』ファンとそれを過剰に恐れるような社会なのかも知れません。
ジョーカーをいくらでもかっこよく、反倫理的に、現実社会にも侵食してしまうように描くことも出来たのに、あえて正反対に、しかもミュージカル調で、しかも最後に死なせる、と執拗にカッコ悪く描いたのは、そう言った意味からでしょう。
⬛︎ でもそれをやっちゃいけなくないですか?
『ジョーカー』の魅力のひとつに『ダークナイト』(クリストファー・ノーラン監督)を想起させる構成があります。
ジョーカーの誕生と同時に、バットマン誕生の契機をも描いたのです。
「フォリアドゥ」ではハービー・デント検事を登場させ、さらに『ダークナイト』を意識させました。
それなのにジョーカーを死なせてしまっては『ダークナイト』につながらないじゃないですか。
そこまでして我々の物語をへし折る必要はありますか?
ジョーカーを殺した男囚が二代目ジョーカーという展開も無くはないですが、それだと弱いと感じます。
わかりやすく「この後『ダークナイト』につながっていくんだな」とオタクを喜ばせてた方が良かったと思うんですけど。
「もしそれで現実にテロ事件が起きたらどうするんだ!」って?
そんなの簡単です。
腐敗した政治を無くせば良い。
不当な社会環境を治せば良い。
ジョーカーはなぜ誕生したのか。『ジョーカー』を見れば分かることじゃ無いですか。
それでも社会を変えなかった我々の問題なんですよ。
特殊詐欺も闇バイトによる強盗殺人も国民幸福度の低さも少子化も、何もかも根は一緒です。
何もしなくても、現状維持というだけで様々な形でジョーカーは誕生し続けています。