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和歌山毒物カレー事件は冤罪か【映画】『Mommy』から学ぶ冤罪

【冤罪】
無実であるのに犯罪者として扱われること。
法的手続きが不備であるにも関わらず犯罪者として扱われること。


◼️はじめに

 和歌山毒物カレー事件を扱ったドキュメント映画『Mommy』(二村真弘監督)を観てきました。
 鑑賞前の記事も載せておきます。

 僕が林眞須美死刑囚の冤罪について考えたのは、『暴走する検察 歪んだ正義と日本の劣化~マル激トーク・オン・ディマンドvol.12』を読んだのがきっかけです。

2020年7月発売 光文社

 僕も多くの方々と同じように、死刑判決になんの疑いも抱かず、保険金詐欺も起こしている毒を使う異常な犯罪者、というイメージしかありませんでした。
 ですがこの本を読み、考えは正反対になりました。
 今では冤罪派であり、証拠不十分で動機も不明なまま死刑判決を下した司法に対し強い不信感を抱いています。

 ぜひこの件について気になっている方はこの本を手にして欲しいです。
 『Mommy』は公開している映画館が少なく、僕が観た平日初回もほぼ満員だったため、なかなか観るのが難しい方もいらっしゃるでしょう。

 もし映画館に行くことが可能でしたら、ぜひパンフレットもご購入いただきたいです。
 映画とパンフレットでより深く本件を思考することができます。




◼️一番の問題だと感じること

 冤罪はいけない。
 当たり前すぎるほど当たり前です。
 無実の人の人生が司法によって壊されてしまうからです。
 「10人の罪人を見逃したとしても、1人の無実の人物を罰してはならない」
 いわゆる「推定無罪」です。
 状況だけで判断したり、報道や世論に迎合して判決を下してはならないのです。
 ですが和歌山毒物カレー事件ではそれが起きました。

 もし、なんでも分かる神様が「林眞須美が真犯人である」と見抜いたとしましょう。それでも「推定無罪」は「推定無罪」です。
 証拠も無く動機も無い。つまりまだ死刑判決を下してはいけません。
 なぜなら法への信頼が失われるからです。
 態度や噂レベルで捕まったり逃げ切ったりできるのであれば、不当逮捕が当たり前になってしまうでしょう。

 真犯人が誰か。
 もちろんそれが判明することも大事です。
 ですが僕が一番問題だと感じていることは「推定無罪が損なわれている」という部分です。
 これは社会を運営するために必要なことのひとつが侵されているということです。

◼️映画の感想

 『暴走する検察 歪んだ正義と日本の劣化~マル激トーク・オン・ディマンドvol.12』をすでに読んできた僕にとって、目新しい情報はありませんでした。
 やはり冤罪としか思えないな、と考えを強めました。
 逆に言えば、本件について知らない方にはものすごく面白い映画ということでしょう。
 映画では、街頭ビラ配り中に意見する男性が登場します。これはまさに情報を知る前の我々の姿です。
 保険金詐欺を働いてるし、ヒ素だし、死刑判決出てるし、犯人でしょ、というような。

 二村監督は様々な人達に取材を申し込んでいて、その執念は狂気すら孕んでいるように映ります。
 映画のラスト、その執念がある結果を引き起こしてしまいます。ぜひ何が起きたのかは劇場にてご覧ください。
 ジャーナリズムとは何なのかについても考える契機となるでしょう。

◼️事件の不明な点

 この項目では、映画と本で知った不可解な点や不明な点を挙げていきます。
 みなさんはどのようにお考えでしょうか。
 ぜひお読みいただき、ご意見をいただきたいです。

【ヒ素の量】

 保険金詐欺を働いた夫の健治氏。ヒ素を興味本位で舐めて体調を崩したことから保険金詐欺を思いついたそうだ。
 ここでご注目いただきたいのが「ヒ素の量」。
 カレーの鍋には135グラムのヒ素が混入していたとのことですが、数グラムで人体に影響が出るほどの毒です。なぜバレるほど大量に入れる必要があったのでしょうか。
 林氏であればヒ素の怖さは誰よりも理解していたはず。バレない量も把握できたはずです。

【証言】

 目撃証言が有罪の後押しをしたと思いますが、この証言も信憑性に欠けるように感じます。

 事件当時カレーの鍋が2つ。他の鍋が2つありました。そして4つの鍋の内の1つにヒ素が混入されました。
 なんと、証言で「林眞須美さんが蓋を開けたのを目撃した」とされた鍋にはヒ素が入っていないのです。
 ヒ素を混入した目撃証言ではない上に、鍋まで別なんです。
 これが証言として認められるんでしょうか。

【ヒ素の成分】

 現場の紙コップにあったヒ素と、林家で見つかったヒ素(この見つかったヒ素に対しても怪しい動きがあったようなのですが、割愛します)。
 この2つのヒ素が「同じ起源」だと科学鑑定が出ました。
 ですが調査を進めると、「同じ起源」のヒ素は和歌山にドラム缶でいくつもあったはずだ、とわかりました。

 例えば、コンビニのおにぎりが遺体の近くに落ちていたとします。
 容疑者の自宅にも同じコンビニのおにぎりが見つかりました。
 「同じ起源のおにぎり」があったのでこの容疑者が真犯人と言えるでしょうか。
 そんなわけありませんよね。コンビニはたくさんありますし、おにぎりも1日に何個も販売されているでしょう。その1個ずつだけで真犯人と断定できるはずがありません。

【動機が無い】

 保険金詐欺を働いた林夫婦。
 お祭りのカレーにヒ素を入れたところで一切儲かることはありません。
 このことからもヒ素を混入する理由が無いことがわかります。 

【保険金詐欺】

 林夫婦と仲が良かった人物が保険金詐欺のアドバイスを受け、ヒ素を摂取したとされています。それも何度も。
 これも林夫婦の利益にはならないことですし、そもそもヒ素入りの飲み物などを何度も何度も飲むということからも、自ら保険金詐欺のために、というのが理解しやすいでしょう。
 普通毒を盛られたらその人とはもう会わないし訴えるでしょう。

【当時の記者】

 加熱報道時、カレー事件以前にヒ素による保険金詐欺を暴いた記者がいて、映画でインタビューを受けていました。
 彼は「冤罪の可能性については情報を得ている。ただ自分は林夫妻や事件に近過ぎたから今さら再度事件について語るのは公平性に欠ける」という内容の発言をしています。
 僕は「逆では?」と感じました。
 ヒ素による保険金詐欺についての記事がその後のマスコミの偏向報道を加速させた自覚があるのだとしたら、そのことを語って欲しいです。
 そして、ヒ素による保険金詐欺と、ヒ素カレーによる無差別な死傷事件とでは根本的に事件性が違うと。再審すべきだと。
 もしジャーナリズムがあるのならばそのように発言して欲しいです。
 「事実を述べただけ。あとは受け手が思考し判断するべき」という考えなのであれば、あまりに悲しみが大き過ぎました。
(林家の娘さんやお孫さんがその後どうなったかを調べてみてください)

◼️最後に

 本作を契機に冤罪の可能性を問う人が一人で増えることを切に願います。
 繰り返しますが、この事件で林眞須美死刑囚には一切証拠も無ければ動機もありません。

 もしあなたの母親がある日突然殺人事件の犯人に選ばれてしまったら。
 もしあなたがやってもいない殺人事件の犯人に選ばれてしまったら。

 頼るべき司法も信用できないとしたら。
 偏向報道も市民によるバッシングも止まらないとしたら。

 僕は恐ろしくてしょうがありません。
 日常はいともたやすく崩壊してしまう、ということがこの事件から理解できます。

 林氏の息子さんの言葉が印象的でした。
「幸せになってはいけないんじゃないか」
 何人もの人生が壊れていく。
 しかも冤罪の可能性が残っている。

 真相を明らかにするために、ぜひ再審を強く希望します。

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