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『ドント・ルック・アップ』(原題『Don’t Look Up』)の絶望感とほんの少しの希望


彗星が地球に衝突することを予測した学者が政治やメディアに振り回されるお話。こう書くと楽しげなコメディ映画に思われるかも知れない。だけど僕はこれを見終わって「最高に面白い映画だけどこの社会はクソで終わってんな」と絶望を深めた。
見終わると題名の意味が身に染みるようなストーリー構成になっている。

※以下ネタバレを含む内容となっております。ご注意ください。


■ 僕らはもう死ぬしかない

本作では政府やメディア、そして国民の愚かしさをとてもわかりやすく描いている。
半年後に人類が滅亡するというのに大統領選を気にしたり、彗星の軌道を変える作戦を取りやめた理由が「彗星にレアメタルが32兆ドル相当含まれてる」だったりする。
人類が滅びる可能性よりも32兆ドルを取る大統領を国民は選んだということだ。

これを見てもまったく笑えない。
映画自体はとても面白くて笑っちゃうんだけど、この社会のことを考えるとまったく笑えない。
みなさんが大好きなSDGsを例にしよう。

持続可能な開発目標(じぞくかのうなかいはつもくひょう、英語: Sustainable Development Goals、略称:SDGs(エスディージーズ))は、17の世界的目標、169の達成基準、232の指標からなる持続可能な開発のための国際的な開発目標。
(Wikipediaより引用)

2030年までに達成しようとしている目標ですが、みなさんは実感としてどうでしょうか。
レジ袋からエコバッグに替えた程度で、プラスチックのストローを紙製に替えた程度で、二酸化炭素を減らした程度で、未来の地球は救われると思いますか?
2020年の二酸化炭素排出量は日本は5位です。中国が1位、アメリカが2位です。
中国が約9800万トン、アメリカが約4400万トンに対し日本は約1000万トンです。二酸化炭素を問題視するのならば、日本が半分に減らすより中国やアメリカがもっと減らした方が効率的でしょう。
40kgの人が体重を減らすのは大変だけど、100kgの人が体重を減らすのは簡単でしょう。健康のためにもダイエットしましょう。

映画の内容から逸れましたが「彗星」か「異常気象」かという違いだけで、本作と現実とでは大きな違いは感じない。
我々はこの映画のように、馬鹿な政府に翻弄され、クズなメディアに印象操作され、超富裕層に生活を踏みにじられながら、眼前まで滅亡が迫って初めてうろたえて、その後一瞬で滅亡していくだろう。
何が悲しいかって、この馬鹿な政府もクズなメディアも、そうしたのは僕らだってことだ。超富裕層が世界の富を独占しているのも、どうにもならない程の力を彼らに預けてしまった結果だ。
その結果32兆ドルと地球を天秤に掛け、32兆ドルに飛び付く奴らに僕らは支配されている。

こんな人類に生きる価値なんかあるか?無いだろ。
この映画を見ればもう僕らはこのまま黙って滅びるしかないと覚悟が決まる。
どうせ誰も何もしない。エコ情報に絡め取られて搾取されるのがオチだ。

■ 見上げないで

物語が進むと、「空を見上げろ!」と悲痛に訴える学者側と、それに対するカウンターとして「空を見上げるな!」という彗星否定派とが対立する。
政府やメディア、超大金持ちのCEOなどの振る舞いにより「見上げるな!」という勢力が勢いを増していくのだが、それが本作のタイトルとなっている。
この時点では「妄言など信じるな」というメッセージとなっているが、実際に彗星が地上から目視できるレベルになると意味合いが変化する。
CEOの彗星分解作戦が失敗に終わると大統領達は一目散に地球から脱出、空を見上げて大混乱に陥る人類と対比するかのように主人公である学者たちは大切な人たちと静かに夕食を楽しむ。過去を懺悔したり、他愛もない会話を楽しみながら崩壊を待つのだ。
「見上げろ!」(現実を見ろ)と叫び続けた主人公たちは最期になって空ではなく手に届く距離の、目の前にある掛け替えの無い現実を見つめる。

この社会は最悪だ。
SDGsも虚しく最悪が加速し続けて決して好転しないだろう。
でも最期に大切な人たちと会話したり、思い出に浸る時間は十分残されている。
見上げていないでまずはすぐ手が届く幸せを握りしめよう。

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