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『エッシャー通りの赤いポスト』は『マトリックス レザレクションズ』だ

園子温監督最新作『エッシャー通りの赤いポスト』は『マトリックス レザレクションズ』だった。

配給会社に無理矢理つまらない映画を作らされそうになり、人気女優を土壇場でねじ込まれる。
ボット(エキストラ)ではなく自分の人生に目覚めることを推奨する。
そして目覚めるよう通行人に叫ぶとエージェント(警察)に排除されてしまう。
仮想世界から現実世界へ(マトリックス)と、エキストラから非エキストラへ(エッシャー通りの赤いポスト)という違いはあるが物語に刻まれているメッセージは通底している。

園子温監督は以前から観客に「お前は本当にお前か」と問い続けてきた。
「あなたはあなたの関係者ですか?」(『自殺サークル』)というセリフや、現実感を喪失させる物語構成(『奇妙なサーカス』、『夢の中へ』)、そして血縁ごときでつながっているウソ家族よりも演技でこそ真の家族を体現できる(『紀子の食卓』)というメッセージがそうだ。

本作は園子温監督の過去作をセルフオマージュしている。
「小林監督心中クラブ」は『自殺サークル』に出てくる「自殺クラブ」だろう。
『紀子の食卓』や『奇妙なサーカス』の劇中歌が流れ(たと思うのですが確証が無いので園子温マニアの方答え合わせお願いします!)、
監督が走るシーンは『ヒミズ』や『地獄でなぜ悪い』を想起させる。
そしてラストは『東京ガガガ』を思わせるゲリラロケで原点回帰を高らかに宣言する。

渋谷ユーロスペースでこの映画を観た僕は、その足でスクランブル交差点に向かって歩いていた。本当はラストシーンのあと叫んで立ち上がりたかったが恥ずかしがり屋なので出来なかった。
さっき安子と切子が叫んで警察に捕まった場所を歩き、「僕は本当に僕の関係者なのか」と問うた。

『エッシャー通りの赤いポスト』は『マトリックス レザレクションズ』だ。
どちらもいかに現実がクソでボット(エキストラ)になるなと訴えている。
与えられた台本と役を演じるなと訴えている。
そして目覚めるためには愛が必要であるところも同じだ。

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