【民意を踏みにじる大阪広域行政一元化条例案】NO.2
小西 禎一さん(元大阪府副知事)
〈条例対象とする政策分野〉
条例の対象とする分野は成長、まちづくりに関するものとしていて、消防・水道は別途広域化を検討としています。消防・水道を対象外としたのは当然。しかし、全市町村に関わる問題を大阪府市だけの会議では言わんといてほしい、と思います。また、住民投票の際、消防自動車の到着時間が早くなるのが都構想のメリットと宣伝していた。これは「朝日」のファクトチェックで嘘だ、と報道されましたが、その消防をいとも簡単に対象外にする。「都構想」を考える人は、行政に対する姿勢がいい加減でコロコロ言うことが変わります。教育も対象外としていますが、直前に市立高校を府立高校に移管した。都合のいいことばっかり言っています。
〈府市の一体化・広域一元化、2つの方法〉
一つは施策分野に係る方針・計画は副首都推進本部で決定するとしています。そして副首都推進本部を地方自治法上の府と市の連絡調整会議より強固な仕組みとするとしています。具体的にどのような仕組みにするかは明らかではないが、問題は副首都推進本部で決定する意味は何かという事です。府も市もそれぞれの意思決定の仕組みがあり、議会の議決を要するものもあります。それを副首都推進本部で決めたことはやらなアカン!と拘束力を持たせるとなると問題です。市の意志決定をどっかにやってしまう事になります。これは、市の持ってる団体自治権を放棄する、議会の議決権を侵害する、ある意味、憲法に違反する恐れもあります。これはさすがにできないでしょう。では何の意味があるのか!?意味を持たせたら大問題、大問題を避けようとすると全く意味がない事になります。
もう一つの方法が先ほど説明した事務委託です。事務委託は先ほども説明したように他に任せた方が便利・効率的だから、金は払うが権限は失ってしまうけど委託するというものです。政令指定都市ができて50年ぐらい、大阪市は何の問題もなくやってきています。府に委託する理由がそもそもないのです。これを事務委託するのは、事務委託制度の濫用です。指定都市制度というのは政令で指定すればその市はより多くの権限を行使できる、監督も直接主務大臣が行うというものです。事務委託制度を使ってその権限を府に委託してしまうと指定都市制度を作った意味がなくなる。大都市区域特別区設置法は非常に問題がある、いい加減な法律だと思います。しかし、このいい加減な法律でも指定都市の廃止には住民投票で賛成多数を要件としている。事務委託を使って事実上指定都市の権限をなくすのはこの法律にも違反することとなります。機関の共同設置も大変問題があります。例えば、道路行政、大阪市が行っているのはあくまで大阪市内の行政であり、大阪府は府全体をみます。同じ道路行政と言っても視点が違う、考え方も違う、経験値も違うのです。単に同じ仕事をしているからといって組織を統合することに何の意味があるのでしょうか。むしろ、民間でも会社合併で大変な混乱がおこっているように、組織の混乱、疲弊が想定されます。また、すでに共同設置している機関について、条例でまた位置づけるというのですが、規約を作って、両方の議会の議決を経て、地方自治法ですでに手続きを行っています。そのことをまた条例にわざわざ書くことに何の意味があるのでしょうか?
〈まとめ〉
府市連携と府市一体化は似て非なるものです。連携は、大阪府、大阪市の自主性・自立性を前提とするもので、その場合意見の不一致は当然ありうることです。同じ住民福祉の向上でも、市民のことを考える、府民全体のことを考えると意見が一致しないこともあります。その場合立ち止まることも選択肢の一つ、選択の道です。彼らはそれを否定し、常に意見が一致しないといけないと言う。府市一体というのは市の自主性、自立性を認めないということになります。府市連携とは全く異なります。これまで大阪府は堺市が指定都市になることを応援、中核市も大阪は全国で一番数が多い。橋下知事の下では「地方分権改革ビジョン」を策定し事務処理特例条例による権限移譲を進めるなど、府は市町村の権限を強めることをズーっとやってきました。当然市町村の発言権は強くなりますが、大いに議論しようよ、何が大阪のためになるか考えようとズーっとやってきたのです。この頃は府の職員として面白かった。広域行政のダイナミズムがありました。今やっていることは逆です。意見が一致しないとあかんというのです。これは気持ち悪い、あり得ないです。一致しなかったら議論したらいいのです。意見の不一致をなくすために市の権限を少なくしたらええなどといつからこんな情けないことになったのか哀しい思いで一杯です。府市連携と府市一体化は全然違うのです。大阪府は地方分権を進めてきた。国と地方、都道府県と市町村の関係を上下の関係から対等協力の関係に、市町村の権限を増やしていこう、できるだけ住民の意向に沿って行こう、これが地方分権の流れです。彼らがやっていることは明らかに逆行しています。府市一体化、彼らと我々の立場の違いは何か?大阪府域全体の成長を目指すのか?都心中心の成長を目指すのか?彼らは大阪市をなくしたら、市内の投資が進む、そのことで周辺も潤うといいます。そのための仕組みを作りたいと言うのですが、今回のコロナ感染拡大でこの成長論の破綻が明らかになりました。集中したらアカンのです。密を避けなアカンのです。大阪全体でどう住み、働くかという成長論が必要です。彼らの成長論はコロナの下で破綻しています。彼らは未だにどこまで行ってもインバウンド頼みです。それでは明らかにアカン。どうやって経済を回すのか、大阪の中でどう成長させるのか、持てる力をどう成長させていくのか。府域全体の成長を目指すのか、都心中心の成長でいいのか。この条例案に対する態度の根っこには、地方自治に対する根本的な対立があるし、考え方の違いがある。これからの大阪にとって一番いい道は何かを考えていく必要がある。その観点から府市一体化・広域化一元化条例を考える必要があると考えています。ありがとうございました。