インディ・ジョーンズのライバルたち

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 2008年、『ハヤカワミステリマガジン』に書いたもの。特集として、冒険小説や映画に出てくる「インディ・ジョーンズのライバル」たち、つまり、秘境冒険ものや宝探しものの主人公たちを紹介した原稿を何人かで分担して書いたモノで、以下に示すとおり、私の担当は、インディ・ジョーンズっぽい他の映画のヒーローたちなのでした。皆さんの好きな作品は入っているでしょうか?(個人的には、どんな映画や小説の主人公よりも、菊地秀行さんの『トレジャーハンター』シリーズの主人公、八頭大が、インディ・ジョーンズの最大のライバルのような気がしているのですが、それはさておきw)

 ちなみに、以下に紹介したもののうち、『パイレーツ・オブ・カリビアン』は5作目の、『ハムナプトラ』はリブート版の製作が、それぞれ進行中だとか。個人的には『トゥームレイダー』のリブート版も観てみたいものです。とか書いてたら、『インディ・ジョーンズ』をリブートしようとしてるという話をネットで見かけちゃったり(苦笑)。

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『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』ジャック・スパロー(海賊)
 驚異的なヒット作となった『パイレーツ・オブ・カリビアン』三部作は、元々は製作会社であるディズニーのテーマパーク、ディズニーランドに設置されたアトラクション「カリブの海賊」を下敷きとしている。そのため、映画中には、アトラクションのセットと類似した場面がいくつも登場する。
 とはいうものの、主人公である海賊のジャック・スパロー自体は、アトラクションとは関係ない、まったくの映画オリジナル版キャラで、その造形は、演じているジョニー・デップの演技による創作の部分が大きい。
 アトラクションの「カリブの海賊」は、十七世紀から十九世紀初頭にかけてカリブ海を荒らし回った海賊たちを題材に採った、ディズニーランドとしては珍しいシリアスさを持つものだが、映画のほうは徹頭徹尾お遊びに徹した娯楽作品になっており、凶悪な海賊たちも皆どこかかわいげのあるキャラとなっているのがおもしろい。
 その中でもジャック・スパローは、主役とは思えないアンチ・ヒーローぶりを全編にわたって発揮、もう一人の主人公であるウィル・ターナーを翻弄し続ける。
 戦うよりはおしゃべりと逃げ足でピンチを切り抜け(どう見ても剣の腕はウィルより下)、金に汚く、女にだらしなく、酒に目がない無節操なお調子者。正義の味方どころか、悪の大物にも見えない。とても、荒くれ者どもを束ねる海賊船の船長には見えないお調子者。そのくせ、どんなピンチに陥っても、絶対になんとか切り抜け、ぬけぬけと舞い戻ってくる食えないヤツ。ただし、見事お宝を手に入れているところはあまりお目にかかったことがない。それがキャプテン・ジャック・スパローだ。
 要は、「ゲゲゲの鬼太郎」に出てくるネズミ男を二枚目にして、むりやりヒーローにしたらこんな感じになるのかも。
 ウィルの激烈な運命の変転に隠されて見過ごし勝ちだが、そんなジャックのキャラに合わせるかのように、映画全体のストーリーも、ディズニーお得意の勧善懲悪とはひと味違う、善も悪も関係なく「自由」そのものをひたすら称揚するという、少々毒のあるものになっているのが特徴。
 ちなみに、映画公開後、各地のディズニーランド内にある「カリブの海賊」は続々と改装、ジャックが登場する新バージョンとなっている。

『ロマンシング・ストーン/秘宝の谷』『ナイルの宝石』ジャック・コルトン、ジョーン・ワイルダー
『ロマンシング・ストーン/秘宝の谷』とその続編『ナイルの宝石』が、〈インディ・ジョーンズ〉シリーズと決定的に違うのは、主人公たちが能動的に事件に飛び込んでいくのではなく、普通の人たちが大変な事件に巻き込まれてしまう、いわゆる「巻き込まれ型」の物語になっているところ。
 物語に合わせてか、主人公二人の設定も、インディと比べるとずいぶんと地味でリアルだったりする。
 ヒロインのジョーン・ワイルダーは、ニューヨークに住むロマンス小説作家。恋と冒険に憧れてはいるものの、なんせ基本は都会の女性なんで、いざジャングルでの冒険に巻き込まれるとまったく役に立たないことおびただしい。
 一方、彼女が南米で知り合い、行動を共にすることになるジャック・コルトンは、ヨットで世界を旅する日々を夢見ながらも、しがないガイドに甘んじている貧乏人。ジョーンよりはサバイバルに長けてはいるものの、インディのような冒険家とはほど遠い。
 そんな二人が、成り行き上、およそ不釣り合いな冒険行をする羽目になるというのが、本シリーズの特色となっている。だから、アクション自体もある程度リアルというか抑えめになっている。普通の人にはインディみたいなことはできないってことである(笑)。
 本シリーズのもう一つの特色は、ジョーンとジャックの恋愛映画にもなっているというところ。
 都会育ちでどちらかというと晩熟な感じの女性であるジョーン(なにせ、自分の妄想を小説にして生計をたててるような人だったりする)が、自分の小説に出てくる理想的な男性たちとは違う、良いところもあれば悪いところもある現実の男性、ジャックに惹かれていくという筋立てになっているのだ。特に、最初のうちはお互い相手のことを嫌っているのが、行動を共にするうちに段々好意を寄せ合うようになるあたりは、まさにハリウッド伝統のロマンティック・コメディそのものだ(一作目のラストでめでたく結ばれたと思ったら、二作目の冒頭では倦怠期っぽくなっちゃって、振り出しからやり直しちゃうあたりも、実にお約束っぽくて良し)。
 というわけで、このシリーズは、「もしかしたら、わたしでも」と観客に一瞬錯覚させてしまうような、大人のための冒険恋愛映画なのだ。

『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』『ハムナプトラ2/黄金のピラミッド』リック・オコーネル(元外人部隊隊員)
『ハムナプトラ』は、原題のThe Mummyが示すように、一九三二年公開の古典ホラー『ミ
イラ再生』のリメイク作品だ。
 内容こそ、ホラーから大冒険活劇へと大幅に変わっている(ミイラの表現も、単に包帯を巻いた人ではなく、魔法を駆使する神出鬼没にして不定形の怪物を、最新の特撮技術で描いている)ものの、時代設定はオリジナルと同じになっているところがミソ。
 時代設定を過去に置くこの手法は、〈インディ・ジョーンズ〉シリーズも採っているが、秘境探検ものにつきものの荒唐無稽さを、観客に意識させないようにする効果がある。
 また、本シリーズの場合、一九二〇年代のエジプトを舞台にすることで、オリジナル版の時代情緒をそのまま再現しているという点もおもしろい。
 主人公であるリック・オコーネルの設定も、元はフランス外人部隊に所属していたアメリカ人というあたりに、時代色が出ている。
 インディと比べると、知識と教養には欠けるが、そのぶん体力と行動力は負けず劣らず。なによりも、どんな敵にも屈しない不屈の闘志がウリの、マッチョなヒーローであるところが特徴。
 なにしろ魔法を操る人外の怪物たちを相手に、ほぼ徒手空拳(元軍人なので、銃器の扱いには長けており、常に複数の銃を携行しているが、毎回そんなものでは歯が立たない相手に立ち向かうことになるので、結局最後には剣で斬り合ったり素手で殴ったりということになるところがご愛敬)で戦いを挑むのだからものすごい。
 そのくせ、一匹狼のようで実はチームワーカーなところがあり、一作目では、共に宝探しの旅に出たエヴリンとその兄ジョナサンと共闘、エヴリンと結婚したあとの二作目では、さらにエヴリンとのあいだに生まれた息子のアレックスも加えたオコーネル一家全員が、チームワークよろしく戦っていて、リック本人もすっかり頼れるお父さん風になっているのがおかしい。
 本シリーズは、この夏、待望の第三作『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝』が公開予定。前二作での敵役イムホテップはついに今回は登場しない代わり、今回は中国に舞台を移し、蘇生して世界征服を企む始皇帝のミイラ(演じるはジェット・リー!)にオコーネル一家が果敢に立ち向かうことになるとか。公開が今から楽しみだ。

『ナショナル・トレジャー』『ナショナル・トレジャー2/リンカーン暗殺者の日記』ベン・ゲイツ(歴史学者、冒険家)
『ナショナル・トレジャー』シリーズは、宝探しといっても、毎回、アメリカ史にまつわる宝を探すことになるので、途中で海外に行くことはあっても、結局はアメリカ国内に戻ってきてしまうという、いわば「ご近所クエスト」なところが特徴の、一風変わったシリーズだ。
 二作目では、パリ、ロンドンを経てからアメリカに戻ってラシュモア山へと向かったからまだしも、一作目など、冒頭でアラスカに行った以外は、延々とアメリカ東海岸部の街を巡っていただけなのだ。逆に言うと、わざわざ秘境に出かけたりしないで、街中で宝探しをすることで、現代を舞台にしてもきちんとある程度のリアリティを持ったストーリーを展開させてしまったという、逆転の発想が見事なシリーズだと言えるだろう。
 また、狙うお宝も「アメリカ独立宣言書」だったり、「リンカーン大統領暗殺犯の日記」だったりと(いずれも、その後に出てくる本当の財宝の「前ふり」ではあるのだが)、地味、というか、歴史的な古文書であるところも特徴。
 主人公のベン・ゲイツは、たぶん今回の特集で取り上げられているキャラクターの中でも、最弱のヒーローだろう。
 彼の取り柄は何と言ってもその頭脳。博学にして推理力抜群の歴史学者としての才能を最大限に生かし、いかなる謎や暗号も解き明かし、秘匿された真実に迫ってみせるのだ。
 考古学と歴史学という違いはあれど、自身の専門とする学問に対する情熱や、謎解きの才能などは、インディに最も近いキャラクターだとも言えるだろう。問題は、インディ同様、大胆な冒険にすぐ乗り出すわりには、彼と比べると、圧倒的に暴力には弱いという弱点があるというところか。
 もう一点、インディと似ているところは、本人以上に学究肌の父親がいて、いまいち頭が上がらないところ。しかもこのお父さん、やたらと元気が良いうえに、口うるさくて、いつまでも息子を子供扱いしているところも、よく似ている(笑)。
 インディと違うところといえば、冒険行自体はあまり公にせず、大学では普通に先生をしているインディと違って、自分に正直に学会では異端の説をどんどん唱えてしまうもので、世間的には変人扱いされがちなところ。もっとも、まわりの反応など気にせず我が道をいってるあたり、変人の資格は大ありかも。

『トゥームレイダー』『トゥームレイダー2』ララ・クロフト(考古学者、トレジャーハンター)
『トゥームレイダー』は、元々は難易度の高さで知られる超人気コンピュータゲームだ。
 その主人公であるララ・クロフトは、ゲーム版と映画版とで設定に若干の差違はあるものの、基本的な部分は同じである。
 いわく、彼女はイギリス貴族の家に生まれたものの、若くして両親を失い、その所領を受け継いだ。宝探しは彼女にとって、趣味と実益(博物館などに売りさばいて多額の報酬を得る)、さらには考古学者としての研究の三つの側面を兼ね備えている。トレードマークは、ノースリーブのシャツに短パン、ポニーテールに二丁の自動拳銃という出で立ちである。等々だ。
 考古学者であり冒険家でありトレジャーハンターであることから、ララはまさに現代女性版インディ・ジョーンズであると言うことができるだろう。
 インディとの違いは、(元がアクションゲームであることに起因しているのだが)その抜群の戦闘能力だろう。格闘技に長け、ありとあらゆる武具や火器を操り、車やバイクはおろか飛行機の操縦までやってのけ、さらに映画版では、007やバットマン顔負けの秘密兵器を次々に使用してみせるという、スーパーウーマンなのだ。しかも、暴力についてはインディよりも過激なほどで、敵は容赦なく撃ち殺す非情さを持っている。
 もう一点違うところは、言うまでもなく、彼女が女性だというところ。男だらけのインディのライバルたちの中にあって、紅一点、セクシーでグラマラスな美女なのである(なんといっても、映画版ではアンジェリーナ・ジョリーが演じている)。
 さらに言えば、イギリス貴族であるというところも、他の冒険家たちとはずいぶん違うところだろう。
 父祖から受け継いだ豪華な邸宅(といっても、内装を大幅に改装し、秘密基地化してあるが)で日頃は優雅に暮らしているのだ。
 また、若くして親を亡くしていることから、孤独であることを好み、誰とも深い関わりを持とうとせず、そのせいで未婚をとおしており、親しいと言える人間は、屋敷に同居する執事と技術者の二人のみ。
 このあたりの孤独なキャラクター設定は、インディよりもバットマンに近い。美貌と優雅な生活の影に、孤独を隠し、ひたすら冒険を求めて秘境へと出かけていく、悲しいヒーローなのである。

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