サム・ペキンパー作品全解題・映画編2

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 映画編その2は、あの『ビリー・ザ・キッド』から最後の作品となった『バイオレント・サタデー』まで。
 ちなみに、『コンボイ』は公開当時、日米双方で大ヒットしたんですけど、今となってはその理由はよくわかんないかも。いや、私は好きですよ、あの妙にゆるいところとかも含めて。

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『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』
PAT GARRETT AND BILLY THE KID
1973年 米 
ゴードン・キャロル=サム・ペキンパー・プロ製作
配給 MGM
カラー(メトロカラー)
パナヴィジョン
108分(修復版123分)
製作 ゴードン・キャロル
脚本 ルディ・ワーリッツァー
撮影監督 ジョン・コキロン
音楽 ボブ・ディラン
編集 ロジャー・スポティスウッド
   ガース・クレイヴン
   ロバート・L・ウルフ
   リチャード・ハルジー
   デヴィッド・バーラッキー
   トニー・デ・ザラガ
出演 
パット・ギャレット:ジェームズ・コバーン 
ビリー・ザ・キッド:クリス・クリストファーソン 
ルー・ウォーレス判事:ジェイソン・ロバーズ 
アラモサ・ビル:ジャック・イーラム 
キップ・マッキニー保安官:リチャード・ジャッケル 
ベイカー夫人:ケティ・フラド 
エイリアス:ボブ・ディラン 
ベイカー保安官:スリム・ピケンズ 
ブラック・ハリス:L・Q・ジョーンズ 
ルーク:ハリー・ディーン・スタントン 
オリンジャー:R・G・アームストロング 
イーノ:ルーク・アスキュー 
ポー:ジョン・ベック 
J・W・ベル保安官代理:マット・クラーク 
ボウドル:チャールズ・マーティン・スミス 
マリア:リタ・クーリッジ
ウィル:サム・ペキンパー

ストーリー
 西部に悪名を轟かせた若き無法者ビリー・ザ・キッドは、ニューメキシコにあるフォート・サムナーという町で仲間たちと陽気に暮らしていた。
 そこへ、かつての仲間パット・ギャレットが現れ、自分が町の保安官に就任したこと、5日以内に町を去らねば逮捕するということを告げる。
 パットの警告を無視したビリーは、投獄されて縛り首の判決を受けるが、パットの留守中、仲間たちの手引きで看守たちを射殺、脱獄をはたす。
 パットはビリーのあとを追跡して町を出るが、内心はビリーにメキシコへと逃げて欲しがっていた。だがビリーは、逆に町に舞い戻ってきてしまう。町の有力者たちとの対立を、さらに深めていくビリー。
 そしてついに、ビリーとの最後の対決を覚悟したパットが、町へと帰ってくる……。

解説
 失われゆく古き良き西部への郷愁という、ペキンパーがくり返し取り上げてきたテーマを、実在のアウトロー、ビリー・ザ・キッドを題材に映像化した作品。
 主人公のビリーをシンガーソングライターのクリス・クリストファーソンが演じ、音楽をやはりミュージシャンのボブ・ディランが担当(ディランは映画にも出演している)しているところがおもしろい。
 本作の原題は「パット・ギャレットとビリー・ザ・キッド」で、作品の内容的にも、実は主役はビリー一人ではなく、ビリーを撃ち殺したパットをもう一人の主人公として均等に描いている。
 ちょうど、『ワイルドバンチ』のパイク(ウィリアム・ホールデン)とディーク(ロバート・ライアン)がそうであったように、本作中のビリーとパットは同じ人間の表と裏のようなものなのだ。

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『ガルシアの首』
BRING ME THE HEAD OF ALFREDO GARCIA
1974年 米 
マーティン・ボーム=サム・ペキンパー・プロ製作
配給 ユナイト
カラー(デラックスカラー)
112分
製作 マーティン・ボーム
製作総指揮 ヘルムート・ダンティーネ
脚本 サム・ペキンパー 
   ゴードン・ドーソン
原作 フランク・コワルスキー
撮影監督 アレックス・フィリップス・Jr
音楽 ジェリー・フィールディング
編集 ガース・クレイヴン
   ロブ・ロバーツ
   セルジオ・オルテガ
   デニス・E・ドーラン
出演 
ベニー:ウォーレン・オーツ 
エリータ:イゼラ・ヴェガ 
クイル:ギグ・ヤング 
サペンスリー:ロバート・ウェッバー 
首領:エミリオ・フェルナンデス 
パコ:クリス・クリストファーソン 
マックス:ヘルムート・ダンティーネ

ストーリー
 メキシコで広大な牧場を営む「首領」は、愛娘を妊娠させた男アルフレッド・ガルシアの首に100万ドルの賞金をかけた。
「首領」の部下であるマックスは、殺し屋たちを集めてガルシア探しを開始する。
 場末のバーでピアノを弾いていたピアノ弾きのベニーは、聞き込みに現れた殺し屋たちの話を聞きかじり、ガルシアの首にかけられた賞金のことを知ると、一山当てようとひそかに自分でガルシア探しを始める。
 ベニーは情婦のエリータから、ガルシアがすでに死んで生家の墓に埋葬されていることを聞き、マックスに首を一万ドルで買い取ってもらう約束を取りつける。エリータを伴ってガルシアの墓へと向かったベニーは、殺し屋たちにあとをつけられ、エリータは殺され、ガルシアの首は持ちさられてしまう。怒りに燃えたベニーは、殺し屋たち、そしてその背後にいるマックスと「首領」に復讐するべく、決死の戦いを開始する……。

解説
 本作でペキンパーは、長年ペキンパー作品の重要なバイプレイヤーとして活躍してきたウォーレン・オーツを主役に据え、人生の敗残者として生きていた男が、押し殺していた憤怒を爆発させるさまを凄絶に描いてみせた。
 主人公のベニーは、他のペキンパー作品の主人公たちと比べると、明らかにヒーロー性に欠ける人物として描かれている(『わらの犬』のデヴィッド(ダスティン・ホフマン)でさえ、それが良いか悪いかはともかく、成功した知的エリートという特長を持っている)。そのベニーが、何もかもを失い、自暴自棄に近い形で溜めに溜めてきた怒りを吐き出すクライマックスは、構造的には日本のヤクザ映画に似てはいるものの、そこには爽快感はなく、ただただ痛切な痛みが存在している。
 本作でもまた、残虐かつ暴力的な描写に溢れてはいるが、それを無条件に肯定しているわけではないというペキンパーの姿勢が、はっきりと打ち出されているのである。

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『キラー・エリート』
THE KILLER ELITE
1975年 米 
エクスター=パースキー=ブライト・プロ製作
配給 ユナイト
カラー(デラックスカラー)
116分
製作 マーティン・ボーム
   アーサー・ルイス
   レスター・パースキー
製作総指揮 ヘルムート・ダンティーネ
脚本 マーク・ノーマン
   スターリング・シリファント
原作 ロバート・ロスタンド
撮影監督 フィル・ラスロップ
音楽 ジェリー・フィールディング
編集 ガース・クレイヴン
   トニー・デ・ザラガ
   モンテ・ヘルマン
出演 
マイク・ロッケン:ジェームズ・カーン 
ジョージ・ハンセン:ロバート・デュヴァル 
ローレンス・ウェイバーン:ギグ・ヤング 
キャップ・コリス:アーサー・ヒル 
ジェローム・ミラー:ボー・ホプキンス 
イェン・チュン:マコ岩松 
マック:バート・ヤング

ストーリー
 民間警備組織「コムテグ」の工作員マイクは、同僚のジョージと共に亡命政治家のボロドニー護衛の任務についていた。
 ところが、ジョージは突然ボロドニーを射殺、マイクの肩と肘も撃ち抜いて逃亡してしまう。
 長いリハビリ生活の末、ようやく現役復帰を果たしたマイクのもとに、アメリカ滞在中の台湾人政治家の護衛という新たな任務が持ち込まれる。
 政治家の命を狙っている敵の中に、ジョージが混じっていると知ったマイクは、任務を引き受け、旧友のマックとジェロームに協力を頼む。
 さっそく護衛を始めたマックたち三人に、ジョージら暗殺者たちが襲いかかる。激しい戦いの末、敵を撃退したマックは、背後に潜む裏切り者の存在を知るが、彼らの前にはさらに武装した忍者軍団が立ちはだかるのだった……。

解説
 暴力に対するペキンパーの懐疑的な姿勢が、明確に「皮肉」や「諧謔」といった形を取り始めてしまった最初の作品。
 原作は、イギリスを舞台にアメリカ人スパイが亡命中のアフリカ人大統領を護衛するという、典型的なスパイスリラーだった。
 だが、様々な事情で舞台をアメリカに変更することとなり、そこにペキンパーが従来のアクション映画を揶揄するようなユーモアを入れたいと主張して、さらに脚本改稿に呼ばれたシリファントが自身の東洋趣味を盛り込んでしまい、白昼のサンフランシスコに黒装束の忍者集団が登場するような奇怪なストーリーができあがった。
 しかも、それを完全なコメディとして撮るのではなく、いつものペキンパーらしいタッチで演出したものだから、どこまでがシリアスでどこからがおふざけなのか判然としない怪作となってしまったのだった。

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『戦争のはらわた』
CROSS OF IRON
STEINER - DAS EISERNE KREUZ
1975年 西ドイツ/イギリス
ラピッド・フィルム/ビニットスカイ・セラーズ製作
配給 EMI=アブコ・エンバシー(日本配給 富士映画)
カラー(テクニカラー)
133分
製作 ウォルフ・C・ハルトウィグ
脚本 ジュリアス・J・エプスタイン
   ハーバート・アスモディ
原作 ウィリー・ハインリッヒ
撮影監督 ジョン・コキロン
音楽 アーネスト・ゴールド
編集 マイク・エリス
   トニー・ローソン
   ハーバート・タシュナー
出演 
スタイナー伍長:ジェームズ・コバーン 
ストランスキー大尉:マクシミリアン・シェル 
エヴァ:センタ・バーガー 
キーゼル大尉:デヴィッド・ワーナー 
ブラント大佐:ジェームズ・メイソン 
クルーガー:クラウス・レーヴィッチェ 
マーグ:ブルクハルト・ドリースト 
トリエヴィッヒ:ロジャー・フリッツ

ストーリー
 第二次世界大戦末期のロシア戦線。ソ連軍の反撃に敗色濃厚なドイツ軍の前線部隊に、新しい連隊長として貴族出身のストランスキー大尉が赴任してきた。
 部隊一の切れ者であり現場の叩き上げであるスタイナー伍長は、名誉欲ばかりが強いストランスキーと最初から衝突してしまう。
 スタイナーが戦闘で負傷して鉄十字章を受賞してしまったとき、自分も勲章が欲しくてたまらないストランスキーは、自分も受賞できるような内容の虚偽の報告書を作成、スタイナーに承認のサインを迫る。
 スタイナーはこれを拒否。怒ったストランスキーはスタイナーの小隊を最前線に送り込み、敵陣内に置き去りにする。スタイナーが戦死してしまえば、彼のサインなしでも報告書を提出でき、鉄十字章を受け取れると考えていたのだ。
 だが、スタイナーはゲリラ戦術を駆使、たった一個小隊で敵陣突破を試みるのだった……。

解説
 ペキンパー唯一の戦争映画であり、最後の傑作。戦争の持つ不条理な悲惨さを、通常は悪役を割り振られるドイツ軍兵士たちを主役に選ぶことで、鮮明に描写している。
 前作同様、「暴力」に対する皮肉っぽい姿勢は続いているが、この作品においては、それが戦争という巨大な暴力の無意味さを揶揄する方向に働き、物語自体のテーマと噛みあっており、アクション自体の迫力もあって、良い方向に作用している。
 ただし、製作自体は資金難や国際色豊かすぎるスタッフたちとの言葉の壁といった問題が山積みで、かなり厳しいものだったらしい。
 また、結局この作品もまたアメリカでは限定公開となってしまい、国外でばかり評価が高いペキンパー作品の一つとなってしまった(ちなみにイギリスでは、本作の人気がもととなり、キャストもスタッフもまったくかぶっていない続編が製作された)。

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『コンボイ』
CONVOY
1978年 米 
EMI製作
配給 ユナイト(日本配給 日本ヘラルド映画)
カラー(デラックスカラー)
パナヴィジョン
118分
製作 ロバート・M・シャーマン
   マイケル・ディーリー
   バリー・スパイキングス
脚本 B・W・L・ノートン
撮影監督 ハリー・ストラドリング・Jr
音楽 ジェリー・フィールディング
編集 グラエム・クリフォード
   ジョン・ライト
   ガース・クレイヴン
出演 
ラバー・ダック:クリス・クリストファーソン 
メリッサ:アリ・マッグロー 
ライル・ウォーレス:アーネスト・ボーグナイン 
ピッグ・ペン:バート・ヤング 
未亡人:マッジ・シンクレア 
ヴァイオレット:キャシー・イエーツ 
スパイダー・マイク:フランクリン・アジェイ 
チャック・アーノルディ:ブライアン・デイヴィス 
ハスキンス知事:シーモア・カッセル 
ハミルトン:ウォルター・ケリー 
ビッグ・ナスティ:J・D・ケイン

ストーリー
 巨大なトラックに大量の荷物を載せ、アメリカ中を駆け回るトラック野郎たちの一人ラバー・ダックは、天敵であるウォーレス保安官率いる覆面パトカーのおとり捜査に引っかかり、スピード違反の切符を切られてしまう。
 さらに保安官たちは、ラバー・ダックらのたまり場である酒場にもやってきて、ついにトラック野郎たちとケンカとなる。警官たちをノックアウトしたラバー・ダックは、その場の勢いで皆のリーダーに選ばれ、トラック野郎たちは彼を先頭に隊列(コンボイ)を組んで道路を疾走し始める。
 止めようと追いすがる保安官のパトカーを、二台のトラックを使ってペシャンコにつぶし、州境を越えて走り続けるうちに、コンボイには参加する車がどんどん増えていき、大集団へとふくれあがっていく。ラバー・ダックのトラックの荷が爆発物であるため、警察もFBIも手が出せない。
 だが、ついにテキサスで州知事が州軍を出動させる。待ちかまえる軍隊に向かってラバー・ダックはトラックを突進させていく……。

解説
 75年にC・W・マッコールが発表、全米で大ヒットした同題の歌をもとにして製作された作品。
 何者にも束縛されることを由としないトラック野郎たちを、現代のアウトローとして描くことで現代版『ワイルドバンチ』とでもいうべき作品を目指していたということだが、ストーリーはいかにも強引で説得力に欠ける。
 また、設定上トラックの運転席に座ったままの芝居が多く、演技派とは言い難い主役二人がどうにも映えない。
 そういった状況の中、ペキンパーは自作の暴力描写に対する「皮肉」へとまたも潜り込んでいってしまい、全編ロケでトラックの疾走を撮った部分などところどころ豪快な場面はあるものの、全体にはピリッとしたところのない作品となってしまっている。

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『バイオレント・サタデー』
THE OSTERMAN WEEKEND
1983年 米 
デイヴィス=パンザー・プロ製作
配給 20世紀フォックス
カラー(デラックスカラー)
102分
製作 ピーター・S・デイヴィス
   ウィリアム・N・パンザー
脚本 アラン・シャープ
原作 ロバート・ラドラム
撮影監督 ジョン・コキロン
音楽 ラロ・シフリン
編集 エドワード・アブロムス
   デヴィッド・ローリンズ
出演 
ジョン・タナー:ルトガー・ハウアー 
ローレンス・ファセット:ジョン・ハート 
リチャード・トレメイン:デニス・ホッパー 
バーナード・オスターマン:クレイグ・T・ネルソン 
マックスウェル・ダンフォース:バート・ランカスター 
アリ・ターナー:メグ・フォスター 
ジョゼフ・カルドーン:クリス・サランドン 
ベティ・カルドーン:キャシー・イエーツ 
ヴァージニア・トレメイン:ヘレン・シェイヴァー

ストーリー
 テレビの人気キャスターであるジョン・タナーは、CIA捜査官のファセットから奇妙な仕事の依頼を受ける。タナーの大学時代の同級生たちの中にKGBのスパイがいるので、彼らをタナーの別荘に呼び、隠しカメラで監視したいというのである。
 タナーはCIAのダンフォース長官へのインタビューを交換条件に、ファセットの申し出を引き受けてしまう。
 タナーは妻子を安全のために実家に帰そうとするが、二人は空港で何者かに襲われ、結局タナーと共に別荘に残ることになってしまう。
 そして週末、別荘にやってきたオスターマン、トレメイン夫妻、カルドーン夫妻を相手に、タナーは虚々実々の腹のさぐり合いを開始する。はたして誰がKGBのスパイなのか。疑心暗鬼となりながら真相を探るタナーの前に、事件の意外な真相が見えてきたとき、再び彼の妻子が命の危険にさらされる……。

解説
 ペキンパー最後の監督作品。
 ベストセラー作家ロバート・ラドラムの初期作品の映画化で、原作はラドラムらしい誇大妄想一歩手前のスパイスリラーに、犯人探しのミステリ風味を加えたもの。
 だが、その複雑なプロットを映画の長さにまとめるためもあって、細部を変更、敵の動機などを変えてしまったため、映画は原作よりも論理的な説得力に乏しくなってしまっている。
『キラー・エリート』もそうだったが、一直線に男たちの魂を歌いあげるペキンパーの作風と、冷たい計算と裏切りに満ちた謀略ものとは、もともと相性が悪かったとしか言いようがない。
 この作品が公開された翌年の1984年12月28日、サム・ペキンパーは心不全により59歳で他界した。

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