サム・ペキンパー作品全解題・テレビ編
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サム・ペキンパー解題第三弾! 最後となるテレビ編は、ぐっと時代を遡り、ペキンパーが映画を撮り始める前、テレビドラマの仕事をしていた頃の作品を紹介、その原点を探ります。今はなかなか入手困難かもしれませんが、『ライフルマン』はペキンパーのファンにはぜひ見ていただきたい作品です。
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【ペキンパーのテレビ時代】
サム・ペキンパーの映画監督デビュー作は『荒野のガンマン』だが、それ以前は、脚本家及び演出家として『ガンスモーク』や『折れた矢』といったテレビ西部劇を多く手がけていた。
それらの中でも、ペキンパーの作品として重要なのが『ライフルマン』と『遥かなる西部』の2つのシリーズだ。
特に『ライフルマン』は、ペキンパーが基本設定を書き上げ、初めて作品の核を作り上げる中心的役割を果たした記念すべき作品である。
もともと『ライフルマン』の第1話は、ペキンパーが『ガンスモーク』用に書き上げたものの、シリーズの他のエピソードと合わないという理由で没になったシナリオを、プロデューサーのディック・パウエルが買い取って映像化したものだった。
このパイロット版の好評を受けて、『ライフルマン』はシリーズ化が決定、ペキンパーも演出家の一人として、4エピソードを監督することになるのだが、この作品に関しては演出家としてよりも、脚本家として最初の数話を書き、シリーズの方向性を決定づけたことのほうが重要だろう。
物語は、ライフルマンの異名で知られる凄腕のガンマン、ルーカス・マッケイン(元プロ野球選手で、映画では敵役を演じることが多かったチャック・コナーズが好演)が、一人息子のマークと共に小さな町を訪れ、牧場を買い取ってそこに定住しようとするところから始まる。
ルーカスは妻に先立たれ、男手一つでマークを育てているという設定で、毎回のエピソードは、マークが父親であるルーカスの行動を通して、人として大事なことを学び、少しずつ成長していくという形をとっている。
ペキンパーは最初の1,2話と第4話の脚本を書き、主人公親子はもちろん、折に触れて登場する町の人々(判事や保安官、ルーカスと敵対する大地主など)のキャラクターを生み出し、作品世界全体の基本構造を作りだしている。
そこには、テレビサイズながらもきちんと緊迫感のあるアクションシーンが盛り込まれており、のちのペキンパーを彷彿とさせるものがあるが、なによりも親子の情愛と理想の父親像がしっかりと描き込まれていた。
実はそれこそ、カリフォルニア山麓の牧場地で生まれ、祖父から銃の撃ち方やロデオの乗り方を教わって育ったペキンパーにとって、もっともよく知っている馴染み深い題材だったのだ。
『ライフルマン』はまたたくまに人気番組となり、5年間も続くことになるが、ペキンパー自身は第2シーズンの最初の方でさっさと番組を降りてしまう。
後年ペキンパーは、あくまで、いろんな経験をしながら少年が大人に成長していく姿を描こうと考えていたペキンパーと、テレビの視聴者にあまり強烈な題材を見せたくないというプロデューサー側の意向とが食い違ってしまったからだと説明している。ペキンパーのリアリズム指向は、このような親子ものドラマであっても、当時のテレビ界にとっては刺激的な物語すぎたということだろうか。
『ライフルマン』から離れたあと、ペキンパーが新たに手がけたのが、『遥かなる西部』である。32口径のウィンチェスター銃を持ち、大きな雑種犬を連れて西部を流れ歩くガンマンのデイヴ・ブラッシンゲール(ブライアン・キース)を主人公にした西部劇で、ペキンパーは脚本、演出のみならず、プロデューサーとして製作の指揮も任されることとなった。
このドラマは、評論家の絶賛を浴びたが、やはり当時としては内容が少々過激だったということ(たとえば第1話では、一人の若者が売春婦となった幼なじみと再会するというエピソードが描かれている)と、テレビドラマの主流が30分から1時間番組へと移り変わる時期にぶつかってしまったことなどから、たった13話で打ち切りとなってしまう。
もっとも、この作品で主役のデイヴを演じたブライアン・キースと知り合ったことで、ペキンパーのキャリアは大きく変わることとなる。
キースは自分が主演する映画の監督としてペキンパーを推薦し、ペキンパーは待望の映画監督の仕事を手に入れたのである。そして、その作品こそが『荒野のガンマン』であった。
つまるところ、『ライフルマン』と『遥かなる西部』は、プロデューサーとの確執、評価の極端なばらつき、商業的な失敗などといった問題の萌芽が、すでにこの頃からサム・ペキンパーの作品にはつきまとっていたということを表している。が、それと共に、ペキンパーのドラマ作りの原点を知るための貴重な資料であり、なによりもいまだに色あせない魅力を持ったテレビドラマの秀作である。
栴檀は双葉より芳し。サム・ペキンパーは若かりし頃より、やはりペキンパーだったということだ。
【ペキンパーのテレビ作品】
●テレビシリーズ
ガンスモーク
GUNSMOKE
1955~75年 米 CBSテレビ
モノクロ 30分
出演
ジェイムズ・アーネス他
(ペキンパーが参加していたのは55年のみ)
折れた矢
BROKEN ARROW
1956~60年 米 ABCテレビ
モノクロ 30分
出演
ジョン・ラプトン、マイケル・アンサラ他
(ペキンパーが参加していたのは56年のみ)
ゼイン・グレイ劇場
ZANE GREY THEATER
1956~61年 米 CBSテレビ
モノクロ 30分
出演
ディック・パウエル他
トラックダウン
TRACKDOWN
1957~59年 米 CBSテレビ
モノクロ 30分
出演
ロバート・カルプ他
ライフルマン
THE RIFLEMAN
1958~63年 米 ABCテレビ
モノクロ 30分
出演
チャック・コナーズ、ジョニー・クロフォード他
ルート66
ROUTE 66
1960~64年 米 CBSテレビ
モノクロ 60分
出演
グレン・コーベット、ジョージ・マハリス他
(エピソードの1本を演出)
風雲クロンダイク
KLONDIKE
1960~61年 米 NBCテレビ
モノクロ 30分
出演
ラルフ・テイガー、ジェイムズ・コバーン他
遥かなる西部
THE WESTERNER
1960年 米 NBCテレビ
モノクロ 30分
出演
ブライアン・キース他
ボブ・ホープ・プレゼンツ・クライスラー・シアター
Bob Hope Presents the Chrysler Theatre
1963~67年 米 NBCテレビ
モノクロ 60分
出演
ボブ・ホープ他
(エピソードの1本を演出)
●テレビムービー
31丁目のペリクレス
PERICLES ON THE 31 STREET
1962年 米 NBCテレビ『ディック・パウエル・ショー』内の1エピソード
モノクロ 60分
(日本未放映)
ザ・ルーザーズ
THE LOOSERS
1962年 米 NBCテレビ『ディック・パウエル・ショー』内の1エピソード
モノクロ 60分
出演
リー・マーヴィン、キーナン・ウィン、ローズマリー・クルーニー
(日本未放映)
昼酒
NOON WINE
1966年 米 ABCテレビ『ステージ67』内の1エピソード
カラー 60分
出演
ジェイスン・ロバーズ、オリヴィア・デ・ハヴィランド
(日本未放映)
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