和食のプロが見た海苔とは?
昨年の10月に名古屋観光ホテルの日本料理「呉竹」で行われた「第2回日本料理呉竹料理教室」に、坂井海苔店は協賛の機会を頂きました。
同ホテルの和食料理長兼「呉竹」料理長の永田功氏によるデモンストレーション講義の後に、豪華な特別メニューを頂く、満足度の高い料理教室でした。主催は「ナオミ パンとクッキングサロン(momの店)」を主宰する南方直美氏です。永田料理長は、弊社の海苔を使った海苔料理を何点かご考案されました。
後日、永田氏と南方氏と自分で教室を振り返りました。開催の主旨や感想、プロの料理人からみた海苔についてお話して頂いたので、ご紹介します。
<お二人のプロフィールをご紹介>
永田功氏 profile
名古屋観光ホテル和食料理長兼日本料理「呉竹」料理長。18歳から料理の世界に入る。キャッスルプラザレストラン料理長、ナゴヤキャッスルレストラン料理長等を歴任し、2020年11月「呉竹」料理長に、2022年1月に和食料理長兼「呉竹」料理長となる。2022年愛知県優秀技能者(あいちの名工)受賞。
南方直美氏 profile
名古屋市名東区にて「愛情のある手抜き料理」に特化したお料理教室「ナオミ パンとクッキングサロン」と、お母さん集団が作る愛情のこもったお弁当とお惣菜のお店「momの店」を主宰。
お二人とも、いわば〝食のプロ″。中でも永田氏は、愛知が誇る和食調理人のお一人です。貴重なご意見もいただけました。では始めます。
<そのものがうまい海苔を、どう料理に使うか>
坂井:では最初に、このプレミアムな料理教室の開催主旨・目的を、南方先生お願いします。
南方:今回のような特別授業をすると、授業を受けた生徒さんたちの食に対する意識がうんと向上します。これこそ特別教室の開催の主旨、目的です。特に永田料理長の講義は、みなさん目をキラキラさせて。前のめりで受講していました。
こんにゃく屋さんにご協賛いただいた1回目開催の後、次は?という問合せが多くて。コロナも落ち着き、やっと2回目を開催できました。
こういう時代なので、いろんな業種の方々と手を取り合い、お互いの活性の場になればという思いもあります。
坂井:弊社もいろいろ勉強になり、とてもありがたく思っています。永田調理長は、このような料理教室はよく開いてみえるのですか?
永田:こういったお料理教室は以前からやっていますが、「呉竹」を会場としては、南方先生に2回、ホテル主催のものを3、4回でしょうか。ホテル主催の教室では、「呉竹」の料理をどうやって作っているのかを楽しんでいただいて。お料理を学ぶ以外にも、空気を楽しむといった面もあって、人気を集めているようです。
以前、米の協賛業者さんに入って頂いた料理教室をやったことがあります。その食材を深く知ることができ、自分にとってもいい勉強になりました。実際、その時に学んだことを、今も料理に取り入れています。
坂井:そうなんですね。調理長には今回、弊社の海苔を使った料理をご考案頂いたわけですが、海苔を使うことにどのような感想をお持ちになりましたか?
永田:和食を専門に、いいお値段を頂いて突き進もうとすると、一つのことを追求していくかたちが強くなります。ですから今回、海苔にこだわり、海苔って何なのか?というところを見させて頂けて良かったです。
試食もさせて頂きました。「桑名」は磯の香りが強めで、味が他の海苔とちょっと違う印象でした。
坂井:海苔は、焼き加減で味が変わってくる部分があります。甘めに焼いていると磯臭さが強めに出ます。しっかり焼くほど、磯の香りは消えていきます。
永田:海苔には、そういう部分があるのですね。
有明海の海苔はやっぱりうまかった(笑)。香りもいいし、味もいいし、口どけも他の海苔との違いを感じました。ただ、切ってある海苔を一切れずつ食べ比べただけの感想なので、もっとしっかり、ゆっくり食べ比べるとまた違う感想になるかもしれません。
南方:確かに、その時の体調とかでも味の感じ方は違ってきますよね。
永田: スタッフにも有明海は人気で、特に「有明海プレミアム」が一番美味しかった(笑)。
でもね、海苔を取り入れた料理を考えるのは難しかったですよ。
南方:やはり試作を重ねたのですか?
永田:実は僕、こんな感じにできるだろうと、頭の中で作っています。それで1回やってみてできるね、ということが多い。まあ、ぶっつけ本番ですよ(笑)。
南方:でも経験のない方にそれはできないので。経験、引き出しをたくさんお持ちで、それらを頭の中で組み合わせたり、掛算されたりしてみえるんですね。
永田:でも難しかった、海苔は(笑)
坂井:どんなところが難しかったですか?
永田:海苔は、海苔そのものがうまいじゃないですか。炙ってご飯、寿司に海苔巻き、海苔巻きにマグロが入って、醤油がつくからうまい。これ以上の形、見当たらないですよ。
僕が海苔の一番好きなところは、巻き寿司が巻いて置いてあるときの香りです。寿司酢と寿司シャリと素材と海苔が、合わさったとき出てくる香りで、食べた時にふわっと広がる。
そのときにシャリが硬いとよく噛まないといけないので、海苔の香りが薄れちゃう気がして。海苔は、できればあまり噛まないで、溶かして食べるぐらいがいいと思います。
坂井:溶かして食べるくらい、なるほど。
永田:和食に海苔を使った料理はあるんですよ。でも、家で作って食べたくなる料理というのが教室では大事だと考えているので、ちょっと発想が必要だなと思いました。
<それぞれの料理に、最も合う海苔を選ぶ>
南方:今回の教室では、基本の出汁とレシピ3品をレクチャー頂き、その中で海苔を使ったものは鉢肴の一品「柿乾酪磯焼き」でした。食パンに海苔2枚(有明海プレミアム)と柿、乾酪(チーズ)をのせて焼いたものですが、海苔と柿とチーズが絶妙のバランスで、ソースも美味しかったです。
永田:先生に相談して発想のヒントを得てできたのがこの料理です。柿から出るエキスがソースになっていて、海苔を2枚にして、海苔の香りもするように仕上げています。
坂井:柿とチーズと海苔による、新しい美味しさでした。
南方:献立には他に4品も海苔を使ったお料理があって、感動しました。
永田:それぞれの料理に合う海苔を、坂井さんと相談しました。
南方:「有明海プレミアム」を使った、口取の「戻り鰹一口寿司」もすごかったです。
坂井:絶品でした。
永田:戻り鰹一口寿司は、「鶉玉子 針葱 アボカド 大蒜添え」で、海苔と全部が合わさって、すごいことになっています(笑)。ポイントは大蒜で、卵黄でちょっとコクを加えて。このままつまんでもらって、最後残ったものを海苔でまとめてもらってもいいかなと。この料理は、食材に負けない海苔じゃないと合わないので、最高級の「有明海プレミアム」を使いました。
坂井:そうでしたね。「有明海プレミアム」は、お寿司屋さんからの注文も多い商品で、プロの料理人の方々にやはり定評があります。
永田:向付の「烏賊鳴門巻き」には、「三河湾プレミアム」の海苔を使いました。イカには海苔が合いますからね。
南方:焚合では、菊花蕪の「菊蕪含め 蟹餡掛け」を頂きました。目も楽しませてくれる華やかで美味しいお料理でした。
永田:蕪の炊き方にもいろいろあって、米油など油を入れて炊くと煮崩れしません。油でコーティングされているので、口の中で最初は少し硬いのですが、食べていくとしみ込んでいる出汁がじゅわっと出てきます。
トロトロにしたい場合は、一切の油を入れずに炊きます。水で戻してから炊くとさらにトロトロになりますが、蕪本来の味が弱くなります。
油を足したり、鶏を足したりという作業を、料理人はしています。
南方:しかも今回加えたのは、鶏油(チーユ)でしたね。これがすごいです。
永田:あれはちょっと工夫(笑)。鶏油を入れて炊くことで、コクが出ます。
鶏を射込んで蕪を炊くと鶏の脂が蕪を膨らませるので、今回のレシピでは鶏油を少し入れました。このほうがシンプルで美味しい。
蕪の炊き方一つでも、調理長、料理人によって違います。自分が一番引き出したいところをどこにするのか、です。
<文化・風土に合ったベストマッチがある>
坂井:「青まぜプレミアム」の海苔を使った「伊勢芋磯巻き揚げ」も美味しかったですね。
永田:伊勢芋は、卸して1日寝かせるとお餅みたいになります。でも、色変わりはありません。
南方:真っ白でした。
永田:そう。1日寝かせたものは餅みたいに固まって、揚げるとちょっと柔らかくなります。もっちりしながら、とろみがあるみたいな。
今回はお餅の磯巻きをイメージして、中に大葉と甘めの南高梅を叩いて入れました。裏ごしではなく叩いたのは、思ったより梅に酸味があったから。梅の香りと甘みと少しの酸味だけにしたほうが、海苔に合うと思ったからです。
南方:芋の種類によっても違いますよね?
永田:自然薯は黒くなりますし、大和芋は白くはなるけどうま味は薄くて香りがよくない。長いもは水っぽいですね。
伊勢芋は丸いも系で、水分が程よく抜けています。干してから出荷されるので、うま味が強くなっているのです。
山葵も1回干します。山葵のすりおろす部分は「いも」とも呼ばれ、採れたては水っぽい。干すと、香りと甘みと粘りが増えます。
南方:そうなんですね。
永田:ある料理人の方が作るきぬかつぎがすごく美味しくて、「どうしておやじさんのところのきぬかつぎこんなうまいですか?」と尋ねたことがありました。
「お前のばあちゃん農家やろ。芋どうやっとる?」と逆に聞かれて。祖母が採りたての里芋の土を落として、桶で洗って干していたことを思い出しました。
干すことによって甘みが出て、お芋さんがもっちりあがります。干さないと水っぽくて、採りたての新鮮な芋はだめなんですよ。
最近、「熟成」とよく聞きますよね。干したり、室で保存したりするのも熟成です。実は日本人は、熟成を何百年も前から、当たり前にやっていたのです。
南方・坂井:なるほど。
永田:小豆もそうですが、干したものを戻して炊いたときにうまい。これって文化がそうしているんですよ。歴史とか、土地とか、風土とか。こういった文化から、かけ離れて料理を考えていると何か違うぞとなってきます。
海苔だってそうです。有明海で採れた海苔であれば、有明海の風土に合った何かがあると思います。愛知や三重も海苔養殖が盛んだから、この土地に合ったベストマッチというものがきっとあるでしょう。
坂井:ああ、なるほど。
永田:ただ、海苔は出来上がっている。完成していると思うので、料理としては少し変化させているだけです。やりすぎちゃだめですよ、きっと。
<海苔は調味料という感覚を持ってもいい>
永田:最初に話に出た「柿乾酪磯焼き」ですが、すごくたくさん辛子がついていたでしょ?
南方:そうでしたっけ?
永田:普通だったら食べられない量を上にのせています。
坂井:あれ辛子だったんですか?
南方:辛子が入った何かソースだと思っていました。
永田:海苔、チーズ、辛子の組み合わせで、ああなるんですよ。
南方・坂井:えーーっ!
永田:辛子を何かで割ったりしたら、この料理の場合、負けちゃってだめですね。海苔も強いし、チーズも燻製したチーズを3種類合わせているので、それだけで旨味がとれる。そして、柿がきて甘味、香り、ソースがあって、辛子が入る。
辛子を中に塗ってやろうと思いましたが、それでは分からなくなるから上にのせました。少しでもパンとくるように。でも弱かったでしょ?
南方:いわゆる辛子という感じではなかったです。
永田:辛子も海苔に合うんですね。辛子、チーズ、海苔、これ良かったです。
山葵も、山葵、海苔、ご飯、醤油。ごま油と海苔も合うかなと思ったけど、ごま油は塩がうまかったですね。
坂井:留のご飯ものには、「青まぜプレミアム」を添えて頂きました。
南方:そこにも、ひと手間加えて頂いていましたね。
永田:海苔、つやつやになっていたでしょ。つやつやにしたんですよ(笑)。そのままでもいいけど、ご飯にちょっと合わせて、じゃましない程度にごま油を塗りました。
南方:ご飯との相性、バッチリでした。いくらの醤油漬けも頂けて。
永田:いくらをご飯に山盛りのせて、海苔を巻いて食べてもらうといいかなと思って。
海苔はあれですね、調味料という感覚を持ってもいいかもしれません。
坂井:調味料ですか?
永田:はい。海苔は当たり前にある食材ですが、ただ当たり前すぎて、それをメインにどんな料理を作るかという深堀りはあまりされていません。それよりも、調味料という感覚で取り入れると、広がりが出てくるように思います。
そうそう、最近は柿の種やポテトチップにもチョコレートがついているでしょ。海苔チョコみたことあります? ホワイトチョコレート、どうだろう。
坂井:ホワイトチョコレートと海苔ですか?
永田:刻んだクルミとかナッツとかのせて。もしくは木の実系とか。
南方:いいかもしれない!
永田:先生、ちょっと作ってみてくださいよ(笑)。
坂井:調理長のその想像力、掛け合わせる想像力、ほんとにすごいですね。
まだまだお話をお聞きしたいところですが、そろそろお時間になりましたので終わりにしたいと思います。今回、お二人とご一緒させていただいて、海苔屋として新たな学びがあり、また海苔の可能性も感じました。貴重なお話を、ありがとうございました。
永田・南方:ありがとうございました。
お問い合わせ先:
ナオミ パンとクッキングサロン(momの店)
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坂井海苔店
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