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【横浜】徳記の麺 広東料理

 くぅちゃん、という親友がいる。
 かつては仕事を通じて知り合ったものだが、どことなく気があって、ずっと長い付き合いを続けている。
 いつもわたしへ、まるで慈母のように生暖かい眼差しを向けてくる友達で、実際、なんだか見守られているような気分になること、しばしば。
 二人で出かけると、大抵は快晴であり、お互い強烈な晴れ女らしい。

 ……が。
 そこに一人、超絶雨女が加わってしまった。
 ゆずゆずという子で、最初は、夫が拾ってきた家出娘だった。
 そのことは、いずれお話しするとして……。
 一時期、よくこの三人で行動していたものだったけど、いずれも、雨に祟られる女子会散歩ばかりとなった。
 晴れ女、二人がかりでも大敗北!

 ゆずゆずとくぅちゃんとのことは、前に「浅草・駒形どぜう」でも述べた
 浅草へ行っても、雨。
 原宿で集まっても、雨。
 上野でビリヤードした時も、雨。
 横浜に至っては、むしろ嵐に近い雨。
 その後、浅草でくぅちゃんと二人だけで会った時は、実に見事な快晴で、
「やっぱり……ね」
 二人、うなずきあって苦笑したもんだ。

 今回は横浜女子会散歩のお話。
 なぜかぶち当たる悪天候にこりもせず「また三人で女子会散歩しよー」てことで、わくわくしながら、当日のコースを決めた。
 お昼は、関帝廟前の狭い路地へ入ったところにある〔徳記〕である。
 ここへは大学時代から、中華街へ来るたびに来ていた。
 言い方は悪いが、小汚い店内であり、店で働く小姐(シャオジエ)たちの愛想の、悪いこと悪いこと
 しかしそれが如何にも中国らしくて、わたしは大好きだった。
 メニューから注文する品を選んでも、小姐は、
「ん、ん、ん」
 ろくな返事もなしで注文を受け、それが済んだら、さっさと厨房へ引き返す。

徳記

 麺がとにかく美味しくて、その麺も中国らしい、まっすぐな麺。
 主に、牛バラ麺や酸辣湯麺あたりを食べることが多かった。
 基本は広東料理の味付けなので、いずれもまろやか。

 さて、くぅちゃんとゆずゆずの三人で女子会散歩をした時の、嵐の日。
 店の前に立ったわたしは、唖然としていた。
「違う……こんなの、徳記じゃない……」
 いつの間にか、綺麗に改装されていたではないか。
 店内も、実に明るい。
 さらに、店で立ち働く小姐たちの、愛想のよさったら……。
「え、わたし、別の知らない店に来ちゃった?」
 リニューアルしたのは、その数ヶ月前のことだったらしい。
 わたしの好きだった、無愛想な徳記は消えてしまったが、まあ、こっちの方が客のウケは良いに決まっているし、味は相変わらずの美味っぷりだから問題はない。
 この時のわたしは豚足麺を頼んだ。
 褐色に澄んだスープに、いつもの、ちぢれの無い麺。
 豚足は別皿。
 これを、レンゲと箸で、そっと麺の上へ移し、貪り喰う。
 骨は、小皿へ。
 コラーゲンたっぷり。

徳記の豚足そば
徳記の海鮮タンメン
徳記のメニュー

 その後は、中華カフェ〔萬来行〕でまったり時間を過ごし、雑貨を見たり、江戸清の肉まんを頬張ったりもした。
 ただ、あまりにも嵐すぎて、山下公園をぶらぶらする計画は断念した。

 ゆずゆずは、唐突に入ってしまった仕事のために、一足早く退散したが、残ったわたしとくぅちゃんは、そのままぶらり、山下公園の端っこにある〔人形の家〕へ行ってみる。

 ここへ来るのは二度目。
 展示してある人形たちには、静かな意思が宿っているようにも思え、かつ、見つめている内に、こちらの魂が吸い込まれそうな感覚すらおぼえたものだった。
 ……と、そんな話をしたがために、くぅちゃんはむしろ興味を惹かれたようで、
「絶対に行きたい!」
 ああ……行かざるを得なくなった。

 激しい雨模様の、しかも夕方の閉館間際とあって、客はわたし達のみ。
 くぅちゃんは、興味深そうに、スマホで撮影しまくっている。
 特に禁じられている訳でもないようで、好きなだけ撮り放題である。
 わたしはと言えば、防水処理を忘れていたせいで内部が大洪水になっている靴の中が気になって仕方なく、展示物どころではなかった。
 人形の怖さより、物理的な足の不快感が勝った。

 帰宅後、UGGのブーツはしっかり乾かし、執念のお手入れを施した。
 おかげで、シミができることもなく、防水もしっかりして、見事な復活を遂げてくれた。
 雨でも嵐でも、何でも来い、という気迫でいるわたしだが、幸か不幸か、あの時ほどの嵐の日に、まだ一度も遭遇していない。
 風来坊すぎて一箇所にとどまらない家出娘のゆずゆずが、あの後、東京を離れて、滅多に会えなくなったから、かもしれない。

横浜中華街

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